牝 - 漢字私註

説文解字

牝
畜母也。从聲。『易』曰、畜牝牛、吉。
牛部

康煕字典

部・劃數
牛部二劃
古文
𠤎

『唐韻』毗忍切『集韻』『韻會』『正韻』婢忍切、𠀤音𩪯。『說文』畜母也。从牛、匕聲。『玉篇』牝牡也。『易・坤卦』利牝馬之貞。『書・牧誓』牝雞無晨。『詩・鄘風』騋牝三千。『禮・月令』遊牝於牧。又『古詩』哀壑叩虛牝。『韓愈・贈崔立之詩』有似黃金擲虛牝。《註》牝、谿谷也。

又『集韻』補履切、音匕。義同。

又『集韻』『類篇』𠀤婢善切、音楩。亦畜母也。『書・牧誓・釋文』徐音扶忍反。

又『廣韻』扶履切『集韻』並履切、𠀤音𤙞。義同。

音訓・用義

ヒン(漢) ビン(呉) 〈『廣韻・上聲・軫・牝』毗忍切〉
めす

解字

白川

形聲。聲符は。卜文の牝牡の字形は匕、の形で示され、羊の旁に加へる。それぞれ性器の部分の象形。

説文解字に畜母なりとあり、牡には畜父なりといふ。

もと獸畜についていふ語。鳥には雌雄といふ例であるが、擴大して牝鷄のやうにもいふ。

藤堂

と音符の會意兼形聲。匕は女性の姿を描いた象形字で、妣の原字。牝はめすの牛。

女性器が左右兩壁がくつついて竝んださまをしてゐることから出た言葉。(二つ竝ぶ)、匹(二つ竝ぶ)、必(二つ竝べて締める)、賓(主人と二人くつついて竝ぶ客)と同系。

落合

と、牝であることを示すから成り、牝牛を意味する。上古音では匕は牝と發音が近く、亦聲符とされる(異説あり)。甲骨文には、匕を異體のに替へたり、類似形のに換へる字形も見える。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 牝牛。《合集》23225貞、父丁歲牝。
  2. 祭祀名。牝牛を神に捧げること。《殷墟花園莊東地甲骨》3己卜、叀牝于妣庚。

後代には牝の動物全般に用ゐるが、甲骨文の段階では牝牛に限定された字。例へば牝羊であれば羒の初文の[⿰羊匕]で表されてゐる。

漢字多功能字庫

に從ひ聲。本義は牝牛で、牡と相對す。匕と異なる獸類の形符を結合して、それぞれの家畜、獸類の雌を表し、後に轉じて動物の雌の通稱となす。母畜を牡と相對して牝と稱するのは、父と相對する母を匕(妣)と稱するのと同樣。甲骨文では牛、羊、豕、犬、午と匕を結合して、それぞれの動物の雌を表す。後世には各種動物の雌をみな牛に從ふ牝で表し、鹿に從ふ麀字だけが保存されてゐる。

牝の本義は家畜、獸類の雌で、卜辭では多く祭牲となす。《合集》22246又(侑)匕(妣)庚牝。侑は祭名。妣庚は庚と呼ばれる女の祖先。全句で、牝牛を一頭用ゐて妣庚に對する祭祀を行ふの意。

『淮南子・時則』游牝別其群。執騰駒。高誘注是月牝馬懷胎已定、故別其群、不欲騰駒蹏傷其胎育、故執之。は、孕んでゐる牝馬を他の馬から遠く離し、蹴つて胎兒を傷つけぬやうに飛び跳ねる仔馬を拘禁すべし、の意。

屬性

U+725D
JIS: 1-44-38