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蘭の会 三周年記念 連載コラム

新 サルでもわかるレトリカル 会員番号000b 佐々宝砂



■ 第6回 どれくらい好き?

 今回はいきなり私事からはじまりまする。私んち夫婦は今年で結婚12年、子どもがないせいもあるけど、そろそろ夫婦の会話のネタが尽きてきました。どこの夫婦も結婚12年になればそんなもんでありましょーが、うちはふつーのふーふではないので(ほんまかや)、会話のネタが尽きても、会話が途絶えることは(あまり)ありません。で、何を話してるか。国際政治を憂えたり、児童虐待対策について話し合ったり、郵政民営化の是非について討論したり・・・などとゆーことをしているわけがなく、ただ単に言葉遊びの応酬をしているのでありました。

 具体例としては、「あららのあ」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=9401、「いちめんのなのはな」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=9354をごらんください。こんなことを頻繁にやっているのだから、ほんまにアホ夫婦です。このくだらん言葉遊びの応酬は愛から始まりました。いや嘘じゃないほんま。ほんま。頼むから信じてください。新婚のころの会話は、実に下のようなものでした。

「ねえ、私のこと好き?」「うん」「どれくらい好き?」「えーと」

 最初は手を広げて「これくらい」だとか庭の桑の木を指して「あの木の高さくらい」だとか可愛いことを言っていたのが、だんだんエスカレートして収拾がつかなくなってきました。髪の毛の本数くらい、銀河の星の数くらい、このあたりならまだ整数なので多少意味がわかります。光の速度くらい、円周率の長さくらい、相対性理論の難しさくらい、ここらでもまだなんとなくわからないでもありません。でも、だんだん意味不明になってきています。それでも「どれくらい」を伝えようとする熱意は伝わるし、ただ単に面白くもあります(アホでもあります)。

 そもそも「どれくらい好き」か問うことがナンセンスです。「誰それより好き」と比較はできますが、「どれくらい好き」かなんて、本人にだってわかりません。恋愛感情の度合いなど、定数化できるはずがないのです。強引に数にして、「無量大数(10の88乗)×阿僧祇(10の56乗)くらい好き」などと言ったら余計ナンセンスになってしまいます。しかし、「無量大数×阿僧祇くらい好き」という言葉の連なりは、「あいつより俺のほうが君を愛してるよ」という言葉の連なりよりずっと面白くないですか? 個人の好みかもしれませんが、私は誰かと比較して「あれより好き」と言われるより「無量大数×阿僧祇くらい好き」と言われたいと思います。趣味を除外しても、言葉を探してまくっている努力は「無量大数×阿僧祇」の方が強く感じられると思います。こーした会話こそ詩の始まりなのです、かどうかわかんないけど断言してしまいましょう、これぞ、詩の始まりなのです。

 私は、まえせつで、萩原朔太郎の「『どういふわけでうれしい?』といふ質問に対して人は容易にその理由を説明することができる。けれども『どういふ工合にうれしい』といふ問に対しては何人(なんびと)もたやすくその心理を説明することは出来ない。」という言葉を引きました。もちろん、アホ夫婦の「どれくらい」と萩原朔太郎の「どういふ工合」とは意味が違います。違いますが、ものすごく大きくかけ離れているわけではありません。答が難しい問いだという点では同じです。なんなら「どんなふうに好き」という問いかけに換えてもよいし、実際に私らアホ夫婦はそんな会話も交わしました。やってみるとわかりますが、「どんなふうに好き」という問いに答えるのは、「どれくらい好き」か答えるよりずーっと難しいのです。あまりに難しかったので、さすがのアホ夫婦も、時間が経つにつれ難しい問答から単なる言葉遊びの応酬に逃げていったのでありました。「思いを表現する」とはほんとに難しいことなのです。

 「音の雰囲気」「続音の雰囲気」で、言葉には意味だけではなくいろんな「感じ」や「雰囲気」があるんだよ、ということを書きました。前回のリメリックでは、押韻と簡単な起承転結の構成を練習してもらいました。なんのためにそういうことをしてもらったか。すべては、「思いを表現する」ためです。「思いを表現する」には、表現したい感情にふさわしい言葉と音を選ぶ必要があります。語彙が少なかったり、構成がわかりづらかったりすると、読み手にうまく伝わりません。しかし、ちょっとでも押韻の練習をすると、それだけで普段使わない語彙がひょっこり出てきます。また、きっちりした構成の定型詩の習作を続けていると、構成に気がまわるようになってきます。数をこなした方がうまくなるのは当然のことですが、だらだらと詩作の数だけをこなしても早い成果は期待できません。押韻と定型詩は、スポーツでいうと反射神経トレーニングと筋力トレーニングみたいなもので、基礎体力をつけるのに即効性があるのです。

 てなわけで今回はおしまい。

☆課題5「どんなふうに○○○○?」
「○○○○」の部分には、感情や気分を表す単語を入れて下さい。「悲しい」とか「しあわせ」とか。どんなものでもかまいません。4文字である必要もありません。で、その質問に答える形で4行詩を書きましょう。ただし、その4行に、感情や気分を表す単語そのもの「悲しい」「しあわせ」を使用してはいけません。

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会員随時募集中/著作権は作者に帰属する/最終更新日2006-02-14 (Tue)/サイトデザイン 芳賀梨花子

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