宛 - 漢字私註

説文解字

宛

屈草自覆也。从聲。於阮切。

宀部
惌

宛或从

別條に揭出する。

説文解字注

宛

屈艸自覆也。上文曰、、宛也。宛之引伸義也。此曰屈艸自覆者、宛之本義也。引伸爲宛曲、宛轉。如『爾雅〔釋丘〕』宛中宛丘、『周禮』琬圭、皆宛曲之義也。凡狀皃可見者皆曰宛然。如『魏風・傳』曰、宛辟皃、『唐風・傳』曰、宛死皃、『攷工記・注』惌小孔皃、皆是。宛與薀、薀與𩰪、聲義皆通。故『方言〔十三〕』曰、宛、蓄也、『禮記』曰、兔爲宛脾、『春秋䋣露』曰、鶴無宛氣、皆是。

从宀夗聲。夗、轉臥也。亦形聲包會意。於阮切。十四部。

惌

宛或从心。函人爲甲。眡其鑽空。欲其惌也。鄭司農云、惌、小孔皃。惌讀爲宛彼北林之宛。按爲當作如。先鄭不云宛惌同字。許乃一之。

康煕字典

部・劃數
宀部・五劃
古文

『唐韻』『正韻』於阮切『韻會』委遠切、𠀤音琬。音1『說文』屈草自覆也。

又宛然、猶、依然。『詩・秦風』宛在水中央。《註》宛然、坐見貌。『魏風』好人提提、宛然左辟。《註》宛然、讓之貌。

又丘名。『爾雅・釋丘』宛中、宛丘。『又』丘上有丘爲宛丘。《註》宛謂中央隆高。

又平聲。『玉篇』『集韻』『類篇』𠀤於袁切、音鴛。音2大宛、西域國名、去長安萬二千五百里。

又縣名。『一統志』宛、本申伯國、春秋時屬晉、戰國爲韓宛邑、秦爲宛縣、漢因之、明屬南陽府。

又姓。『左傳』鄭大夫宛射犬、楚大夫宛春。

又去聲、於願切、音苑。音1小也。『詩・小雅』宛彼鳴鳩。《註》宛、小貌。

又入聲、紆勿切、音鬱。音3『史記・倉公傳』寒濕氣宛。與苑鬱通。

又叶於云切、音熅。『前漢・班固敘傳』漢武勞神、圖遠甚勤。王師嘽嘽、致誅大宛。

音訓義

ヱン(漢) ヲン(呉)⦅一⦆
ヱン(漢) ヲン(呉)⦅二⦆
ウツ(漢) ウチ(呉)⦅三⦆
ウン(推)⦅四⦆
ワン(推)⦅五⦆
ヱン(推)⦅六⦆
ヱツ(推)⦅七⦆
まがる⦅一⦆
かがむ⦅一⦆
あたかも⦅一⦆
あて⦅國訓一⦆
づつ⦅國訓二⦆
官話
wǎn⦅一⦆
yuān⦅二⦆
粤語
jyun2⦅一⦆
jyun1⦅二⦆

⦅一⦆

反切
廣韻・上聲・阮・婉』於阮切
『集韻・上上・阮・宛』委遠切
『五音集韻・上聲卷第八・阮第七・影三婉』於阮切
聲母
影(喉音・全清)
開合
等呼
推定中古音
ʔʏʌn
官話
wǎn
粤語
jyun2
日本語音
ヱン(漢)
ヲン(呉)
まがる
かがむ
あたかも
曲がる。曲げる。身を屈める。宛轉。宛丘。宛虹。
あたかも。さながら。宛然。
小さきさま。『康煕字典』は去聲に讀むとする(上揭)。KO字源、古今文字集成粵音資料集叢は本音とする。
『廣韻』: 宛然。『說文』曰「屈艸自覆也」。又姓、『左傳』有宛春。
『集韻』: 委逺切。『說文』屈艸自覆也。古作惌。文三十四。
『康煕字典』上揭

⦅二⦆

反切
廣韻・上平聲』於袁切
集韻・平聲二元第二十二』於袁切
『五音集韻・中平聲卷第三・元第七・影三鴛』於袁切
聲母
影(喉音・全清)
開合
等呼
推定中古音
ʔʏʌn
官話
yuān
粤語
jyun1
日本語音
ヱン(漢)
ヲン(呉)
縣名。
大宛は西域の國名(jawp)。
『廣韻』: 屈草自覆。又宛縣、在南陽。又音苑。
『集韻』: 縣名、在南陽。一曰、屈艸自覆。
『康煕字典』上揭

