思 - 漢字私註

説文解字

思
容也。从聲。凡思之屬皆从思。
思部

説文解字注

思
䜭也。䜭也各本作容也。或以伏生『尙書』思心曰容說之。今正。皃曰恭、言曰從、視曰明、聽曰聰、思心曰容、謂五者之德。非可以恭釋皃、以從釋言、以明聰釋視聽也。《谷部》曰、者、深通川也。引䜭畎澮歫川。引申之、凡深通皆曰䜭。思與䜭雙聲。此亦門捫也。戸護也、髮拔也之例。謂之思者、以其能深通也。至若『尙書大傳』次五事曰思心。思心之不容。是謂不聖。劉向、董仲舒、班固皆以寬釋容。與『古文尙書』作五曰思、思曰䜭爲異本。詳子所述『尙書𢰅異』。从心从𦥓。各本作𦥓聲。今依『韵會』訂。『韵會』曰、自𦥓至心如絲相貫不絕也。然則會意非形聲。細以𦥓爲聲。固非之咍部字也。息茲切。一部。凡思之屬皆从思。

康煕字典

部・劃數
心部・五劃
古文
𠂺
𡴓
𢍄

『廣韻』息兹切『集韻』『韻會』新兹切『正韻』息移切、𠀤音司。『說文』睿也。『書・洪範』思曰睿。『六書總要』念也、慮也、繹理爲思。

又願也。『詩・大雅』思皇多士。《箋》願也。『正義曰』以意之所思、必情之所願也。

又語巳辭。『詩・周南』不可泳思。又『大雅』神之格思。

又語起辭。『詩・大雅』思齊太任。又『魯頌』思樂泮水。

又『諡法』謀慮不愆曰思。

又州名。楚黔中地、唐置思州、以思邛水得名。

又姓。以諡爲氏、明有思志道。

又『廣韻』『集韻』『類篇』『韻會』𠀤相吏切、音四。『揚雄・甘泉賦』儲精垂思。

又悲也。『詩・小雅』䑕思泣血。《註》思、去聲、䑕思、哀以思。言悲也。

又『書・堯典』欽明文思。《註》道德純備謂之思。『音義』思、息嗣反。又如字。

又叶相居切、音須。『徐幹・室思詩』妾身雖在遠、豈違君須臾。旣厚不中薄、想君時見思。

又叶桑才切、音腮。多鬚貌。『左傳・宣二年』宋城者謳曰、于思于思、棄甲復來。

又念也。『易・咸卦』憧憧往來、朋從爾思。『詩・邶風』莫往莫來、悠悠我思。

『說文』从心囟聲。囟頂門骨空、自囟至心、如絲相貫不絕。

部・劃數
心部・六劃

『集韻』、古作恖。註詳五畫。

从囟从心。『六書精蕰』元神何宅。心爲之宅。元神何門。囟爲之門。

部・劃數
丿部・九劃

『集韻』、古作𠂺。註詳心部五畫。

部・劃數
廾部・六劃

『字彙補』古文字。註詳心部五畫。

異體字

或體。『康煕字典』に古文とするが、見出し字に採らず。

音訓・用義

(1) シ(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲』息兹切〉[sī]{si1}
(2) シ(漢、呉) 〈『廣韻・去聲・志・笥』相吏切〉[sì]{si3}
(3) サイ(漢、呉) 〈叶桑才切、音腮、平聲〉[sāi]{soi1}
(1) おもふ。かんがへる。ねがふ。
(2) おもひ(意思)

また句首、句末の助辭に用ゐ、音(1)に讀む。句首にあるときは「ここに」と訓ず。藤堂は、句末にあるときは讀まないとする。KO字源は句首句末とも無意味とする。

于思は音(3)に讀み、鬚(あごひげ)の多きさまをいふ。

解字

白川

形聲。正字はに從ひ、囟聲。囟は腦蓋の象形。人の思惟する働きのある所。

『説文解字』に容なりとあり、惠棟の説にふかきなりの誤りであらうといふ。深く思慮することをいふ字。

『詩』では終助詞に用ゐることが多いが、『魯頌・駉』思無邪(ここよこしま無し)のやうに句首に用ゐることがある。

藤堂

(頭)と(心臟)の會意。囟は、幼兒の頭に泉門(囟門)のある姿。思は、思ふといふ働きが頭腦と心臟を中心として行はれることを示す。小さい隙間を通して、ひくひくと細かく動く意を含む。

