| それは、惑星間移動主路線 <グランド・リーニュ> C地区方面 第十八番目の連絡駅であり、また現在の終点でもある。この駅から移動できる惑星と言えば、人口一千万にも満たない小惑星ドゥガだけである。ドゥガには旧来よりあまり殖民が行われたためしがない。当然にも利用者の多くないこの駅の待合室には、飲み物と軽食を売るビュヴェットがあるだけだった。
出発便待合室には、連絡船の到着を待つ姿が見うけられた。それぞれのグループを作り、さほど広くもない連絡駅のあちらこちらに分散して座り込んでいる。 |
| 待合室の入り口に程近いあたりには、黒い光沢のない生地の制服を着た男たちがいた。誰が見ても中央政府の官憲とすぐに知れる彼らは、背の高さ、体つきなどはさまざまであったにも関わらず、不思議に似たような顔立ちをしていた。一文字の唇、こけて影の浮かんだ頬、短く刈った頭髪、血走り窪んだ目。中でもその目は落ち着くことなく、常に待合室のあちらこちらを飛んでいる。低い声の公用語で短い言葉をかわす姿は、この辺境の駅に退屈している。黒いブーツの爪先がカタカタと床を叩いていた。 |
| 造り物の鉢植えが置かれた隅のベンチには若者たちが陣取っていた。派手な色の布を首に巻いた彼らはおそらくドゥガの言葉で大声で喋っている。
一人が小さな縦笛を吹いた。それはドゥガの民族音楽のメロディーとなった。 若い男たちは歓声を上げ、手を取り合って踊り始める。足を上げ、滑るような動きで縦笛を吹く若者の回りで輪になった。彼らは荷物の鞄をあちらこちらに放り出したまま踊る。甲高い笑い声。踊りながら笑い、笑えば笑いそのものに笑う。腕を伸ばし、ぐるぐると自転する。 そのうちに仲間内だけでは物足りず、近くにいた若い娘たちに手を伸ばして踊りへと誘い出した。一人の若者が、手近な娘の手をつかむと無理やり立たせ、その手を取って踊らせる。娘は嫌がるが、若者は手を放さない。 |
| 踊る若者たちの近くに、異様な一団が座っていた。
それは、頭から脚の先までを覆う、長い緩やかな衣に身を包んだ人々だった。白い衣を目深に被り、口元も布で覆い隠している。そのため、顔も性別も判然としなかった。 額に覆いかぶさる白い衣の縁には、青い奇妙な飾りが縫い取られていた。小さな青いビーズを幾つも繋ぎとめて垂らしたものだった。もし、静寂の中ならば その人々はみな、同じような白い衣を身に着けていたが、中にただ一人、濃い青に染めぬかれた衣のものがいた。その青い衣にも同じように、青い飾りは幾つも縫いとめられていた。 若者たちのけたたましい音楽の隣で、一言も口をきかず、身じろぎもせぬ様子は尚更に異様だった。 踊る若者は、かえって、その静けさのために、それに気付いたのだろう、嬌声を上げると、踊りに誘う身振りをして、ひときわ目立つ青い衣を着たものに近づいた。 口元は隠されいていたが、その衣の奥に僅かに覗いた大きな目と、金色の髪に気を惹かれたのか、若者は、いきなりその腕をつかんで引っ張り上げようとした。腕を掴まれて、青い衣のものは、不意に激しい身振りで若者を押し返そうとする。静寂を乱されて、長衣を着たものたちは、僅かに身を強張らせると、一瞬躊躇った。無言の拒否に若者たちの野次る声。 |
| 一人の長衣姿のものが、ゆっくりと立った。
持っていた長い杖の先で床を叩きつけた。待合室を揺るがすかのような重い音が響くと、急に冷たく消えて行った。 他の乗客たちはただ黙っていた。 踊りは止まった。 その隙に、踊らされていた娘は身を離して、仲間のところへと戻っていく。笛の音が間抜けに途切れた。 青い衣を着たものは、若者の手を払いのけて退いた。 踊っていた若者たちは罵声と笑い声を上げた。再び、それに応えて、笛が意味もなく吹き鳴らされた。長衣を着た人は一人、杖を手にして平然と立っている。先刻、踊りを強要しかけていた若者は、その姿に向かっていこうかどうかと、ためらっていた。 |
| 黒い制服の男の一人が、歩み寄ると、その異様な衣の人々と、踊る若者の間に立って入った。
「座りなさい」堅い公用語で男は若者たちに言った。命令し慣れた平坦な口調だった。 若者たちは一瞬抗議しようとする素振りを見せたが、訛のない公用語の冷たいイントネーションに一瞬気圧されて座り込んだ。 「身分証を出して」 制服の男は、次々に差し出された若者たちの身分証をめくって返した。次いで、長い衣に姿を隠した人々に向かった。一人立つ杖を持った人に言った。 「あなたたちは何だね」 「私たちは登録されたグループです」 答えは静かな声だった。それが、口を覆った布を通してこぼれるので尚更に聞き取り難かった。官憲の男は、その答えの意味するところが取れず、一瞬顔をしかめた。 「登録?身分証は」 それに応えて、衣の奥の隠しから、小さな書類挟みが取り出された。制服の男は、書類挟みを広げてそれに目を走らせていく。宗教団体登録書、移動認可査証 若者たちはまたベンチに集まり、目配せと押し殺した笑いと小さな叫びを交わし続けていた。
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