説文解字私註 己部

己部

説文解字
中宮也。象萬物辟藏詘形也。己承戊、象人腹。凡己之屬皆从己。
𢀒 古文己。
康煕字典
部首
『唐韻』居擬切『集韻』『韻會』苟起切『正韻』居里切、𠀤音紀。『廣韻』身也。『韻會』對物而言曰彼己。『書・大禹謨』舍己從人。『禮・坊記』君子貴人而賤己、先人而後己。
『韻會』私也。『論語』克己復禮。
『釋名』紀也。『詩・小雅』式夷式己。《箋》爲政當用平正之人、用能紀理其事也。
日名。『說文』己、中宮也、象萬物辟藏詘形也。己承戊、象人腹。『爾雅・釋天』太歲在己曰屠維、月在己曰則。『禮・月令』季夏之月、其日戊己。《註》己之爲言起也。
官名。『後漢・西域傳』元帝置戊己校尉、屯田於車師前王庭。《註》戊己中央、鎭覆四方。又開渠播種、以爲厭勝、故稱戊己焉。
『集韻』口已切、音起。姓也。『詩・商頌』韋顧旣伐、昆吾夏桀。《箋》顧、昆吾、皆己姓也。
おのれ。つちのと。をさめる。
解字(白川)
己形の矩(定規)の形に似た器。角度を定める定規や絲の卷取りに用ゐるもので、紀の初文。
自己の意に用ゐるのは假借で、本義ではない。
解字(藤堂)
古代の土器の模樣の一部で、屈曲して目立つ目印の形を描いた象形字。注意を呼び起こす意を含む。人から呼び起こされる者の意から、おのれを意味することになつた。
解字(落合)
甲骨文では十干の用法しかなく、成り立ちを明らかにするのは難しい。類似の形を見ると、弗は己で何かを縛る形に見え、雉の異體字(補註: 偏は矢と己の合文、旁は隹)では、鳥を捕獲するため矢に附けた紐として使はれてゐる。從つて、己は紐の象形であると推測される。
解字(漢字多功能字庫)
甲骨文、金文は、くねり曲がる繩を象り、本義はものを縛る縄。紀の初文。後に自己を表し、借りて十干の六番目となす。拘束するための繩から轉じて、己に從ふ紀は、綱紀、法紀、紀律などの義を表す。
甲骨文、金文、戰國竹簡では、十干に用ゐ、年月日を記するのに用ゐる。
戰國竹簡や漢帛書ではまた自己を表す。
古書では自己を表す。
當用漢字・常用漢字

説文解字
謹身有所承也。从。讀若『詩』云、赤舄己己。
康煕字典
卩部六劃
『唐韻』居隱切『集韻』『韻會』几隱切『正韻』居忍切、𠀤音緊。『正韻』从丞从卩。俗作𢀿。『廣韻』以瓢爲酒器、婚禮用之也。『儀禮・士昏禮』四爵合卺。《註》合卺、破匏也。
禮記・昏儀
先俟於門外、婦至、婿揖婦以入、共牢而食、合巹而酳、所以合體同尊卑以親之也。
キン
さかづき
解字(白川)
と㔾の會意。㔾に從ふのが正形。
『禮記・昏儀』に合巹してそそとあり、瓢を半截にして杯とし、これを酌み交はす意で、本邦の三三九度に當たる。瓢を半截にして重ねるのは象徵的な意味を持つ方法で、抱擁の意があり、卺の字形も色と同じく、上下に人を重ね、合卺を字形的に表現したものである。
解字(藤堂)
會意。は人を助ける意を含む。卺は、自分を律し相手を助ける意を表し、結婚の固めの酒杯を示すのに專用される。下部の己を變へて㔾と書く。

説文解字
長踞也。从聲。讀若杞。
康煕字典
己部八劃
『玉篇』奇己切『集韻』巨几切、𠀤忌上聲。『說文』㠱、長踞也。『玉篇』長跪也。或作
『類篇』口已切、音起。古國名。衞宏說與同。
解字(白川)
聲符は。己に屈曲するものの意がある。説文解字に長踞するなり、『玉篇』に長跪するなりとあつて、足を組んで箕踞することをいふ。跽、跪と聲義が近い。卜文、金文に國名として見え、山東に㠱器の遺品が多い。
解字(漢字多功能字庫)
甲骨文はに從ふ。己、其とも聲符。卜辭では地名に用ゐる。
商末の甲骨、金文に㠱侯が見え、即ち文獻中の箕子、金文の㠱は省略して其につくるも可といふ。
金文は甲骨文を承け、後に其の下を丌の形につくる。丌の音は基、同じく聲符となす。西周金文の㠱は文獻に記載されてゐる紀國のことで、國姓は姜、省いて己につくるも可。また人名に用ゐる。無㠱簋王易(賜)無㠱馬四匹。「無㠱」は後世でいふ「無忌」。また通じて期となす。鼄太宰簠萬年無㠱(期)、子子孫孫永保用之。
戰國竹簡では省いて簸箕の形を取り去り、[己丌]につくり、通讀して己となす。《上海博物館藏戰國楚竹書二.從政》行才(在)[己丌](己)而名才(在)人、名難靜(爭)也。また通讀して忌となす。《郭店楚簡.老子甲》30夫天[下]多[己丌]韋」、「[己丌]韋」は王弼本では「忌諱」につくる。(補註: 該當箇所は『老子・第五十七章』「「夫天下多忌諱、而民彌貧。)
説文解字注の註に按集韵㠱古國名。衞宏說與杞同、葢衞宏以㠱爲杞宋之杞。此出唐人所謂衞宏官書、多不可信。とある。