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蘭の会 三周年記念 連載コラム

新 サルでもわかるレトリカル 会員番号000b 佐々宝砂



■ 第30回 てやんでえ腐って何が悪いんでえ!
いきなりまた先月の話をひっくりかえすワタクシです。腐ったら腐ったで、そりゃそれなりに美味いんでえ、日本人なら味噌に納豆醤油にしょっつる糠漬け奈良漬け糀漬け、発酵仮面がおっしゃるに、腐ってなんぼの食いもんもあらぁ、メタファも腐ってなんぼだーい! というわけで語呂だけは景気よくはじまりました今月のサルレト。テーマは「啖呵」です。

佐々宝砂はケンカ売ってまわるのが趣味だからテーマを啖呵にしたんだろう、なんて言わないでくださいねー。ケンカのときのタンカは、本来「痰火」と書きます。「痰火」とは、激しい咳と一緒に飛び出す痰のことであって、要するに「ペッ」と吐き出す痰みたいな言葉です。今回テーマである「啖呵」は、香具師(やし)の口上のことです。香具師ってみなさんわかりますか。有名な香具師って誰だろうねとダンナに訊いたら「♪名も知ら〜ぬ遠き島より〜」と歌い始めました。それは島崎藤村の「椰子の実」です。香具師ではありません。私は〆切前で忙しいんだー!

香具師とは要するに、映画「男はつらいよ」の寅さんみたいなお仕事の人のことです。祭のときにはまだ見られますね。そんなにたいした品物を売るわけじゃないんだけど、巧みな口上で売る。この口上を得意とする香具師を特に「啖呵師」と言います。当たり前に売れるいい品物を売る人は、単なる香具師です。バナナのたたき売りもがまの油売りも啖呵師の仕事です。こうした口上には、たぶん著作権がないと思うんですが、直接コピーペーストしてしまうのも問題ありげな気がするのでリンクをはることにします。


バナナのたたき売り
http://www.kita9.ed.jp/mojikaisei-e/5nen/newpage2.htm

ガマの油売り
http://members.jcom.home.ne.jp/gamaken/koujyoubun3.html

外郎売
http://www.d7.dion.ne.jp/~hal9000/uirouuri.htm


最後の外郎売(ういろううり)は、今回のテーマからちょっと外れるのですが、滑舌の練習用テキストとして有名なのではりました。音声もあるので聴いてみたら、あまりにもおとなしくてこれじゃ香具師の啖呵じゃなくてアナウンサーの解説です。もっとポポポンポンと調子よく意味がないほど元気よく、だんだんよくなるほっけのたいこ、っていったいどんな意味があるんだろ、意味がなんだよ語呂が大事だ、七五と七七、八でもいいぜ、サアサアこいつが啖呵だァ!って私が啖呵売っても買う人がいないので売れませんがそれはさておき。

啖呵売りは、品物じゃなくって啖呵を売ります(品物も売りますがどっちかとゆーと品物はオマケです)。啖呵は調子のよい言い回しをつなぎあわせたようなもので、多少のストーリー性はありますが、たいして深い意味はありません。独自性も高くはありません。むしろどこかできいたような言い回しばかりでてきます。

たとえば「抜けば玉散る氷の刃」という台詞がガマの油売りに出てきますが、これは比喩としてはあまりにも凡庸、腐りに腐りきっております。「けっこう毛だらけ猫灰だらけお尻のまわりはクソだらけ」と、これは寅さんの啖呵ですが、ほんとお下品ですねー。「だらけ」で脚韻踏んでるといえばいえるかもだけど、たいしたもんではありません。「台湾娘に見初められ/ポッと色気のさすうちに/国定忠治じゃないけれど/一房二房もぎ取られ」これはバナナたたき売り、ぽっと色気がさすのは凡庸な比喩で腐ってるけどまあいいとして、なんでこれが国定忠治なのか、説明がなきゃわかりません。実は私にもよくわからず、昨日から必死に調べたのですがわかりません。国定忠治の部分は腐ってるどころか死んでるのかもしれません。でも言い回しを理解できないのも自分で情けないから、明日は図書館で広沢虎造の浪曲を借りてきて聴いてみようと思います。

先月書いた通り、比喩は腐ります。でも、腐ってもなお残る比喩は、ある意味おいしく発酵した古漬けか古酒のごとき比喩でして、大切な過去からの遺産として残してゆかねばならないと思います。まあ詩みたいなもんを書こうってんなら、浪曲講談落語に啖呵、その手の遺産を、若い衆に、ちったぁ継いでいただきたいと、佐々宝砂こと売れない啖呵師、お願い申して、今夜はさらば、と思いましたが、ふと気がつけば、サルでもわかるレトリカル、なんと今夜で30回! 私だけでも今夜はめでたく、祝い酒でも飲みましょうやとチョーヤの梅酒、さてもさてさて今度こそさらば!

サッ


○課題15
自分か自分の詩集を売るつもりで、啖呵を書いてみましょう。
できれば音読してみましょう。

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会員随時募集中/著作権は作者に帰属する/最終更新日2007-03-14 (Wed)/サイトデザイン 芳賀梨花子

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