尸 - 漢字私註

説文解字

尸
陳也。象臥之形。凡尸之屬皆从尸。
尸部

康煕字典

部・劃數
部首

『廣韻』式之切『集韻』升脂切『正韵』申之切、𠀤音蓍。『說文』尸、𨻰也。象臥之形。『釋名』尸、舒也。骨節解舒。不能復自勝斂也。『論語』寢不尸。『禮・喪大記』凡馮尸。興必踊。

又神象也。古者祭祀、皆有尸以依神。『詩・小雅』皇尸載起。『大雅』公尸來燕來寧。《朱子曰》古人於祭祀、必立之尸。因祖考遺體、以凝聚祖考之氣。氣與質合、則散者庶乎復聚。此敎之至也。

又主也。『詩・召南』誰其尸之、有齊季女。《箋》主設羹之事。

又𨻰也。『左傳・莊四年』楚武王荆尸、授師孑焉、以伐隨。《註》謂𨻰師於荆也。

又『禮・表記』事君、近而不諫、則尸利也。『前漢・鮑宣傳』以拱默尸祿爲智。《註》言不憂其職、但知食祿而已。

又姓。『廣韻』秦尸佼爲商君師、著書。

又三尸、神名。

『正字通』本作𡰣、俗作尸。

異體字

或體。

音訓

シ(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲・脂・尸』式之切〉
かばね。しかばね。かたしろ。つかさどる。

解字

尸字が、屍體の象形、屈んだ人の象形のいづれであるかは判斷不能。

字の要素としての尸は、人の象形と、家屋あるいは屋根の象形の二系統がある。

白川

象形。屍體の橫たはる形に象る。の初文。屍は尸とを合はせた字。

『說文』につらぬるなり。臥する形に象る。といふ。尸陳は後起の義。

論語・鄕黨』に寢不尸(寢ぬるに尸せず)といふやうに、偃臥するとき、その姿勢を避けるべきものとされた。

祭祀のとき、形代となることを尸主といふ。『禮記・郊特牲』に尸、神象也。(尸は神像なり)とあり、祖の尸主には孫が代はつて務めた。それで祭祀を司ることを「つかさどる」といふ。

偏旁

字の要素としての尸には、人に從ふものと、屋形に從ふものとがある。

藤堂

象形。人が身體を硬直させて橫たはつた姿を描いたもの。の原字。また、ボディーを示す意符に用ゐる。

別源の偏旁

屋などの上部は、垂れた覆ひ、垂れ幕、屋根で、本來は尸ではない。

落合

象形。足が不自然に曲がつた人の側面形であり、人の屍體を表す。甲骨文では祭祀の供物として用ゐられてゐる。

甲骨文での用義は以下のとほり。

  1. 祭祀の供物。人牲であらう。《合集》828貞、翌丁未、用十尸于丁、卯一牛。
  2. 地名。尸方とも呼ばれる。恐らく人方と同一勢力。《合集》33039侯告伐尸方。

尸方が東方の勢力であることから夷と釋す説もあるが、直接的には夷はいぐるみの象形を字源としてゐる。甲骨文では雉の略體として見える。

は意符としてを加へた繁文で、篆文に初出。

また、屈んだ人の形のを、後に尸の形につくる字がある。

漢字多功能字庫

尸の字形、本義には三説ある。一説に、人が几の上など高いところに坐るさまに象る、といふ(李孝定)。一説に、人が膝を屈して地の上に坐るさまに象る、といふ(沈培)。一説に、人の蹲踞するさまに象る、といふ(徐中舒)。按ずるに最初の二つが比較的良い。

古人の坐は今の跪坐に相當し、跪坐、蹲着に比べて、臀部を地に著ける坐り方は比較的快適である。古代祭祀のとき、生者は親の不在を見るに忍びず、生きてゐる人の「尸」が死者を代表し祭禮を受け、甚だしきに至つては祭品を享用(享受する、樂しむ)する。『儀禮・士虞禮』「尸飯」の如し。尸は尊敬や優待を受け、ゆゑに祭祀のとき「尸」には几上や地上に膝を屈して坐らせる。このやうに坐ることができるのは尸だけで、坐る姿を以て尸の職稱を指し稱する所以である。

尸は坐るばかりでなく、立つこともある。古書に「坐尸」、「尸坐」と「立尸」が相對してゐる。

尸はまた死者を代表する「神主牌」を指す。古代の「載尸以行」は、神主牌を持ちながら巡行することを指す(見『史記・龜策列傳』)。後世でも最近親の者が「神主牌」を持つて祭祀を進める。戰國竹簡ではを意符に加へ、示は神主牌を象るが、この字形が神主牌に用ゐるものがないことに注意すること。

甲骨文での用義は次のとほり。

金文での用義は次のとほり。

戰國竹簡では死者を代表して祭を受ける生者を表す。《上博竹書六・平王問鄭壽》簡1尸廟は「有尸之廟」のことで、尸が參加する祭祀の廟であることを強調する(沈培)。

また古代では「尸祝」が祭を主宰するほか、死者の近親を尸に充てる習俗があつた。『禮記・曲禮』に孫可以為王父尸とあり、『儀禮・特牲禮』注に尸、所祭者之孫也。祖之尸則主人乃宗子とあり、明らかである。

は古く尸を借りて表し、後にを聲符に加へて分化した字で、專ら遺體を表す。

屬性

U+5C38
JIS: 1-53-89

関聯字

尸に從ふ字

説文解字・尸部のほか、以下の字など。

尸聲の字