疑 - 漢字私註

説文解字

疑
惑也。从聲。徐鍇曰「止、不通也。𠤕、古矢字。反匕之幼子多惑也。」語其切。
十四子部

説文解字注

疑
惑也。惑、亂也。从子止匕、矢聲。此六字有誤。匕矢皆在十五部。非聲。疑止皆在一部。止可爲疑聲。『匕部』有𠤗、未定也。當作从子𠤗省、止聲。以子𠤗會意也。語其切。一部。

康煕字典

部・劃數
疋部九劃
古文
𦬦

『唐韻』語其切『集韻』魚其切『韻會』凝其切、𠀤音宜。惑也。『廣韻』不定也。『易・乾卦』或之者、疑之也。『禮・坊記』夫禮者所以章疑別微。以爲民坊者也。《疏》疑謂是非不決、當用禮以章明之。

又度也。『儀禮・士相見禮』凡燕見于君、必辨君之南面、若不得、則正方不疑君。《註》疑、度也、不可預度君之面位、邪立嚮之。

又『廣韻』恐也。

又『增韻』似也、嫌也。

又『爾雅・釋言』戾也。

又山名。『淮南子・原道訓』九疑之南、陸事寡而水事衆。《註》九疑、山名也。在蒼梧。

又神名。『山海經』符惕之山、其上多椶柟、下多金玉、神江疑居之。

又官名。『禮・文王世子』虞夏商周有師保、有疑丞。《疏》古者天子必有四鄰、前曰疑、後曰丞、左曰輔、右曰弼。

又『韻會』疑陵切『正韻』魚陵切、𠀤音凝、定也。『詩・大雅』靡所止疑、云徂何往。《傳》疑、定也。《疏》正義曰、疑、音凝。疑者、安靜之義、故爲定也。『莊子・達生篇』用志不分、乃疑于神。

又『集韻』魚乙切『韻會』『正韻』魚乞切、𠀤銀入聲。『儀禮・鄕射禮』賓升西階、上疑立。《註》疑、止也。有矜莊之色。『釋文』疑、魚乙切。又『士昏禮』婦疑立于席西。《註》疑、正立自定之貌。

又『集韻』『韻會』𠀤偶起切、同擬。『易・文言』隂疑于陽。『禮・射義』不以公卿爲賓、而以大夫爲賓、爲疑也。《註》疑、自下上至之辭也。《疏》疑、擬也。是在下比擬於上、故云自下上至之辭也。

又『韻補』叶魚記切、音義。『易・升卦』升虛邑無所疑也。

又叶魚求切、音牛。『賈誼・鵩賦』德人無累、知命不憂。細故芥蔕、何足以疑。

部・劃數
艸部四劃

『集韻』古作𦬦。註詳疋部九畫。

音訓

(1) ギ(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲』語其切〉[yí]{ji4}
(2) ギョウ 〈『韻會』疑陵切『正韻』魚陵切、音凝〉[níng]{jing4}
(1) うたがふ
(2) さだまる

音義(2)はとの通用。

解字

白川

象形。卜文、金文に見える字の初形は𠤕に作り、人が後ろを顧みて凝然として立ち、杖を樹てて去就を定めかねてゐる形。心の疑惑してゐるさまを示す。後に、あるいはの反文などを加へて疑となつた。

『説文解字』に字を子部に屬し、惑ふなり。子止匕に從ひ、矢聲。とするが、矢を含む形でなく、またその聲でもない。

金文に「亞𠤕形圖象」と呼ばれるものがあり、亞は玄室の儀禮を掌る聖職者。𠤕はその凝然として立つ形。

藤堂

(足を止める)と音符矣の會意兼形聲。矣は、人が後ろを振り返つて立ち止まるさま。疑は、愛兒に心引かれて立ち止まり、進みかねるさまを表す。思案に暮れて進まないこと。

落合

象形。甲骨文は、頭を横に向けて棒狀の物を持つた人の形に象る。考へてゐる人の姿とも、道に迷つた人の樣子とも言はれ、「うたがふ」は引伸義とされる。ただし甲骨文には原義での用法が見えず。初文は𠤕の部分に當たり、道の象形であるを加へた異體字もある。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 地名またはその長。甲骨文では出組の貞人として多く見える。また殷金文の圖象記號にも出現する。《合補》2226癸酉卜疑貞、旬亡禍。在三月。
  2. 占卜用語。吉凶判斷の語であり、降雨に關して記されてゐるが、命辭が缺損してをり、詳細不明。《合集》12532・後半驗辭…貞…王占曰、疑、茲迄雨。之日、允雨。三月。

字形は金文で[⿰彳𠤕]に意符として足の形のを加へ、古文で彳が省かれて聲符のを加へ、更に篆文で子と止が融合して現用の旁の形となつた。

漢字多功能字庫

初文は會意字。甲骨文はに從ひ、人が立ち(大)杖をつき(丨)首を橫に向け、どこに向かつて行くか分からず、キョロキョロ見回し、疑惑するところ有る形に象る(何琳儀)。

『説文解字』の註(徐鍇曰)の中で、立つ人の首を橫に向けるを「反匕」と解しこれを「幼子多惑」と解したが、甲骨文、金文の字形の成人の直立する形を見てゐないからにすぎず、「多惑」は却つて當たつてゐる。「止、不通」もまた再議することができる。甲骨文、金文は加へて、あるいはに從ふ。實際に表してゐるのは、道の途中や生活する中でのためらひである。彳や亍は道路の形に象り、歧路に當たり疑ひ有るの意。金文の幾つかの疑字の從ふ、雲夢秦簡や馬王堆帛書の疑字の從ふ、篆文隸書以後に從ふあるいは子は、いづれも異なる時期の聲符であらう。

屬性

U+7591
JIS: 1-21-31
當用漢字・常用漢字
𦬦
U+26B26

關聯字

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