不 - 漢字私註

説文解字

不

鳥飛上翔不下來也。从、一猶天也。象形。凡不之屬皆从不。方久切。

十二不部

説文解字注

不

鳥飛上翔不下來也。凡云不然者。皆於此義引申叚借。其音古在一部。讀如德韵之北。音轉入尤、有韵讀甫鳩、甫九切。與字音義皆殊。音之殊、則弗在十五部也。義之殊、則不輕弗重。如嘉肴弗食不知其旨、至道弗學、不知其善之類可見。『公羊傳』曰、弗者、不之深也。俗韵書謂不同弗。非是。又詩鄂不𩏬𩏬。《箋》云、不當作柎。柎、鄂足也。古聲不柎同。

从一、一猶天也。他處云一地也。此以在上、知爲天。象形。不也。象鳥飛去而見其翅尾形。音見上。

凡不之屬皆从不。

康煕字典

部・劃數
一部・三劃
古文
𠀚
𠙐

『韻會』『正韻』𡘋逋沒切、補入聲。不然也、不可也、未也。『禮・曾子問』葬引至于堩、日有食之、則有變乎、且不乎。

又『周禮・夏官』服不氏、掌養猛獸而敎擾之。《註》服不服之獸者。

又『廣韻』『韻會』𡘋分物切。音1同。今吳音皆然。

又『韻會』俯九切、音缶。音2與可否之通。『說文』鳥飛上翔、不下來也。从一、一猶天也。象形。

又『玉篇』甫負切『廣韻』甫救切、𡘋缶去聲。音5義同。

又『廣韻』甫鳩切『集韻』『韻會』『正韻』方鳩切、𡘋音浮。音4夫不、䳡也。亦作鳺鴀。『爾雅・釋鳥』䳡其鳺鴀。《郉疏》陸璣云、今小鳩也。一名䳕鳩、幽州人或謂鷱鴡、梁宋閒謂之隹、揚州人亦然。

又未定之辭也。『陶潛詩』未知從今去、當復如此不。

又姓。『晉書』汲郡人不準。○按【正字通】云、不姓之不、轉注古音、音彪。

又『正韻』芳無切。與柎通。音3花萼跗也。『詩・小雅〔常棣〕』鄂不韡韡。《鄭箋》承華者、鄂也。不當作柎。鄭樵曰、不象萼蔕形。與旉通。『陸璣・詩疏』柎作跗。『束皙・補亡詩』白華絳趺。『唐詩』紅萼靑趺皆因之。

又華不注、山名、在濟南城東北。『左傳・成二年』晉卻克戰于鞌、齊師敗績。逐之、三周華不注。『伏琛齊記』引摯虞畿服經、不、與詩鄂不之不同。李白詩、兹山何峻秀、彩翠如芙蓉。蓋因華跗而比擬之。胡傳讀不如卜、非。又『古詩・日出東南隅行』使君謝羅敷、還可共載不。羅敷前致辭、使君亦何愚。使君自有婦、羅敷自有夫。〇按愚當讀若吾、疑模切、與敷不夫叶。敷不夫本同模韻、【正字通】不改音符、叶夫愚、非是。

又與丕同。『書・大誥』爾丕克遠省。馬融作不。『秦・詛楚文』不顯大神巫咸。『秦・和鐘銘』不顯皇祖。𠀤與【詩・周頌】不顯不承同。不顯不承、猶書云丕顯丕承也。

又『韻補』叶補美切、音彼。『荀子・賦篇』𥳑然易知、而致有理者與。君子所敬、而小人所不者與。所不謂小人所鄙也。

『正字通』不字在入聲者、方音各殊、或讀逋入聲、或讀杯入聲。司馬光切韻圖定爲逋骨切、今北方讀如幫鋪切、雖入聲轉平、其義則一也。

部・劃數
一部五劃

『玉篇』古文字。註詳三畫。

部・劃數
几部七劃

『字彙補』古文字。註詳一部三畫。

音訓義

フ(慣) ブ(慣) フツ(漢) ホチ(呉)⦅一⦆
フ(呉) フウ(漢)⦅二⦆
フ(漢)(呉)⦅三⦆
フウ(推)⦅四⦆
フウ(推)⦅五⦆
⦅六⦆
⦅一⦆
あらず⦅一⦆
いなや⦅二⦆
おほきい
官話
⦅一⦆
fǒu⦅二⦆
⦅三⦆
fōu⦅四⦆
粤語
bat1⦅一⦆
fau2⦅二⦆
fau4⦅四⦆
pei1⦅六⦆

⦅一⦆

反切
廣韻・入聲』分勿切
集韻・入聲上勿第八』分物切
『五音集韻・入聲卷第十四・物第三・非三弗』分勿切
聲母
非(輕唇音・全清)
等呼
官話
粤語
bat1
日本語音
フ(慣)
ブ(慣)
フツ(漢)
ホチ(呉)
あらず
否定詞。
『廣韻』: 與弗同。又府鳩、方久二切。
『集韻』: 無也。通作弗。
『康煕字典』上揭

⦅二⦆

反切
『廣韻・上聲・有・缶』方久切
『集韻・上下・有・缶』俯九切
『五音集韻・上聲卷第九・有第八・非三缶』方久切
聲母
非(輕唇音・全清)
等呼
官話
fǒu
粤語
fau2
日本語音
フ(呉)
フウ(漢)
いなや
疑問の助辭。に通ず。
否定詞。否に通ず。
『廣韻』: 弗也。『說文』作𠀚、鳥飛上翔不下來也、从一、一天也、象形。又甫鳩、甫救二切。
『集韻』: 『說文』鳥飛上翔不下來也。从一、一猶天也。象形。
『康煕字典』上揭

