元 - 漢字私註

説文解字

元

始也。从徐鍇曰「元者、善之長也、故从一。」愚袁切。

一部

説文解字注

元

始也。見『爾雅・釋詁』。『九家易』曰、元者、氣之始也。

从一兀聲。徐氏鍇云、不當有聲字。以从兀聲、䡇从元聲例之。徐說非。古音元兀相爲平入也。凡言从某某聲者、謂於六書爲形聲也。凡文字有義有形有音。『爾雅』已下、義書也。『聲類』已下、音書也。『說文』、形書也。凡篆一字、先訓其義。若「始也」「顚也」是。次釋其形。若「从某」「某聲」是。次釋其音。若「某聲」及「讀若某」是。合三者以完一篆。故曰形書也。愚袁切。古音第十四部。

康煕字典

部・劃數
儿部・二劃

『唐韻』『集韻』『韻會』𠀤愚袁切、音原。音1『精薀』天地之大德、所以生生者也。元字从二从人、仁字从人从二。在天爲元、在人爲仁、在人身則爲體之長。『易・乾卦』元者、善之長也。

又『爾雅・釋詁』元、始也。

又『廣韻』長也。

又大也。『前漢・哀帝紀』夫基事之元命。《註》師古曰、更受天之大命。

又首也。『書・益稷』元首明哉。『前漢・班固敘傳』上正元服。《註》師古曰、元、首也。故謂冠爲元服。

又本也。『後漢・班固傳』元元本本。

又百姓曰元元。『戰國策』制海內、子元元。『史記・文帝本紀』以全天下元元之民。《註》古者謂人云善人、因善爲元、故云黎元。其言元元者、非一人也。

又『公羊傳・隱元年』元年者何、君之始年也。『左傳註』凡人君卽位、欲其體元以居正、故不言一年一月。『羅泌・路史』元者、史氏之本辭也。君卽位之一年稱元、古之史皆然。書太甲元年維元祀、虞夏有元祀之文、非春秋始爲法也。

又氣也。『公羊傳註』變一爲元。元者、氣也。

又正月一日曰元日。『書・舜典』月正元日。《註》朔日。

又諡法、行義悅民、始建國都、主義行德、𠀤曰元。

又姓。『韻會』左傳、衞大夫元咺。又後魏孝文拓拔氏爲元氏、望出河南。

又『韻補』叶虞雲切、音輑。『桓譚・仙賦』呼則出故、翕則納新。夭矯經引、積氣關元。『史記・敘傳』莊王之賢、乃復國𨻰。旣赦鄭伯、班師華元。○按新、𨻰𠀤非文韻。

音訓義

グヱン(漢) ゴン(呉) グヮン(慣)⦅一⦆
かうべ⦅一⦆
はじめ⦅一⦆
もと⦅一⦆
おほきい⦅一⦆
官話
yuán⦅一⦆
粤語
jyun4⦅一⦆

⦅一⦆

反切
廣韻・上平聲』愚袁切
集韻・平聲二元第二十二』愚袁切
『五音集韻・中平聲卷第三・元第七・疑三元』愚袁切
聲母
疑(牙音・次濁)
等呼
推定中古音
ŋʏʌn
官話
yuán
粤語
jyun4
日本語音
グヱン(漢)
ゴン(呉)
グヮン(慣)
かうべ
はじめ
もと
おほきい
頭。元首。
始め。元始。元日。
もと。元々。元來。根元。
大きい。元勳。
王朝の名。
『廣韻』: 大也、始也、長也、氣也。又姓、左傳衞大夫元咺、又後魏孝文改拓拔爲元氏、望在河南。愚𡊮切。二十二。
『集韻』: 愚袁切。『說文』始也。首也。又姓。文三十九。
『康煕字典』上揭

