■ 柘 榴 の 間 ■
 
 
 
   

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†失踪†
中空に浮かんだ顔
見覚えがある筈だと云っているが
夜は口などきかぬがいいのだ
扉から飛び出すものは方角を失う
3月25日

†プロムナード†
百合の満ち満ちた街路の果ての
手を広げた銅像
香気で像の名は揺れている
歩みを止めると盤水は静まりかえる
3月25日

†船に乗る†
呼び声を聞きに戻ったのだ
刻み目をつけるための楔
惑わされるための標識
必ず夕刻には戻るだろう
3月24日

†透明なカサンドラ†
自らを食い荒らす虫のように
硝子の中の気泡は
決して真実を告げない
周辺によって定められた空白
3月24日

†実験室†
蒸留されてしまった記憶を
硝子壜(ふらすこ)の中に受けよう
百合が雨露を湛えるように
けれども焼けついた精髄は失われている
3月23日

†応答†
文字が踊りあがって血を流す
金属音が木霊する
標識は北
振り上げた杖は指し示す
3月22日

†清浄な庭†
椅子が倒れたままだ
春になったので起こしに来るだろうか
根を掘られた昨日の草の葉
拾い上げなければ良かったのに
3月22日

†二重映像†
見たことのない土地が映されていた
聞き覚えのある呼び声が遮られる
水晶の眼球はどこをさ迷ったのか
蓄音機の螺旋管は磨り減って止まる
3月21日

†飛行†
夢魔がやってきて
翼を与えようと言った
洞窟を下りる階段に佇む
地底湖に翻る手招き
3月21日

†会話†
シンバルの声、ドラムの声
ばちを打ち合わせて
群集を押し開いて
叫びだけが通りぬけようとしている
3月21日

†虜囚の記憶 II†
休日を詰めこんだ筐体が降りる
時計仕掛けの放浪者
翠に編まれた名札を捨てる
蛙の鳴き声などもう聞かないと
3月17日

†虜囚の記憶 I†
星を写す鏡を覗く
虜囚の記憶は紅色をしている
鳩は飛び立つなりもう戻らない
オリーヴの林に迷子になる
3月17日

†漂う時刻†
悪魔払いを念じる悦楽の園は
硫黄の立ちこめ燃え盛る
大音響に浄化されて
呼吸停止
3月17日

†光輪†
そうだ繰り返しなのだ、このリズム
円環の端から端を歩いて回れ
もう一度同じ物を選び取れと言った
綱渡りは落ちてそれでお仕舞いなのに
3月14日

†逃げ足の速い悪意†
夜の底の匂いを求めている
書棚の合間を縫う香は逃げる
悪意ともつかず悦びともつかず
脳髄は汚水に浸かっている
3月14日

†待ち針†
誰かが問い詰めている
長く答えのなかった問いを続ける
切っ先はそこに刺さったのではない
怠惰な四肢を縫いとめる
3月13日

†偏食動物†
肉食獣の優しさで値踏みする
赤色の濃淡を選び出す
草原で繋がれているのに
毒が欠乏していると言う
3月12日

†ジャム喰い†
夕暮れに浸されている
音楽は架空の梯子をかける
一匙の唄を掬っては舐める
阿片ジャムで時刻を殺す
3月7日

†扉†
活けられた花瓶の中で
また数字を待っている
水が腐ってしまったので
もう花びらは散るしかない
3月5日

†硝子壜†
数式が逃走する前に括る
白鳥の首にかける金の雫
紫の硝子には溜められた香煙
散乱した水滴を並べなおす
3月4日

†変身†
歪んだ窓ガラスが
地下の暗闇に真実を映す
犬の群れの中に蛙が一匹
鏡に向けて投げつけるがいい
3月4日

†滝†
押し寄せる波はかき分けねばならない
もっと高く山の上から
神は雷撃を好んだ
託宣は降り注いでやむことがない
3月4日

 
 

 
 
 
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