酋 - 漢字私註

説文解字

酋
繹酒也。从、水半見於上。『禮』有大酋、掌酒官也。凡酋之屬皆从酋。
十四酋部

康煕字典

部・劃數
酉部二劃

『韻會』『正韻』𠀤慈秋切、音遒。『說文』繹酒也。从酉、水半見於上、酒久則水上見而糟少也。『周禮・天官・酒正二曰昔酒註』昔酒、今之酋久白酒。《疏》酋、亦遠久之義。

又『博雅』酋、熟也。『揚子・方言』自河以北、趙魏之閒、火熟曰爛、氣熟曰糦、久熟曰酋、穀熟曰酷、熟、其通語也。

又酒官之長。『禮・月令』仲冬之月、乃命大酋。《註》酒熟曰酋。大酋者、酒官之長。酋者、久遠之稱。久熟者善、故名酒官爲大酋。

又『揚子・太玄經』酋、西方也、夏也、物皆成象而就也。《註》酋、聚也。物已成就、可蓄聚也。

又『爾雅・釋詁』酋、終也。『詩・大雅』似先公酋矣。《傳》酋、終也。嗣先君之功而終成之。

又雄也。『前漢・敘傳』『說難』旣酋、其身廼囚。《註》酋、雄也。

又矛名。『周禮・冬官考工記』酋矛常有四尺。《疏》酋、矛二丈也。

又酋長、魁帥之名。『左思・吳都賦』儋耳黑齒之酋、金鄰象郡之渠。《註》酋、渠、皆豪帥也。

又『韻會』酋者、語發聲也。

又『五音集韻』似由切、音囚。義同。

『集韻』或作

音訓

シウ(漢) 〈『廣韻・下平聲・尤・酋』自秋切〉
ふるざけ。かしら。をさ。をはる。すぐれる。まさる。

解字

白川

象形。は酒樽の形。上にを加へ、器中の酒氣の發することを示す。曾が釜甑(こしき)の上に烹炊の氣を加へてゐるのと同じ。

説文解字に繹酒なりとあり、繹酒は醳酒、久酒の意。『方言・七』に、河以北趙魏之間、火熟曰爛、氣熟曰糦、久熟曰酋、穀熟曰酷。(河より以北、趙魏の閒、〜、久熟を酋と曰ひ、〜。)と見える。『禮記・月令乃命大酋((仲冬の月)乃ち大酋に命ず)とは、冬釀のことを命ずるをいふ。

蠻族の長を酋豪といふのは、恐らく假借。金文に虜酋の字を嘼(獸)に作り、捕虜を「執嘼」といふ。獸は狩の初文。執嘼とは捕虜、戰獲の意であらう。

藤堂

象形。壺の中に酒が醸されて、外へ香氣が漏れ出るさまを描いたもの。

もと酒を搾る、搾り酒の意であつたが、のちそれを字で書き表し、酋は主に一族を引き締める頭の意に用ゐるやうになつた。

落合

會意。酒樽の象形であるの口の部分を強調し、穀物の實であるを加へた形。穀物を醱酵させて酒を造る樣子を表してゐる。米を小點に簡略化した字體があり、これが金文以降にの部分になつた。

字音が酉やに近く、酉(または酒の略體)は發音を表す亦聲符かも知れない。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 穀物の一種。酒造に用ゐるものであらう。《合補》2511癸未卜爭貞、受酋年。
  2. 地名。殷金文の圖象記號にも類似形が見える。《合集》24255王在師酋⿱犬廾(⿰犭又)。

漢字多功能字庫

金文はに從ふ。金文は豐兮尸簋に見えるが、決して後世の酋ではなく、尊の省文である。後世酋長を表す酋は、金文では酉や嘼を用ゐて表す。豐兮尸簋の器身、器蓋いづれにも銘文があり、それらの拓本では、一つは酋𣪕(簋)に作り、一つは尊𣪕(簋)に作る。「尊簋」は常用の語で、尊は祭祀に用ゐる器を表し、簋は黍稷稻粱を盛る食器のこと。

八は酉の上に加へられた飾筆で、古文字では常々橫劃の上に二つの短い劃を飾筆に加へ、義はない。酉と酋は一字の分化したもので、最初は酒、酒官を表す酋をまた酉を用ゐて表し、後に兩劃を飾筆に加へた酋が專ら酒官、酋長の義を表す。

金文では酉、嘼いづれも讀んで酋となし、酒官あるいは酋長を表す。

戰國竹簡では酋は瀏、漻の通假字となし、水の清いことを表す。《上博竹書二・容成氏》簡1丌𢛳(德)酋清は、其德淑清のこと。「瀏清」、「漻清」は「淑清」に相當し、水清くしかも深いことを指す(顏世鉉)。また君主の政の德を比喩する。《孔子家語・好生》舜之為君也、……德若天地而靜虛。(季旭昇)

屬性

U+914B
JIS: 1-29-22

関聯字

酋に從ふ字を漢字私註部別一覽・酉部・酋枝に蒐める。