酓 - 漢字私註

説文解字

: 酒味苦也。『廣韵』『玉篇』『集韵』《小徐本》皆同。汲古閣所據《宋本》奪此篆此解。而毛扆補之於部末。『〔史記〕夏本紀』用爲檿字。叚借也。

从酉今聲。於剡切。古音在七部。; 十四・酉部・增補

『廣韻』『集韻』𠀤於琰切、音黶。與檿同。『史記・夏本紀』其篚酓絲。《註》孔安國曰、酓、桑蠶絲、中爲琴瑟絃。

又『廣韻』酒味苦也。

又『集韻』徒南切、音覃。又呼含切、音㟏。又於念切、音𨡎。義𠀤同。

又『集韻』於豔切、音厭。酒盈量也。

又於錦切。同飮。

音: (1) エム(漢、呉) 〈『廣韻・上聲・琰・黶』於琰切〉[yǎn]{jim2}; (2) イム(漢) オム(呉) 〈『康煕字典』於錦切、上聲寢韻〉[yǐn]{jam2}
訓: (1) にがい。やまぐは。; (2) のむ

酓は酒壺に蓋栓を加へた形で、飮の初文。

酉(酒壺)と聲符今(蓋をして閉ぢる)の會意兼形聲。

甲骨文は飮の異體。酉を意符、今を聲符とする形聲字。飮と今は上古音で同部。

甲骨文、金文の飲字は、舌を伸ばした人の形と酉に從ひ、酒を飲む人の形全體を描いてゐる。酓は飲の省文で、ただ酒甁に向いた倒口を書いてゐる。金文はその後亼を聲符の今に改める。

甲骨文、金文では本義に用ゐ、飲むことを表す。

また楚國の姓に用ゐる。他國ではあるいは熊に作る。

戰國竹簡での用義は次のとほり。

飲むことを表す。
- 九店楚簡56號墓簡35利於酓(飲)食。
- 《上博竹書五・弟子問》簡8酓(飲)酉(酒)。
含の通假字となす。
- 《郭店簡・老子甲》簡33酓(含)德之厚者、比於赤子。(補註:『老子・第五十五章』に相當。)
人名に用ゐる。
- 新蔡楚簡零簡254[祝]融、穴酓(熊)の、祝融、穴熊は楚國の先祖のこと。熊字の韻部は、中古には東部に屬し、早期には東、冬の二部は分かれてゐない。冬部の字(ng尾)は上古には侵部(m尾)に屬し、現代閩南話(厦門、潮州など)では熊字と飲字の韻母は同じく、m尾で、上古音を保留してゐる。