両手を組み、其の後開いて手を上げ挨拶する者より宿を求められし時は、如何なる相手であろうと、三日の間意を尽くして歓待せねばならぬ。旅によって知を求めるものを保護し、己の旅に備えよ。
広域のディヤーファ

 
黎明に目覚めるや、吟遊詩人の旅立たんとするを見出す。ディヤーファは終わりぬ。


未だ仄暗い前庭の道に、吟遊詩人は一輪の薔薇を手にして立っていた。蒼と黒の文様で彩られたそのギルドの衣装をまとい、顔をすっかり覆い隠していた。空気は露を含んで僅かに冷たく涼やかであった。
薬草園の女は黙ってその前で両腕を開いた。
吟遊詩人も同じく腕(かいな)を開き、挨拶を行った。
「歓待に感謝する」
「我が家に名誉をもたらされたことに感謝する」
広域の仕来りに従い言葉を交わす。
「そして、どこへ行く」
吟遊詩人は薄く微笑んだ。
「分からぬ。だが私の行き先は私が知っている」
「そうだ」
吟遊詩人は薔薇を掲げた。
「ではご機嫌よう。いつか、お前が名を広めて欲しければ私に頼むが良い」
そのまま、草園の門を出ていった。
薬草園の女は諸手を上げ、別れの挨拶を送る。
太陽は昇り、庭園の薔薇の露の最後の一滴を乾かそうとしていた。

 
 
 
無花果の間
正門