逢 - 漢字私註

説文解字

逢
遇也。从省聲。
辵部

説文解字注

逢
遇也。見『[逢 〔爾雅〕釋詁]』。从辵聲。符容切。九部。按夆、牾也。牾、逆也。此形聲包會意。各本改爲峯省聲。誤。『說文』本無峯。

康煕字典

部・劃數
辵部・七劃

『唐韻』『集韻』『韻會』𠀤符容切、音縫。『說文』遇也。从辵、峯省聲。『正韻』値也。『左傳・宣三年』不逢不若。『書・洪範』子孫其逢吉。

又『正韻』迎也。『揚子・方言』逢、迎、逆也。自關而西。或曰迎、或曰逢。

又逆也。『前漢・東方朔傳』逢占射覆。《註》逆占事、猶言逆刺也。

又大也。『禮・儒行』衣逢掖之衣。《註》衣掖下寬大也。

又閼逢、歲名。『爾雅・釋天』太歲在甲曰閼逢。《註》言萬物鋒芒欲出、壅遏未通也。

又與縫通。『禮・玉藻』深衣縫齊倍要。《註》縫、或爲逢。

又有逢、國名。『左傳・昭二十年』有逢伯陵因之。《註》逢伯陵、殷諸侯。

又姓。齊逢丑父。

又『廣韻』『韻會』蒲蒙切『集韻』『正韻』蒲紅切、𠀤音蓬。鼓聲也。『詩・大雅』鼉鼓逢逄。

又『前漢・司馬相如傳封禪書』大漢之德、逢涌原泉。《註》逢讀若㷭、言如熢火之升、原泉之流。

又叶符方切、音房。『韓愈詩』蕭條千萬里、會合安可逢。叶上江、下鄕。

○按从夅者、音龎。从夆者、音縫、音蓬。『顏氏家訓』逄、逢之別、豈可雷同。

音訓

(1) ホウ(漢) 〈『廣韻・上平聲・鍾・逢』符容切〉[féng]{fung4}
(2) ホウ(漢) 〈『廣韻』蒲蒙切『集韻』『正韻』蒲紅切、音蓬、平聲東韻〉[péng]
(1) あふ

音(2)は「逢逄」など、鼓の音の形容に用ゐる。

解字

白川

形聲。聲符は。夆は神の鉾杉のやうな木のつ枝に、神の降る意。

『説文解字』に遇ふなりと遭遇の意とする。

左傳・宣三年使民知神姦。故民入川澤山林、不逢不若。螭魅罔兩,莫能逢之(民をして神姦を知らしむ。故に民、川澤山林に入るも、不若(邪神)に逢はず。螭魅罔兩も之に能く逢ふ莫し。)とあり、神異のものに遭遇することを逢といふ。

本邦の「王莽時わうまうどき」は「逢魔時あふまどき」の意で、夕闇には魔物が跳梁すると考へられてゐた。

藤堂

と音符の會意兼形聲。は、△型の穗先を描いた象形字。夆は、それに(足の形)を加へて、兩方から步いて△型の峠の頂點で出逢ふことを示す。逢は、夆の原義をより明白に示した字。

落合

甲骨文は足の形()の上下逆向きのを意符、封の初文のを聲符とする形聲字(補註: に相當)。夂に從ふことから、相手側がやつて來て逢着することが原義と考へられる。甲骨文には既に進行を象徵するを加へた形がある(補註: 隸定形は𢓱)。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 動詞。逢着することであらう。但し甲骨文には目的語を記したものがない。《合集》16517…弗逢、有禍。用。十三月。
  2. 地名。《合集》36916癸未卜在逢貞、王旬亡禍。

古文で𢓱の字形に更に止を加へて、(辶)の部分となつた。

漢字多功能字庫

甲骨文はに從ひ聲。路上で鉢合はせになるさまに象る。

面と向かつて逢ふの意から、出迎へる、待ち受けるの意を派生する。『方言』逢、逆、迎也。自關而東曰逆、自關而西或曰迎、或曰逢。王維〈與盧象集朱家〉主人能愛客、終日有逢迎。

更に迎合、討合(?)の義を派生する。『孟子・告子下』長君之惡其罪小、逢君之惡其罪大。趙岐注君之惡心未發、臣以諂媚逢迎之、而導君為非、故曰罪大。君主に惡行あり、臣下がこれを助長する、この罪は小さい。君主に惡行あり、臣下がこれに迎合し、理窟を探し出し、憚ることなくさせる、この罪は大きい、の意(楊伯峻)。

金文はあるいはを加へる。廾は兩手の形に象る。これは逢の增繁の形。孫常敍は、逢の從ふ丰と廾は兩手で泥土を運んで木の根を覆ふさまに象り、兩方が突き當たり出會すの意と解き、逢ふの意を有するとする。按ずるにこの説に確實な根據はない。

甲骨文では地名に用ゐる。《合集》36914才(在)逢

金文では適逢(偶々出逢ふの意か?)を表す。中山王圓壺逢郾(燕)亡(無)道は、燕國の政治の紛亂、無道に逢ふ、の意。『詩・王風。兔爰』我生之後、逢此百凶。

戰國竹簡では出會すの意を表す。《郭店簡・唐虞之道》簡14聖以遇命、仁以逢時は、聖明ゆゑに天命に遇ひ、仁愛ゆゑにその時に逢ふ、の意。

屬性

U+9022
JIS: 1-16-9
人名用漢字

關聯字

夆や逢に從ふ字を漢字私註部別一覽・止部・夆枝に蒐める。