夜の数え方は人によって違う。

全ての辺が等しくなければならない。白く塗られた正方形と正方形の部屋には何も置かれはしない。時折掲げられた額縁はまた次の日には外されて壁は再び白く塗りなおされるのだ、わずかな鋲の穿った跡すら残さぬよう。白は永遠に続く繰り返しの営みの色であり損なわれない無傷な空間であると不変であると宣言されている。そしてガラス窓だけが常に変わらない額縁としてまた貪る視線を発する瞼として掲げられたままでいる。しかし窓を伝う雨は冷たくはないだろう。ただ汗の滴のようなその水の珠は膨れ上がり支えきれず滑面を流れ下る。部屋は見えない水で満たされ魚は空気に溺れ呼吸を止められた生物がのたうち回る。と猶も水飛沫が上がるではないか。飽和したものを更に飽和させようとするのではないか。這いずり回るのは一瞬を何倍も生きる蔦の成長。濃緑の艶めかしいその蔓は一秒毎に伸びていつしかガラス窓を全て覆ってしまうのだろう。蔦の白い氣根は窓枠に絡み石の壁をはいずり忍び入り穿ち食い込んでいく。漆喰が溶けて蔦に養分を補給し更に侵食を促し際限などなく深ければ深いほどより激しくつのる希求の構図。蔦は石壁を締めつけ抱擁は解くことのできない縺れた糸。そして目覚めてもなお交わされているだろうくちづけの形。切断は死と教えられたとでも言うのか。蒸し暑さに眠りを誘われても未だ溶解は不完全であり接続を渇望する端末にはそれすら妨げでしかない。とめどない雨。雨。雨がガラス窓を伝い揮発した想念は空中を満たす。名前を数え交わしている水滴の落ちる音。音節の混ざり合うのかそれとも反発するのか球体と球体の衝突する音。白さもその上に重ねられた影の形も分かたれていればこそ感応する源泉。同じ型から鋳抜かれたというのは一つの冗談なのか平行するものを見出そうと言うように手のひらを合わせるように。そして忘れてしまうのだ、この濃緑の生命の命ぜられるがままに絡み合い這い尽くした蔦に覆われた窓の外のことを。ガラス窓は既に閉ざされた。ただ快楽が往復するのを眺めている夜の数を誰が数えると言うのか。


 
 
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無花果の間
正門