解字

白川

象形。人の首の部分を丸く大きな形で示し、その下に人の側身形を加へる。首の意。

『說文』に始なりと元始の意とする。

戰場で命を全うして無事に歸還し、病に報告することを完といひ、結髮して廟に報ずるをといひ、虜囚を廟に獻じてこれをつことを寇といふ。

元に正、嫡、長、大の意があり、みな頭首の意から出てゐる。

自然界にも適用して、元氣、太元のやうにいふ。

藤堂

象形。(人體)の上に丸い・印(頭)を描いたもので、人間の丸い頭のこと。頭は上部の端にあるので、轉じて、先端、はじめの意となる。

落合

指示。の頭部を強調した形。頭部が人體の最も高い位置にあることから「最初」や「始原」を意味する。線の數が少ないものはの字形に當たる。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 動詞。祭祀名か。「はじめる」の意味とする説などもある。《合集》27894元、簋、叀多尹饗。
  2. 地名またはその長。《英藏》2562己未王卜在…貞、田元、往來亡災。
元示
殷初の祖先神のうち匚乙、匚丙、匚丁の三名を指す。この場合には上甲、元示、二示(または它示)といふ分類になる。三元示とも言ふ。《合集》25025辛巳卜大貞、侑自上甲、元示三牛、二示二牛、十三月。
六元示
殷初の祖先神である上甲、匚乙、匚丙、匚丁、示壬、示癸の六名を指す。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文は、と、圓點あるいは方形に從ひ、人の形に象り頭部を強調する。本義は頭。引伸して首位、首次(一回目)、開始の意。

甲骨文、金文は、人の頭に象る圓點あるいは方形を省略して橫劃とする。古文字は往々にして橫劃の上に更に短い橫劃を飾筆に加へる。發展して小篆や楷書の元となつた。元、は一字から分化した(林義光)。

【補註】漢字多功能字庫が元の甲骨文とする字のうち、人の頭部に方形を加へる形を、落合は、、人に從ふ亡失字(⿱亼兄に作る)の略體と推定する。冠字條も參照のこと。

元の上部の二橫劃は古い字で、上と人を合はせて人の上の方にある頭の意と解くとする學者がゐる(徐中舒)。按ずるに元字の最も象形的な字形は上部にただ圓點があるだけで二橫劃はなく、この説は元字の初形に據るものではない。

甲骨文の用義は次のとほり。

金文での用義は次のとほり。

甲骨文、金文に、本義に用ゐる例は見えないが、本義は文獻に保留されてゐる。

『說文』元、始也。从一从兀。を段玉裁は从一兀聲に改む。

始は元の引伸義。いま、元首は一國の首(首領、頭目)を表すが、これは元の頭を表す本義から派生したもの。

季旭昇

釋義

首なり。人の頭。下二例何れも本義(頭)に用ゐる。

後世、元との二字に分化した。兀の高而上平の義は假借義。始めの意は元の引伸義。

釋形

元と兀はもと一字。古い金文はに從ひ、頭部を誇張した筆法で大きく加へ、人の頭部を強調して表す。『說文』始也は引伸義。後に頭部が線條化して橫劃となり、字形を兀に作る。その後、上部に飾筆を增して橫劃が二本となり、元の字形と成つた。

兀の古音は疑紐物部、元は疑紐元部、聲母は同じで韻は近い。大徐本『說文』は會意と見る。『繫傳』は形聲説を否定し會意とする。段玉裁が兀聲とするのが比較的好い。

徐超

人に象りその頭部を突出する。兀と隸定する。短橫を飾筆あるいは指示符號として加へた後、元と隸定する。故に元と兀は一字、人の首(頭)の意。『孟子・滕文公下勇士不忘喪其元。の「喪元」は腦袋(頭)を失ふことを言ひ、正に本義に用ゐる。文獻に多く、第一、開始、本源などの引伸義に用ゐる。卜辭にあるいは開始の義に用ゐる。銘文にあるいは開始、第一、美善などの義に用ゐる。

屬性

U+5143
JIS: 1-24-21
當用漢字・常用漢字

關聯字

元に從ふ字を漢字多功能字庫・人部・元枝に蒐める。