⦅三⦆

反切
『集韻・平二・虞・膚』風無切
『五音集韻・上平聲卷第二・虞第八・非三跗』甫無切
聲母
非(輕唇音・全清)
等呼
官話
日本語音
フ(漢)(呉)
柎に同じ。『詩經・小雅・常棣』にいふ「鄂不」は萼柎、花の萼のこと。
『集韻』柎𣘧不枎: 艸木房為柎、一曰華下萼。或作𣘧不扶。
『康煕字典』上揭

⦅四⦆

反切
『廣韻・下平聲・尤・不』甫鳩切
『集韻・平四・尤・不』方鳩切
『五音集韻・下平聲卷第六・尤第八・非三不』甫鳩切
聲母
非(輕唇音・全清)
等呼
官話
fōu
粤語
fau4
日本語音
フウ(推)
姓。西晋のとき、不準が戰國魏の王の墓を盜掘して汲冢書(jawp)を得たといふ。
夫不は鳥の名。また鴀に作る。(夫不あはせて鳺鴀に作る。)
『康煕字典』に未定之辭也粵音資料集叢未定之詞と見える。
『廣韻』: 弗也。又姓。『晉書〔束晳傳〕』有汲郡人不準、盜發六國時魏王冢、得古文竹書、今之汲冢記也。甫鳩切、。又甫九、甫救二切。五。
『集韻』不鴀: 方鳩切。鳥名、夫不、隹也。或从鳥。不、一曰、姓也、辭也。文十三。
『康煕字典』上揭

⦅五⦆

反切
『集韻・去下・宥・富』方副切
『五音集韻・去聲卷第十二・宥第八・非三富』方副切
聲母
非(輕唇音・全清)
等呼
日本語音
フウ(推)
『集韻』: 弗也。
『康煕字典』上揭

⦅六⦆

粤語
pei1
日本語音
丕との通用。大きい。
補注
KO字源は平聲支韻(平水韻)とする。

解字

白川

否定、打ち消しに借用する。

字はもと象形、花の萼柎の形であるが、その義に用ゐることは殆どない。

『說文』に鳥飛んで上翔し、下り來たらざるなり。一に從ふ。一は猶ほ天のごときなり。とするが、卜文の字形には一を含むことがなく、鳥の翔ぶ形でもない。

詩經・小雅・常棣常棣之華、鄂不韡韡。(常棣からなしの華、鄂不韡韡たり)とある鄂不は萼柎、花のつけ根のところで、これが字の本義に用ゐる例。

金文に「不顯」とあるのは「丕顯」、おほいにあきらかなるの意。萼柎に實がつき始めて丕となり、となり、割けて剖判となる。

不、丕、否は通用することがあり、金文に「不𫠭」「不𫫘」のやうに用ゐる。

藤堂

象形。不は芣や菩などの原字で、ふつくらと膨れた花の萼を象る。丕(膨れて大きい)、胚(膨れた胚芽)、杯(膨れた形のさかづき)の音符。

不の音を借り、をつけて否定詞のがつくられたが、不もまた否定詞に轉用された。意嚮や判定を打ち消すのに用ゐる。また、(拂ひ除け拒絶する)とも通じる。

落合

詩經・小雅・常棣』に「鄂不」の語があり、花萼の象形とする説が有力。甲骨文でも花の象形の華で花瓣の部分に類似形が使はれてゐる。

甲骨文での用義は次のとほり。すべて假借した助辭としての用法。

  1. 否定の助辭。主に動詞に對して用ゐられる。《甲骨拼合集》321貞、今十二月、不其雨。
  2. 前の文章を受け、その否定を表示する助辭。この場合にはと釋されることもある。《合補》6570丁未卜扶󠄀、侑學戊、不。
不用
驗辭としての用法では、命辭の内容が採用されなかつた(行はれなかつた)ことを指す。茲不用ともいふ。《殷墟花園莊東地甲骨》63乙卯卜、叀白豕祖甲。不用。
不⿱午丵黽
兆辭の一種。恐らく卜兆出現時に音がしなかつたことであらう。不⿱午丵ともいふ。

否は意符としてを加へた繁文、同源の字。金文に初出。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文の構形について二つの説がある。

一説には、は地面に象り、下部は植物の根鬚の形に象る、といふ(姚孝遂、何琳儀、趙誠)。本義は根鬚で、茇の初文(陳世輝)。陳世輝は、茇は不の後起の形聲字で、草の根を表す、とする。『說文・艸部・茇』艸根也。

また一説には、花萼の柎の形に象り、柎の本字といふ(羅振玉、王國維、郭沫若、徐中舒)。《段注》『詩』卾不𩏬𩏬。鄭玄《箋》云、不當作柎。柎、卾足也。古聲不、柎同。

甲骨文での用義は次のとほり。

金文では用義が五つある。

  1. 大を表し、典籍に丕に作る。
    • 頌鼎敢對揚天子不(丕)顯魯休。
    • 盠駒尊王倗下不(丕)其(基)は、盛大な業の基を築き上げることをいふ。
  2. 否定副詞。後世のに相當する。
    • 五祀衛鼎女貯田不(否)。
  3. 否定副詞。猶ほのごとし。
    • 善夫山鼎毋敢不善
  4. 國名。典籍に邳に作る。
    • 邳伯罍不(邳)白(伯)夏子自乍阝尊罍
  5. 人名、氏族徽號。
    • 子不爵子不
    • 不壽簋王姜易(賜)不壽裘

屬性

U+4E0D
JIS: 1-41-52
當用漢字・常用漢字
𠀚
U+2001A
𠙐
U+20650

關聯字

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