春を過ぎて夜は暖かかった。空は曇り、星も絶えてない。
夕暮れを過ぎて、薬草園の女は夕餉を仕度した。鶏をつぶし、米と木の実と香草を詰めて焼く。花を飾った杷旦杏菓子の鉢を並べる。蜜液を冷たい泉の水で割って杯を満たす。
吟遊詩人は感謝の言葉を述べて、作法通り大いに飲んで食らった。
「ああ、素晴らしいもてなしだった」
感謝の言葉を述べるや否や、再び楽器を取り上げた。
「しかし、お前は何故一人で住んでいるのだ。両親はどうした」
「いない」
「もう死んだのか。やれ、神は偉大なるかな。兄弟は何人いる。姉妹は何人いる」
「いない」
「まさか一人きりとは」
「独りだ」
「それは可哀想だな。私は十二人の兄弟と、一人の姉がいる。八人は兄で、四人は弟だ」
「私は可哀想ではない」
「一人で暮らすなんて可哀想だ。夜誰と話すんだ」
「一人で旅するお前は可哀想ではないのか」
吟遊詩人は笑う。「そうだな、でも誰かと話すさ」 |
楽器の弦を爪弾く。「そうは言ってもこれでも面倒なのだ。顔を隠さねばならない時もある。女と知られると厄介だからな」楽器はうめく。「でも一人でいるよりましだろう」
薬草園の女は言った。「お前の顔も知らぬ誰かと話している、それは、本当に独りではないと言えるのか」
「分からん。…一人ではないだろう」
「お前はまだ、花を求める理由を話していない。何故花を求めているのだ」
「分からん」
「質問が分からんのか、それとも理由が分からないのか」
「ああ、理由は知らん。ただ欲しいと思った、それまでだ」 |
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