Web女流詩人の集い□蘭の会□新サルレト

蘭の会 三周年記念 連載コラム

新 サルでもわかるレトリカル 会員番号000b 佐々宝砂



■ 第5回 日本語脚韻リメリック
  まずは、脚韻とは何か簡単に説明しましょう。

○例文1
サルでもわかるレトリカル
saru demo wakaru retorikaru

 この連載のタイトルじゃねーかって、まあ確かにその通りですが、このタイトルは脚韻を踏んでるのであります。ちゃんと言葉の最後の音が揃っているでしょう? 1音だけが同じではつまらないのですが、この場合2音をそろえています。ローマ字表記も並べたので、サルでもカルでもなく"aru"で韻を踏んでいるということがよくわかると思います。こういうのが、脚韻です。ネイティヴが作詞した英語の歌詞は、つまらんポップスの歌詞でもたいていきちんと脚韻を踏んでいます。英詩の場合、単語ごとに脚韻を踏んでいるのではなく(別に単語ごとに脚韻を踏んでもかまわんのですが、そんなことをするととても大変なので)、ある程度の決まりに従って、ひとかたまりの文章ごとに脚韻を踏んでいます。おそらく、英語を母語とする人々は、脚韻を踏まないと詩を作ったという気分にならないのではないかなと思います。でも、私の母語は日本語なので、ほんとのところ彼等の気持ちはよくわかりません。

 日本語で脚韻を踏みまくる詩、と言えば、谷川俊太郎の『ことばあそびうた』『ことばあそびうたまた』がありますが、今それよりメジャーなのはもちろんラップです。しかし日本語でラップってなかなか大変なのです。「あたしはラッパーよ!」と断言する詩人さんならきっと御存じでしょうが、日本語で脚韻を踏んで、単調に陥らないようにするためには、たくさんの工夫が必要になります。

 日本語の動詞は、すべてが"u"で終わります。特に可能動詞は"eru"で終わり、自動詞は"aru"で終わります。形容詞ならば、"i"または"ii"または"shii"で終わります。形容動詞は"da"で終わります。そして、動詞も形容詞も形容動詞も、過去形にしたら"ta"(動詞の一部は"da")で終わってしまいます。否定だったら、必ず"nai"か"en"で終わります。要するに、全部の文章を動詞で終わらせたら、それだけで脚韻を踏んだ状態に近くなってしまうんです。近くなってしまうんですが、同じような音で終わる用言はある程度似たような意味を持っているし、普通に書いて文章最後が同じ音で終わるのは実に普通のことですから、そんなことしても脚韻踏んだという感じは出ません。単に単調な文章だという感じがするだけになります。だからこそ、ラッパーは用言で終わる文章を避け、体言止めを多く使うことになります。

 日本語の定型詩には、おそらく、「これこれこのように韻を踏まねばならない」という決まりはありません。だからたいていのラッパーは自由に韻を踏んでいます。しかし、英詩には、脚韻の踏み方が明確に決まっている伝統的な定型詩がいくつかあります。ソネット(14行詩)がその代表ですが、ソネットの韻の踏み方はちとややこしいので、もっと単純お気楽なリメリックという詩型を紹介してみようと思います。リメリックは、日本で言えば川柳にあたるようなお気楽でたらめお笑いのコテコテな詩です。リメリック作者としてはナンセンス詩人エドワード・リアが著名。「不思議の国のアリス」のルイス・キャロル、SF作家のアジモフなども好んだ詩型です。日本人に著名なリメリック作者はいませんが、翻訳家柳瀬尚紀が、リアのリメリックを日本語脚韻を踏んで翻訳しています。

 リメリックは全部で五行の詩です。一行の長さはあまり長くない方がいいと思います。あまり長いと韻を踏んだという気分が薄れます。脚韻は、第1行・2行・5行と第3行・4行に踏みます。また、リメリックは、それぞれの行が何を述べるかおおまかに決まっています。内容・構成にルールがあると言いましょうか。下のような感じです。

1行目→主役登場
2行目→行動による主役の性格説明
3行目→述部の展開
4行目→述部の展開
5行目→オチ

……と書くと難しそうですが、別に難しく考える必要はありません。

佐々宝砂が書いたのは、こんなのです。

○例文2
みかん娘の住まいは静岡
みかんの他になに食べようか?
玉露の缶をわしづかみ
アルミも鉄もみんな噛み噛み
消化できずに入院八日

○韻の解説
1行目文末「しずおか」
2行目文末「ようか」
5行目文末「ようか」
表記の上では「おか」「うか」と2種類ありますが、発音は同じです。
"oka"で韻を踏んでいることがわかると思います。
韻を踏むときは、このように、表記ではなく発音で踏みましょう。

3行目文末「かみ」
4行目文末「かみ」
こちらは"kami"で踏んでます。


○課題4「日本語のリメリックをつくろう」
内容はどんなものでもかまいませんが、なるべくあほーなものにしましょう。
そしてなるべく2音で、もしできるものなら3音で韻を踏みましょう。
むしろダジャレを作るような気分で挑戦するといいかもしれません。

<<前へ  次へ>>


蘭の会へ戻る

会員随時募集中/著作権は作者に帰属する/最終更新日2006-02-14 (Tue)/サイトデザイン 芳賀梨花子

- Column HTML - [改造版]