阜 - 漢字私註

説文解字

𨸏
大陸、山無石者。象形。凡𨸏之屬皆从𨸏。房九切。
十四𨸏部
𠼛
古文。

説文解字注

𨸏
大陸也。也字今補。『〔爾雅〕釋地』《毛傳》皆曰、大陸曰阜。李巡曰、高平曰陸。謂土地豐正名爲陸。陸土地獨高大名曰阜。阜冣大名爲陵。引申之爲凡厚、凡大、凡多之稱。『秦風』傳曰、阜、大也。『鄭風』傳曰、阜、盛也。『國語』注曰、阜、厚也。皆由土山高厚演之。山無石者。象形。下曰、有石而高。象形。此言無石。以別於有石者也。『詩〔小雅・天保〕』曰、如山如阜。山與𨸏同而異也。『釋名〔釋山〕』曰、土山曰阜。象形者、象土山高大而上平。可層絫而上。首象其高。下象其三成也。房九切。三部。凡𨸏之屬皆从𨸏。
𠼛
古文。上象絫高。下象可拾級而上。

康煕字典

部・劃數
部首
古文
𠻰

『唐韻』『集韻』房九切『韻會』扶缶切『正韻』房缶切、𠀤音䘀。『爾雅・釋地』大陸曰阜。『說文』山無石者。『釋名』土山曰阜、言高厚也。『詩・小雅』如山如阜。

又大也。『書・周官』阜成兆民。《註》大成兆民之性命。

又『玉篇』肥也。『詩・秦風』駟驖孔阜。《疏》馬甚肥大也。

又盛也。『詩・鄭風』火烈具阜。《傳》阜、盛也。

又多也。『詩・小雅』爾殽旣阜。《傳》阜、猶多也。

又長也。『魯語』助生阜也。

又山名。『左傳・文十六年』楚大饑、戎伐其西南、至于阜山。

又地名。『禮・明堂位』封周公于曲阜。又『左傳・文十五年』置諸堂阜。又阜城、屬渤海郡、阜陵、屬九江郡。𠀤見『前漢・地理志』。

又阜螽、蟲名。『詩・召南』趯趯阜螽。《傳》阜螽、蠜也。

又『韻會』佛寺曰香界、亦曰香阜。

又叶敷救切、音覆。『梁鴻詩』惟季春兮華阜、麥含英兮方秀。哀茂時兮逾邁、愍芳香兮日臭。『𨻰第・詩古音考』阜字、可上可去。

又叶房詭切。『劉邵・趙都賦』羣后紛其旣醉、遠人仡以宴喜。悅皇風之舄奕、羨我邦之殷阜。

又叶符遇切、音附。『裴秀大蜡詩』告成伊何、年豐物阜。禮𧛑孝祀、介兹萬祜。○按『唐韻』正、四十四有之半、古與篠小巧皓四韻通爲一韻。詩鄭風、叔于田、乗乗鴇、兩服齊首、兩驂如手、叔在藪、火烈具阜。小雅、田車旣好、四牡孔阜、東有甫草、駕言行狩。又吉日維戊、旣伯旣禱、田車旣好、四牡孔阜、易林、倬然遠咎、辟害高阜、田獲三狐、巨貝爲寶。桓驎七說、超絕壑、踰懸阜。馳猛禽、射勁鳥。王粲瑪瑙勒賦、總衆材而課美、信莫臧於瑪瑙、被文采之華飾、雜朱綠於蒼阜。左思魏都賦、矞雲翔龍、澤馬於阜、山圖其石、川形其寶。韻會小補、於紙韻遇韻俱云叶音、非。

『說文』本作𨸏。『集韻』同

部・劃數
阜部(零劃)

『說文』本字。

部・劃數
口部十一劃

『集韻』古作𠻰。註詳部首。

『韻會補』作⿱吅⿸厂三。『字彙補』作𠼛、非。

部・劃數
山部・六劃

『集韻』扶缶切。同。『楚辭・九思』山峊兮峉峉。

異體字

『説文解字』の重文。また𠻰につくる。

音訓

フ(慣) フウ(漢) ブ(呉) 〈『廣韻・上聲・有・婦』房久切〉[fù]{fau6}
をか(阜垤)。おほきい。おほい。ゆたか(阜財)。さかん。

解字

白川

象形。神の陟降する神梯の象。天に陟降することをいふ。

『説文解字』に土山の象形と解するが、山をこの形に記すことはなく、卜文、金文の字形は神梯の象で、この部の字に神の陟降する聖地に關するものが多い。本邦では「高梯」「倉梯」と呼ぶものである。

藤堂

もと𠂤に作り、ずんぐりと土を積み重ねたさまを畫いた象形字。

篆文は𠂤と(あつめる)の會意で、丸く膨れるの意を含む。

【補註】篆文は十に從ふ形ではない。阜の下部の十は、隸變で𨸏の三つのコの形の一番下を橫劃に省略し、更に左に突き拔けたもの。

落合

甲骨文に二系統ある。

一つは梯子の象形。梯子を用ゐた動作や上昇の象徵として用ゐられる。甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 施設名。文字通りであれば梯子だが、甲骨文には詳細な記述がなく不明。《合集》30284于阜西飮、王弗…。
  2. 動詞。詳細不明。《英藏》1777辛巳卜。勿阜宋⿱不止成、德果、諾。
  3. 地名またはその長。《合集》22391貞、阜亡疾其延。

もう一つはの向きを變へた形。丘陵に關係する字の要素に用ゐられる。單獨の字としては地名またはその長を表す。《合集》7860貞、惟阜山令。

後代には兩者が混同され、字形としては梯子の形が、字義としては丘の義が、繼承された。

漢字多功能字庫

甲骨文は階梯の形に象る(徐中舒、許進雄)。一説に土山が高く險しく、その山の斜面に階段のある形に象るといふ(葉玉森)。本義は階梯。山阜、高地の意を派生する。王筠『說文釋例』蓋如畫坡陀者然、層層相重纍也。獨立の字として用ゐるほか、字の構成要素としても重要である。阜に從ふ字には、階級の義、上昇下降あるいは墜落の義、高峻あるいは危險の義を有す(徐中舒)。山に關はる義を有する字もある。

阜の本義に三説ある。

  1. 土山が高く險しく、坂に段があるさまに象る(葉玉森)。
  2. 「如畫坡陀者、層層相重纍」(王筠) (補註: 畫の平坦ならざるものの如く、層を幾重にも重ねる、の意??)
  3. 梯の形に象る(王國維、許進雄)。古人は多く土の層が高く厚いところを選んで穴に居住し、よぢ上るための梯子が必要で、故に梯子の形に象つた(徐中舒)。

以上の説は均しく階梯が阜字の初義であり、高地と釋するのは派生義であるとする。また、『爾雅・釋地』に高平曰陸、大陸曰阜、大阜曰陵とある。古代には「大陸」は高くて平たい土山を指し、故に阜字は後に廣大、豐富の意を派生し、「物阜民豐」は物産が豐富で人民が安樂なることを表す。

甲骨文では人名、地名に用ゐ、また高地を表す。《合集》10405正才(在)𫳛(庭)阜庭は地名で、庭の地の高峻なところに在ることを指す。

屬性

U+961C
JIS: 1-41-76
常用漢字(平成22年追加)
𨸏
U+28E0F
𠻰
U+20EF0
U+5CCA
𠼛
U+20F1B

関聯字

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