説文解字私註 丵部

丵部

説文解字
叢生艸也。象丵嶽相竝出也。凡丵之屬皆从丵。讀若浞。
康煕字典
丨部九劃
『集韻』仕角切、音浞。艸木叢生。象根株附麗𠀤出形。樸業僕叢字从此、借爲叢雜煩凟。或作𢄁
『廣韻』蒲木切『集韻』步木切、𠀤音僕。又『集韻』方六切、音福。義𠀤同。
上从四直、俗作业、㐀、非。㐀字原作丱下一。
サク
ほる。くさむら。
解字(白川)
上部に鑿齒形のついた掘鑿の器の形を象る。鑿の初文。
解字(藤堂)
ぎざぎざした竿掛け臺を象る。
解字(落合)
甲骨文は、細い鑿の象。

説文解字
大版也。所以飾縣鍾鼓。捷業如鋸齒,以白畫之。象其鉏鋙相承也。从从巾。巾象版。『詩』曰、巨業維樅。
𤑽 古文業。
康煕字典
木部九劃
《古文》𤑽𤎸
『唐韻』魚怯切『集韻』逆怯切、𠀤音鄴。『說文』業、大板也、所以飾懸鐘鼓。『詩・大雅』虡業維樅。《疏》植鐘磐之木、植者名爲虡、橫牽者爲栒、栒上加大版爲之飾爲業。刻板捷業如鋸齒、故曰業。
功業。『易・繫辭』富有之謂大業。
事業。『易・坤卦』暢於四支、發於事業。
基業。『孟子』創業垂統。
學業。『禮・曲禮』所習必有業。
世業。『左傳・昭元年』子產曰、臺駘能業其官。
『爾雅・釋訓』業業、危也。『書・臯陶謨』兢兢業業、一日二日萬幾。
壯也。『詩・小雅』四牡業業。
凡所攻治者曰業、事物已爲而未成亦曰業。『孟子』有業履於牖上。
已然曰業。『前漢・吳王濞傳』高祖召濞相之、悔業已拜。
藝業。『史記・貨殖傳』田農、拙業也、賣漿、小業也。
建業、地名。『吳志』權改秣陵爲建業。
姓。『姓苑』有業氏。
『集韻』逆及切、音岌。亦壯也。
『集韻』玉盍切。亦危也。
叶宜戟切、音逆。『鶡冠子・泰鴻篇』兩治四致、閒以止息。歸時離氣、以成萬業。
叶逆約切、音虐。『前漢・藝文志述』伏羲畫卦、書契後作。虞夏商周、孔纂其業。○按『說文』从莘从巾。巾象版、不从木、收莘部、今誤入。
ゲフ。ゴフ。
わざ。なりはひ。すでに。
解字(白川)
象形。版築において土を撲つのに用ゐる板。上部は鑿齒の形。下に長い柄があり、これで地を撲つて固めた。撲はもと業と廾とに從ひ、業を兩手で持つ形。また、鐘鼓を懸ける枸虡に用ゐるもの。形が似てゐるので、同じ名で呼ばれてゐるのであらう。事業の意は、版築によつて城壁を造營することから出てゐる。
解字(藤堂)
ぎざぎざの留木のついた臺の形を象る。凸凹があつてつかへる意を含み、すらりとはいかない仕事の意となる。
解字(漢字多功能字庫)
二個の竝んで立つ銅人が筍(鐘磬を懸ける橫木)を擧げる形を象り、鐘磬を懸ける架子(骨組、棚)の象形。
金文は二業と去に從ひ、説文解字の古文に近い形。去の古文字には二つの源があるが、業の從ふ去は盍の初文で、讀んで盍となし、器と蓋が相合ふ形を象り、業の聲符である。後期金文は一業と口に從ひ、業の下部と去の筆劃が合はさつてゐる。
『詩・周頌・有瞽』設業設虡、崇牙樹羽。 虡は古く鐘磬を懸ける架子の兩旁の柱のこと。『禮記・檀弓上』有鐘磬而無簨虡。 鄭玄注橫曰簨、植曰虡。
簴は虡の俗字で、虡業とは鐘磬を懸ける架子を指す言葉。
金文では基業や功業の業に用ゐる。去に從ふ業は協の通假字となし、輔相、佐助を表す。また安定の意を表す。
當用漢字・常用漢字

