之 - 漢字私註

説文解字

之
出也。象艸過屮、枝莖益大、有所之。一者、地也。凡之之屬皆从之。
六・之部

康煕字典

部・劃數
丿部三劃
古文
㞢

『唐韻』『正韻』止而切『集韻』『韻會』眞而切、𠀤音枝。『說文』出也、象艸過屮枝莖益大有所之。一者、地也。『玉篇』是也、適也、往也。『禮・檀弓』延陵季子曰、若䰟氣、則無不之也。

又於也。『禮・大學』之其所親愛而辟焉。《註》之、適也。『朱傳』猶於也。

又語助辭。『書・金縢』禮亦宜之。『禮・文王世子』秋冬亦如之。『正字通』凡之字、或句中、或語尾、或層出。如毛詩我之懷矣、共武之服、及女曰雞鳴章知子之來之、六句九之字、常華章左之左之、六句八之字、可以例推。

又此也。『詩・周南』之子于歸。《註》之子、是子也。

又變也。『易傳』辭也者、各指其所之。『孫奕示兒編』之字訓變、左傳、遇觀之否。言觀變爲否也。

又至也。『詩・鄘風』之死矢靡他。

又遺也。『揚子・法言』或問孔子、知其道之不用也。則載而惡乎之。曰：之後世君子。《註》言行道者貴乎及身、乃載以遺後世。

又姓。出『姓苑』。

又『郝敬讀書通』凡言之者、物有所指、事有所屬、地有所往、連屬之辭也。通作旃。『詩・唐風』舍旃舍旃。又『魏風』上愼旃哉。𠀤與之同。通作至。往彼曰之、到此曰至、音義互通。

又『韻補』叶職流切、音周。『楚辭・九章』呂望屠於朝歌兮、甯戚歌而飯牛。不逢堯舜與桓繆兮、世孰云而知之。叶上牛下求。

『周伯琦曰』古人因物制字。如之本芝草、乎本吁氣、焉本鳶、後人借爲助語、助語之用旣多、反爲所奪、又制字以別之、乃有芝字吁字鳶字。

部・劃數
屮部(一劃)

『玉篇』古文之字。『說文』出也。象艸過屮、枝莖益大、有所之也。一者、地也。

亦姓。隸作之。

廣韻

四聲・韻・小韻
上平聲・之・之
反切
止而切

適也、往也、閒也。

亦姓。出『姓苑』。

止而切。四。

四聲・韻・小韻
上平聲・之・之
反切
止而切

篆文。象芝草形。蚩從此也。

異體字

或體。

音訓

音
シ(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲・之・之』止而切〉[zhī]{zi1}
訓
ゆく。これ。この。の。

解字

白川

象形。足跡の形に象る。步の上半に當たり、左右の足跡を前後に連ねると步となる。足が前に進むことを示し、之往の義。

『説文解字』に出づるなり。艸の屮を過ぎ、枝莖益々大にして、之ゆく所有るに象るなり。一なる者は地なり。といふ。地より、屮、艸の伸びゆく形として、之往の意を導くが、趾あしの進む形。

一は境界のところ。そこに跟かかとの跡が殘るのは出。

之を代名詞、語詞に用ゐるのは假借であるが、代名詞としては卜文、金文に見え、語詞の用法は『詩』『書』に見え、古くからその義に用ゐる。

藤堂

象形。足の先が線から出て進み行くさまを描いたもの。進み行く足の動作を意味する。先(跣の原字。足先。)の上部は、この字の變形。

「これ」に當てたのは音を利用した當て字。是、斯、此なども當て字で、之に近いが、其と之、彼と此が相對して使はれる。また之は客語になる場合が多い。

落合

指示。足の象形である止と指示記號の橫線から成り、足を踏み出す樣子を表してゐる。止は亦聲符。但し甲骨文では「ゆく」の意での用例が見られず、全て假借した助辭の用法。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. この。連體修飾語。主に驗辭で使用され、之日は當該の日附、之夕は當該の夜間を指す。《合補》3694・後半驗辭壬申卜卯貞、今日、其雨。之日、允雨。三月。
  2. これ。ここ。三人稱の代名詞で目的語になる。《合補》8969戍其遲毋歸于之、[屮戈]羌方。

字形は隸書で止の部分が簡略化された。

漢字多功能字庫

甲骨文は止と一に從ふ。止は外に向いた人の足に象り、一は地に象る。足が前に行き、元の場所を離れて往かんとしてゐるところを指す(楊樹達、徐中舒、季旭昇)。之の本義は往くこと。『爾雅・釋詁』之、往也。

一説に、一は出發線で、まさに至字が矢と一に從ひ、一が終點線であるのと同樣であるとする(張日昇)。之は出發を表し、至は到達を表す。

甲骨文での用義は次のとほり。

金文は甲骨文の形を承け、止の形は僅かに誤り、段々と足の形を失ひ、小篆の本となる。金文での用義は次のとほり(參・金文形義通解)。

『説文解字』の説は甲骨文、金文の構形とは合はない。

屬性

之
U+4E4B
JIS: 1-39-23
人名用漢字
㞢
U+37A2
𡳿
U+21CFF

關聯字

之に從ふ字

漢字私註部別一覽・止部・之枝に蒐める。

其の他

又
甲骨文、金文に見える㞢の形の字は又の異體字あるいは通用字で、之の異體字の㞢とは別字。