漢字多功能字庫

金文、簡帛文字、小篆のいづれをもに從ふ。囟は人の頭頂の「囟門」、「腦門」(新生兒の頭骨の未だ生長して合はざるところ。借りて頭腦を指す。古人は腦、心のいづれをも思惟の器官と考へた。

思字は心と腦を組み合はせて運用し、思考することを表す。本義は思想、思考、反思(再考、反省)。引伸して思緒(考へ、考への筋道、氣持ち、情緒)、思念などの意。

思字を現代人は心と田に從ふ形に作るが、これは隸變の結果である。思字の金文や小篆はいづれも實は恖に作り、囟と心に從ふ。粵語の「腦囟都未生埋」は他人が年少、幼稚で、思考し事情を分析することを知らざることを批評する。思字の囟は後に譌して田に作る。《馬王堆漢帛書・老子甲本卷後古佚書》では恖、思の二形を同時に用ゐてをり、譌變の過程の痕跡を遺す。

思字は、古人がいはゆる思想や思緒は、腦と心が通ひ合ふこと、「絲のやうに相貫き絶せざる」ことであると考へてゐたことを反映する。『説文解字』思、容也。從心囟聲。に思字が囟に從ふことは正確に記錄されてゐるが、「容也」の訓について、南唐の徐鍇や清の段玉裁などは「䜭也」の誤りとし、「深く通ず」と解く。《段注》謂之思者、以其能深通也。『玉篇』深謀遠慮曰思。しかるに、思字の深邃(奧深い)や深通到底は何から顯れ出でるものであらうか。熊忠『古今韻會舉要』は自囟至心、如絲相貫不絕也。と解釋する。張舜徽『說文解字約注』思之言絲也、謂纖細如絲、聯續不絕也。この中で、心と腦は相對され、古人は腦と心のいづれをも思維の器官と考へ、いはゆる思想は、またある一つの意義の「往返曲折」、西方の傳統にいはゆる「反省」(reflection)に關聯する。更に進めて、思字と密接に關係のある念字もまた類似の「反省」の構造を表現する。

佛教での思に對應する梵語はcetanaあるいはcintで、底を表し、心が境遇に從つて思慮、心志(意志)、意願(望み)を起こすことを指す。

思は七情の一つ。中醫(漢方醫學)では「脾主思」、思考と脾臟には關係があり、過度の思慮は脾臟を痛める、と考へる。

孔子は空想するより多く勤學することを主張した。『論語・衛靈公』子曰、吾嘗終日不食、終夜不寢、以思、無益、不如學也。

思は「思考」、「思辨」のやうに推理に重點を置く。想は「空想」、「幻想」、「理想」のやうに想像に重點を置く。官話口語の「思考」の意は多く想を用ゐて表す。『說文解字約注』古人言思、今語則言想。

金文では人名に用ゐる。

戰國竹簡では假借して使となす。

是宋國地名,那裏是一片水澤,多見逐水草而居的麋鹿,全句意謂楚穆王派遣華孫元驅趕孟渚的麋鹿。

また、古人は、心と腦を倂用し、意識の覺知は腦と身體が一緒に働くことで生み出され、心臟もまたその過程の途中で重要な役割を果たす、と考へてゐた。

屬性

U+601D
JIS: 1-27-55
當用漢字・常用漢字
U+6056
JIS X 0212: 29-69
𠂺
U+200BA
𢍄
U+22344
𡴓
U+21D13

關聯字

思に從ふ字を漢字私註部別一覽・心部・思枝に蒐める。