⦅三⦆

反切
集韻・入聲上迄第九』紆勿切
『五音集韻・入聲卷第十四・物第三・影三鬱』紆勿切
聲母
影(喉音・全清)
開合
等呼
官話
藤堂はyùを示すが參照した中文文獻には見えず。
日本語音
ウツ(漢)
ウチ(呉)
ふさがる。慍に同じ。
『集韻』慍惌宛: 心所欝積也。或作、亦省。
『康煕字典』上揭

⦅四⦆

反切
『集韻・上上・隱・惲』委隕切
『五音集韻・上聲卷第八・吻第三・影三惲』於粉切
聲母
影(喉音・全清)
等呼
日本語音
ウン(推)
蕰に同じ。
『集韻』蕰蘊菀宛: 『說文』積也。引『春秋傳』蕰利生孽。或作蘊菀、亦省。

⦅五⦆

反切
『集韻・上上・緩・盌』鄔管切
『五音集韻・上聲卷第八・緩第九・影一椀』烏管切
聲母
影(喉音・全清)
等呼
日本語音
ワン(推)
人名。
『集韻』: 闕。人名。『春秋傳』使宛來歸邴。

⦅六⦆

反切
集韻・上聲下𤣗第二十八』烏勉切
『五音集韻・上聲卷第八・獮第十一・影四宛』烏勉切
聲母
影(喉音・全清)
開合
等呼
『韻鏡』は外轉第二十四合に影母上聲三等とする。
『五音集韻』は四等とする。
日本語音
ヱン(推)
人名。
『集韻』: 烏勉切。闕。人名、鄭有大夫宛。文二。

⦅七⦆

反切
『集韻・入上・月・噦』於月切
『五音集韻・入聲卷第十四・月第六・影三𡡕』於月切
聲母
影(喉音・全清)
開合
等呼
日本語音
ヱツ(推)
『集韻』: 鄭康成曰、魚為宛脾。

國訓一

あて
宛先。宛名。
割り當て。あたり。

國訓二

づつ
割り當て。あたり。

解字

白川

の會意。

『說文』に艸を屈めて自ら覆ふなりとするが、そのやうな形象の字ではない。

宀は廟。夗は人が坐して、膝のふくよかな形。廟中に坐して神靈を拜する形であらう。

藤堂

(屋根)と音符の會意兼形聲。夗は、人が丸く身體をくねらせたさま。宛は、覆ひの下で身體を丸く屈めることを示す。

落合

會意。建物の象形であるが頭を垂れた形のに從ふ。恐らく祭祀の樣子であらう。但し夗は甲骨文では單獨での使用例がない。

甲骨文では、動詞に用ゐる。詳細不明。《合集》30268今日丁酉卜、王其宛麓[⿰亻⿱冉土]、弗悔。

篆文では人が、頭部がになつてをり、隸書以降に卩が㔾の形に變はつた。

漢字多功能字庫

甲骨文はに從ひ、讀みて館となし、住宿(宿泊)を表す。金文はあるいは旁を羨符に加へる。金文もまた讀みて館となす。仲義父鼎仲義父乍(作)新宛(館)寶鼎。「新宛(館)」は新しく作つた館のこと(劉釗)。戰國楚系文字では宛を借りて怨となす。字形は《上博竹書一・緇衣》簡6、12に見える。あるいは圓環を加へて聲符とし、字と區別する。(參: 李零、馮勝君、趙平安)

『說文』は宛の本義を屈草自覆、草を曲げて身の上を覆ふ意とする。古書にこの用法は見えず。徐灝注箋云夗者、屈曲之義。宛從宀、蓋謂宮室窈然深曲、引申為凡圓曲之稱、又為屈折之稱。屈草自覆未詳其指。

曲折、屈曲を表す。

好像、彷彿(いづれもさながらの意)を表す。

古い地名。今の河南省南陽に在る。

微小を表す。『詩・小雅・小宛』宛彼鳴鳩、翰飛戾天。毛傳宛、小貌。

苑と通じ、枯萎を表す。『詩・唐風・山有樞』宛其死矣、他人是愉。毛傳宛、死貌。

はつきり見えることを表す。

屬性

U+5B9B
JIS: 1-16-24
常用漢字(平成22年追加)

關聯字

宛に從ふ字を漢字私註部別一覽・夗部・宛枝に蒐める。