この森の端まで出向いてくる者は多くはないが、薬草や何かを求める来訪者には慣れていた。しかし、時は群咲月。薬草園には昼夜を問わず花は咲き乱れている。
名も知らぬ花を求めるという言葉に、薬草園の女はとまどった。
吟遊詩人は呟いた。花の名らしかった。音楽的な響きの言葉は初めて耳にしたものであり、それが、ここで何という名を持つかは想像もつかなかった。
「どんな花でもあると聞いたのだ」
「全てではない。それに季節もある」
「季節はこの頃だ」
「それでは、今宵は曇り、明日の朝から、薬草園の花を見て探すが良かろう」
吟遊詩人は頷く。 |
食事の最中手放していた楽器を取り、爪弾いた。
「私は吟遊詩人のラナアだ。これはもてなしの礼だ。お前の名前は何と言う。歌にしてやろう」
「いらぬ」
「おかしな女だ。普通は喜ぶ」
「私は薬草を育てているだけだ。歌にして名を広めてもらう必要はない」
「ああ、このご時世、みな名を広めたがるものだ」
話ながらも指は止まらない。
日頃静かな薬草園に急に訪れた音楽は夜をかき乱すように高音から低音、うねるように咽び泣く。
「ここは静か過ぎる。何の歌を歌って欲しい」
「いらぬ」
「只だ」
「そうではない。今夜は音楽はいらぬ」
吟遊詩人はため息をついた。
「全然おかしい女だ。人生は楽しまなければいけない」
「楽しんでいる。音楽がなくても」
「矢張り魔女なんだな。だから人とは違う」
薬草園の女は苛立った。
「そのような言い種私とは関わりない」
蝋燭を吹き消す。
「お前の為に寝台を作ろう」 |
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