読書メモのページ
 
「前日島」
ウンベルト・エーコ 著
文芸春秋

3月12日

とても読みにくい本だった。中身のストーリーは敢えて書かない、というか書けない。感想も書けない、沈黙あるのみ。
バロック時代の人物を、その当時の語彙で描き出しているところがやはり凄い。小説はこうでないと。
「読書論」
小泉信三 著
岩波新書

3月11日

読書に関するエッセイ。著者自身も書いているように、ショウペンハウエルの影響を感じる。良書・古典を読むこと、読書をしすぎてはいけない(自分で思考しようとしなくなるから)、など。
とは言え、この現代においては何が古典なのか?何が良書なのか、は昔ほどはっきりとは断言できるものではないと思う。
時折こういうエッセイを読むことで読書のスタイルを考え直そうと、思ったりして読んでいる。
特に、本の買いすぎに気をつけようと言う節は、耳が痛い。これからは一生持っていても良いと思える本だけを買おう!(この決心は既に何十回となくしてるんだが…)
「不変の神の事件」
ルーファス・キング 著
創元推理文庫

3月11日

ジェニファーが自殺する前に脅迫されたことを言い残す。その脅迫者がジェニファーの家族の前に現れた時、殺人が起きる…。

最初は明らかだった犯人が、話が進むに連れて不透明になっていく、その進め方は面白い。しかし、この結末は少し強引なハッピーエンドのような気がしなくもない。確かに、意外な犯人ではあるが…。描写のところどころで階級意識を感じる。
「私家版」
ジャン=ジャック・フィシュテル 著
創元推理文庫

3月10日

出版者であるエドワード卿は、友人ニコラ・ファブリのゴンクール賞受賞を確信する。新作は非常に素晴らしかった。しかし、それこそが復讐を決意する源であったのだ。

非常に面白かった。舞台は第二次世界大戦前のアレキサンドリアから始まる。この部分の雰囲気が好きである。オリエンタルなものへの憧れを感じる。これを読むと、アレキサンドリアにまた行ってみたくなる。
そして本にまつわる嫉妬と苦悩の入り混じる主人公のモノローグ。製本の過程。
何もかも、私の好みのものでまとめられた小説だったので、一気に読めた。
主人公はイギリス人という設定だが、スイス人によりフランス語で書かれて、賞も受賞したという。著者は自らも幼年をエジプトで過ごしたというから、ここに描かれている中東の描写などは実体験から得られているのだろうと思う。
映画化もされているというので、一度見てみたい。
「ら抜き言葉殺人事件」
島田荘司 著
光文社文庫

3月10日

日本語を教えている笹森恭子は自殺したと見られたが、その家からは、作家にら抜き言葉の誤りを指摘した手紙が発見される。その指摘された作家も殺害されて発見。ら抜き言葉に対する怒りから笹森恭子が殺害したのか…。

設定は奇抜で現代日本の社会問題を散りばめたストーリーなのだが、どうも笹森恭子がこうなる過程というのは私には不自然に思われる。女性だからって、ねえ…。どうも良く分からん。
刑事吉敷は言う、誰が悪いんだ、誰も責められない…。って言うのも何だかとっても日本的だ。これだけの社会問題を一度に、あまり長くもない作品に収めようとしたことが間違いなのかもしれないが。
「井辻朱美短歌集」
井辻朱美 著
沖積社

3月10日

1982年より井辻朱美の出版した歌集「地球追放」「水族」「吟遊詩人」「コリオリの風」の4つが一つ収められている、お特な?一冊。
SFやファンタジーの翻訳者としての名が高かった著者だが、この歌集にもSF的な要素、また古代生物、都市、幻想、音楽などの要素が織り込まれている。
確かに少女趣味的な感じの部分もあるが、硬質で透明な世界は短歌の定型韻律、古式な言葉づかいからこそ産まれているのではないかと思われた。

メランコリアうたへる三基のトロンボーン水中都市に夕陽あらねど
(作品には水面に映る都市の幻影、水底の世界、というモチーフも多い)

碧き眼の女ら棲める砂の星(アラキス)に香料の風はげしく湧ける
(フランク・ハーバートの「デューン 砂の惑星」シリーズをモチーフに。)

「地球追放」より

藍ふかき都市の夕空クレーンはいつか死にたる恐竜となる
(また、クレーンを古代生物としての巨竜、恐竜に見たてたものも繰り返し表われている)

「水族」より
「金色の網」
木坂涼 著
思潮社

3月7日

木坂涼の詩集。
柔らかい言葉づかいで、平易な読みやすい詩だが、その中には、常にはっとさせられるものがある。

おとなしい雨ではじまる日曜日は
わたしを窓ぎわの机にすわらせる
それから
こんなにしずかな朝は久しぶりだと
ノートに書かせる
夜になって(忘れてしまった)朝をおもいだすかもしれない

住所録を出して
手紙を書くのもこんな日だ
今日は朝から雨ですと書き出せば
いつのまにか雨があがったと
ついいまの新しい過去にひんやりインクでさわることにもなる

前線 気圧 時間
謎の風がその余白をチラとかすめ
裏がきの番地はまだ濡れている

おとなしい雨にはじまる日曜日は
わたしのなかにある
しずけさの番地

「インク」より
「ガラスの麒麟」
加納朋子 著
講談社

3月7日

「魔法飛行」が気に入ったので、図書館から借りてくる。
安藤麻衣子という女子高校生が殺された事件を機軸に、平凡に見える日常に染み出してくる謎を少しづつ明らかにしていく、連作短編集。
探偵役は、養護の神野菜生子先生であるが、彼女自身秘密を持っている。そして、この短編集を繋いでいる糸はその秘密にあるのだった。
何気ない日常のシーンを描きながら、その中に生まれてくる謎を解き明かすスタイルがとてもいい。加納朋子自身が、「魔法飛行」の後書きに書いているが、人生には謎が付き物だ、しかし、ミステリには答えがある、そこが好きだという、その姿勢が良く顕われているからだと思う。
安藤麻衣子の書いた、という童話が挿入されるが、それがまた、この小説全体に響く基調の音となっている。
とにかく、とても良かった。
「ウイグルの林檎」
山崎芳江 著
六法出版社

3月7日

歌集。ウィグル旅行の際に読まれたと思われる短歌などが旅情を誘う。

ここに生まれここに老いゆく人の手に羊一頭無駄なく割かる
蜃気楼ゆらぐ砂漠に石一つ置かれて人の死の小ささよ
砂混じる葡萄を噛めば潔癖に似てひ弱なる島国の民
旅人とわが名思うはきき馴れぬ薬種の強く匂いたつ路地
農耕の民ならざるは晩餐の羊丸焼き酷しともせず

「ウイグルの林檎」より
「水に眠る」
北村薫 著
文春文庫

3月7日

北村薫の短編集。ミステリではないので、謎は解けないままであったり、また近未来的な設定であったりもするが、どれも描写などに味わいがある。
特に「くらげ」などは人と人の繋がりが薄れていく現代への皮肉を盛り込んでいると思う。が、しかし、透明くらげは欲しいような気もする…。
緊張感が漂う「ものがたり」の構成なども読んでいて面白かった。
個人的に恋愛小説風のものは苦手なのだが、この短編集はまあ読める。
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