説文解字
聚也。从聲。
康煕字典
又部十六劃
『唐韻』『正韻』徂紅切『集韻』『韻會』徂聰切、𠀤族平聲。『說文』聚也。从丵从取。『書・無逸』是叢于厥身。
姓。南北朝滁州刺史叢鐇。
臺名。在邯鄲。
『集韻』或作。『前漢・東方朔傳』樷珍怪。又作。『前漢・息夫躬傳』藂棘棧棧。《註》詩葛覃註、灌木曰藂。
『韻補』叶徂黃切、音牀。『韓愈・此日足可惜詩』蕭條千萬里、會合安可逢。淮之水舒舒、楚山直叢叢。逢音房。
『韻會』後人誤作、或作、二字皆非。毛氏曰、丵、上从四直、兩長兩短。从丱、非。丵原刻下从羊。
簡体字
ソウ
くさむら。むらがる。あつまる。
解字(白川)
聲符は取。取は聝耳。聝耳を聚めることを聚といふ。丵は掘鑿の器。高低の揃はぬ意がある。すべて叢聚して成るものを叢といふ。
解字(藤堂)
丵と取の會意、取は亦た音符。取は聚と同系、引き締めて集める意を含む。叢は長短揃はずぎざぎざに集まること。
人名用漢字

説文解字
𡭊 譍無方也。从从口从
對或从士。漢文帝以爲責對而爲言、多非誠對、故去其口以从士也。
康煕字典
寸部十一劃
『唐韻』都隊切『集韻』『韻會』『正韻』都內切、𠀤音碓。『說文』應無方也。本作𡭊。『爾雅・釋言』對、遂也。《疏》遂者、因事之辭。『廣韻』答也。『增韻』揚也。『詩・大雅』以對于天下。《註》答天下仰望之心也。『書・說命』敢對揚天子之休命。又『禮・曲禮』侍坐於先生、先生問焉、終、則對。『又』君子問更端、則起而對。《註》離席對也。
次對、轉對。『王球貽謀錄』唐百官入閤、有待制次對官。後唐天成中、廢待制次對官、五日一次、內殿百官轉對。
當也、配也。『詩・大雅』帝作邦作對。《註》言擇其可當此國者而君之也。
對簿。『史記・李將軍傳』廣年六十餘矣、終不能復對刀筆之吏。
敵也。『吳陸遜曰』劉備今在境界、此疆對也。
凡物𠀤峙曰對。『杜甫・萬丈潭詩』山危一徑盡、岸絕兩壁對。
簡体字
むかふ。こたへる。
解字(白川)
丵と土と寸の會意。丵は掘鑿などに用ゐる器。これで土を撲ち堅めることを對といふ。版築の作業は、兩版の間に土を入れ、これを撲ち堅めて造成するもので、撲もその器を手に持つ形。説文解字に正字を口に從ふ形とするが、卜文、金文の字はみな土に從ふ。金文に多く「對揚(こたへる)」の意に用ゐるのは、版築のとき、兩者相對して土を撲つことからの轉義であらう。その恩寵、休賜に奉答する意の語である。
解字(藤堂)
會意。偏は字の上部と同じで、樂器を掛ける柱の象。二つで對をなす臺座。對はその旁に寸(手。動詞の記號)を加へたもので、二つで一組になるやうに揃へる。また、二つがまともに向き合ふこと。
解字(落合)
甲骨文はに從ひ、何かの道具を手に持つ形の會意字。持つてゐる道具については、他の字に見えない形であるため、詳細不明。甲骨文では施設名に用ゐられてゐるが、何の施設かは不明。
解字(漢字多功能字庫)
甲骨文は又と丵と土に從ふ。丵と土を上下に合はせた箇所は聲符といふ。丵は鑿擊の道具で、字は手に道具を持ち土地を切り開くさまを象る。
金文に丵の下に丰(艸木の象)を加へた形があり、封や邦と似る。土地を開闢した後、土地の境界を確立する必要があり、先秦時代には土地の境界を確立するのに樹を植ゑた。對の本義は土地を切り開き疆を分け、樹を植ゑ、土地の境をはつきりさせること。後に假借して應對、應答の意。
説文解字の小篆は口を加へ、應對、對答の對のために造つた分化字であらう。しかしこの字は廣く傳はらず、後にも依然として對字を用ゐる。漢帛書では應對の對字が言に從ひ意符とする。
一説には丵はの變化した字であるといひ、䇂は刑具の一種。また、丵は齒のある古の兵器であるといふ。
甲骨文では恐らく祭名や地名に用ゐられてゐる。金文では對答、答謝を表す。また人名に用ゐる。
漢帛書では對答を表す。
當用漢字・常用漢字
《漢字表字體》対