虫 - 漢字私註

説文解字

虫
一名蝮、博三寸、首大如擘指。象其臥形。物之微細、或行、或毛、或蠃、或介、或鱗、以虫爲象。凡虫之屬皆从虫。許偉切。
十三虫部

説文解字注

虫
一名𧐛。爾雅・釋魚』蝮、虫。今本虫作虺。博三寸。首大如擘指。『釋魚』文、擘指、大指也。郭云、此自一種蛇。人自名爲蝮虺。今蝮蛇細頸、大頭、焦尾。色如艾綬文。文閒有毛似豬鬛。鼻上有鍼。大者長七八尺。一名反鼻。非虺之類。此足以明此自一㮔蛇。按此注見『〔詩・小雅〕斯干正義』及小顏田儋傳注。郭意『爾雅』之蝮今無此物。今之蝮蛇非『爾雅』之蝮蛇也。象其臥形。虫篆象臥而曲尾形。篆下云、虫也、象冤曲垂尾形。許偉切。十五部。物之𣁋細。或行或飛。或飛二字依『爾雅』『釋文』補。或毛或𧝹。𧝹見《衣部》。但也。俗作蠃。非。或介或鱗。㠯虫爲象。按以爲象、言以爲象形也。从虫之字多左形右聲。左皆用虫爲象形也。『〔禮記〕月令』春、其蟲䚬。夏、其蟲羽。中央、其蟲倮。虎豹之屬。恆淺毛也。秋、其蟲毛。冬、其蟲介。許云或飛者、羽也。古虫蟲不分。故以蟲諧聲之字多省作虫。如融赨是也。鱗介以虫爲形。如螭虯𧊧蚌是也。飛者以虫爲形。如蝙蝠是也。毛𧝹以虫爲形。如蝯蜼是也。凡虫之屬皆从虫。

康煕字典

部・劃數
部首

『唐韻』許偉切『集韻』詡鬼切、𠀤音卉。『廣韻』鱗介總名。『說文』一名蝮、博三寸、首大如擘指、象其臥形、物之微細、或行、或毛、或蠃、或介、或鱗、以虫爲象。凡虫之屬皆从虫。『玉篇』古文虺字。註見三畫。『佩觿集』蛇虫之虫爲蟲豸、非是。○按『說文』『玉篇』『類篇』等書、虫蟲皆分作三部、虫吁鬼切、䖵古䰟切、蟲持中切、截然三音、義亦各別。『字彙』『正字通』合䖵蟲二部倂入虫部、雖失古人分部之意、而披覽者易于查考、故姑仍其舊。若『六書正譌』以爲虫卽蟲省文、則大謬也。

音訓

クヰ(漢) 〈『廣韻・上聲・尾・虺』許偉切〉[huǐ]{wai2}
まむし。むし。

解字

白川

象形。蛇など爬蟲類の形に象る。

『説文解字』に一名蝮とし、また蟲類の總名に用ゐる。

『爾雅・釋魚』の「蝮虺」の《注》に、江淮以南では、江淮以北では虺といひ、江南のものには猛毒があるといふ。

虫は古く呪靈を持つものがあるとされ、蠱術に用ゐ、蠱による呪詛を(たたり)といふ。は虫の形に從ふ字。

は蟲類の總名、蟲は小さな蟲の集まる形。

藤堂

象形。蛇の形を描いたもので、蝮のこと。

落合

蛇の象形。同源字に、也がある。上古音の段階で字音が互ひに異なるが、別源語に轉用されたのか、發音が分化したのかは不明。

蛇の象形のうち、繁體的な表現のものが「」と釋される。簡體的なの初文と共通する字形もある。

【補註】漢字多功能字庫は簡體を虫あるいは巳、繁體をと區別してゐるが、落合は『甲骨文字辞典』に、蛇を見出し字として一括りに立項し、祀の意に用ゐる簡體を祀の異體と看做してゐる。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 人名。第一期(武丁代)。婦蛇とも呼ばれる。《合集》10061…貞、令蛇…⿰丿丨…⿰氵屮…。
  2. 災厄の意。詳細は不明。⿱𫝀它の略體かも知れない。《合集》21825戊寅子卜、亡蛇。
它示
祖先の集合。「元示」と對で使用されてをり、借りて「它(他と同意)」の意味であらう。《合補》4139貞、三元示五牛、它示三牛。

【補註】⿱𫝀它はや𧉘とも隸定される。𪫒の旁。落合は𪫒と隸定すべき甲骨文を⿱𫝀它の異體に擧げる。

後代には昆蟲や貝類などの名を表す字の要素として用ゐられるやうになつた。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文は蛇の形に象り、本義は毒蛇。甲骨文や金文の虫やはいづれも蛇に象り、它の字形は身體の部分が比較的太いことで分別する。甲骨文の它の身には模樣があり、金文ではあるいは簡化され縱一劃となる。虫の身は比較的小さく、二字は少しも混淆しない(裘錫圭)。

甲骨文ではあるいは虫を以て𧉘(害)となす。

金文では本義に用ゐる。魚顛匕出斿(游)水虫、王國維曰く約以匕形似虫、故以虫為喻。

簡帛文字でも本義に用ゐる。

虫を偏旁とするとき、往々にしてひろく昆蟲を指す。

屬性

U+866B
JIS: 1-35-78

関聯字

虫に從ふ字

虫に從ふ字を漢字私註部別一覽・虫部に蒐める。

其の他

虫を蟲の簡体字や新字体として用ゐるが、別字。