■ 日 暮 ら し ■

 

 

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無花果の園

正門

 
■2000/10/14 (Fri)

 
今夜は通夜だった。棺のそばから離れて私達は立っていた。蚊はいたかも知れないが、別にマラリアではなく、あの嫌な予防薬を飲んでいる人もいれば飲まずにいた人もいたけれど、本当にそれと知っている人はいなかったけれど、みんな何となく知っており、それはマラリアではないのだし、そして死んでしまった以上、何も起きはしないのだけれども、恐れようもないのに、何故だか離れて私達は立っていた。
死んだのは愚かな男だった。
不意のことで、誰も喪服を着ていなかった。ふっと仕方なくて誰かが笑っていた。それも仕方なかった。
「やっぱり愚かだったせいなのでしょう」誰かが言って、皆がそう思っていた。いつまでも頼りない話が何となく続いていた。そしてやっぱり笑ってしまった。
歌を思い出しそうで、でも思い出せなくて歌えなかった。思い出したら書いておこう。
哀れな男がいたものさ
足に帽子を履きながら
頭に靴をかぶってた
哀れな男がいたものさ
町でも人に笑われながら
平気でにやにや笑ってた

哀れな男がいたものさ
足に帽子を履きながら
頭に靴をかぶってた
片手に聖書をかかげては
片手で財布をすりとった

哀れな男がいたものさ
足に帽子を履きながら
頭に靴をかぶってた
誰かが靴を脱がせては
帽子をかぶせてやったけど
行きつく先は同じこと
後ろ向きに歩いては
店の果物踏み潰し
空っぽの心臓は
鼓動の一つもならさない

ある時誰かが言ったのさ
「靴をかぶっているように
俺にはちっとも見えないよ
そのまま奴を歩かせて
放っておいて行かせろよ」

それから哀れな男はそのまま
あいも変わらず歩いていた
ある日自分はイーサーと
信じ込んで火の中へ
炎が自分をよけるんだと
喜び勇んで飛びこんだ

城門には揺れる骸骨が
足には焦げた麦藁帽子
頭に靴紐くくりつけ
夜の風にゆらゆらと
揺れる骨の音は鳴り
町までずっと響いてた
町の眠りを妨げて
昼夜もなく響いてる

哀れな男がいたものさ
足に帽子を履きながら
頭に靴をかぶってた
今やすっかり骨ばかり
夜風にうめく骨ばかり

時折、棺おけに目をやっては、動いているのではないかと誰かが言うと、皆が笑った。腐る臭いがしみつくのではないかと、遠巻きにしていた。多分、もうすっかり燃やしてあって、腐るところなど残ってはいない筈だったのだが。
部屋の隅に赤いビロォドのカーテンが掛かっていた。その前に佇んで、そっとカーテンを開いて見た。
暗い闇に目がなれると、奇妙な揺れる影が見えた。

そこには鏡があった。

 

 

無花果の園
正門