第拾八號星間連絡駅にて
ア ラ・スタシオン
第拾八號星間連絡駅にて

レンブラント「キリストの復活」


第18駅は静かだった。惑星の待合室に昼夜はない。しかし、頃合はドゥガの夜更けにあたり、ドゥガから来た者たちにとっては眠りの時だった。彼らは、駅の中を照らす白いランプの光に疲労して座っていた。先刻、あれほど騒ぎ立てていた若者たちもあちこちへ腕を投げ出して、あっという間に深い眠りに落ちてしまっていた。
隅に座っている長衣をまとう異形の人々は、あまりに目深く頭巾をおろしているのでその表情は伺えず、もとより一言も口をきかぬので、眠っているかどうかは判然としない。長衣の皺さえも彫刻のように凍りついている。
ビュヴェットからは、僅かな唸りと共に、熱い飲料の焦げついた匂いが流れ出していた。
ただ、黒い制服を着た男たちだけは目覚めたまま、コーヒーのカップを手にして黙然と座っている。その彼らの猜疑に満ちた眼差しにさえも疲弊の色があった。
話し声は途絶えていた。寄り集まって眠るものも、一人一人離れて座るものも、その孤独な眠りを眠るだけだ。
ちりちりという、ランプの白い電球が燃える音。


ぽうんという曇ったチャイムが流れ、アナウンスが始まった。
乗客たちが体を動かす衣擦れの音がざわざわと立ち昇った。息を吐く音。
連絡船の到着が告げられている。搭乗は、この連絡船が全ての乗客の下船一時間後より始められる。
待合室の人々はみな同じ様に、査証と書類をそれぞれのポケットや袋などの奥から取り出し、開け閉めしている。
ビュヴェットには、飲み物を求める列が出来た。
まんじりともせずに夜を明かした制服の男たちは体を伸ばし、短く言葉を交わす。訛のない純粋な公用語特有のアクセントが生む、気障じみた、うねりのある旋律が響いた。その言葉は、待合室のざわめきを傍若無人に通り抜ける。
待合室の隅では、長衣の人々が身動きをした。眠りから目覚めへの移行も僅かな動きでしか示されなかった。そして一言も言葉を交わさない。
連絡船の搭乗アナウンスが流れると、人々は荷物を抱え、慌てふためいて搭乗ゲートへ向かっていく。
その騒擾が引いてゆくと同時に、僧たちは立ちあがった。
彼らが一斉に立ちあがると、頭巾に縫いつけられた藍いビーズがゆらゆらと揺れてぶつかり合い微かな音を立てた。その様はまるで今海から上がった者が青い滴をしたたらせているかのようだった。杖を突いた一人が列の先頭に立った。足音を立てない歩き方で進んでいく。ただ、衣の掠れる音だけがしていた。誰一人として口をきかないでいるのに、その動きは整然としていた。
先頭に立った潜水者が隠しから小さくされた紙入れを取り出す。広げると、それには彼ら全員のカードが納められている。僧は一人一人にカードを渡す。渡されたカードを彼らはコントローラーに見せ、乗船していく。
潜水者たちの後ろには、黒い服の官憲の男たちが続いた。一様に、胸のポケットから、黒い査証フォルダを取りだし開いて見せる。見せながら、彼らは、査証を検査する係員に目で挨拶する。そこには仲間意識が漂っている。係員は僅かに笑みをつくり、どうぞ、と言い顎をしゃくる。

全ての乗客が乗り終えると、扉は閉まった。
次の駅までの長い旅。

FIN.

 
 
 
 
 

 
 
 
 
無花果の間
正門


 
 

画像 Rose Moon
レンブラント キリストの復活 1639