説文解字私註 䢅部

䢅部

説文解字
早昧爽也。从𦥑。辰、時也。辰亦聲。𠃨夕爲𡖊、臼辰爲䢅、皆同意。凡䢅之屬皆从䢅。
康煕字典
辰部六劃
『唐韻』食鄰切、音辰。『說文』早昧爽也。从𦥑从辰。辰時也。互詳字註。
シン
あした
解字(白川)
(脤肉)を兩手で持つ形。
解字(漢字多功能字庫)
金文は二に從ひ、辰は亦た聲符。爪は倒手の形を象り、辰は除草の農具(蜃器)を象り、䢅は兩手で農具を持つ形を象る。恐らく除草し土地を開墾することを表し、本義は農耕、農と義が近い。また、振の古字とする學者もゐる。
金文は或は二爪の間に一または二の小筆を加へる。或は字形の下にあるいはを加へる。簡帛文字は下にを加へ、早晨のに專用するやうになる。
金文では多く人名に用ゐ、また音の近い振の通假字となす。
後世では通じて晨となす。

説文解字
耕也。从囟聲。
𨑋 籒文䢉从
𦦥 古文䢉。
亦古文䢉。
康煕字典
辰部六劃
《古文》䢉𦦥辳𨑇𣊤𨑋𨑆𦦤莀
『唐韻』『集韻』𠀤奴冬切、音儂。『說文』耕也、種也。『書・洪範』農用八政。《註》農者、所以厚生也。『周禮・天官・大宰』以九職任萬民。一曰三農生九穀。《註》三農、山農、澤農、平地農也。『左傳・襄九年』其庶人力于農穡。《註》種曰農、斂曰穡。
神農、古炎帝號。『前漢・食貨志』闢土植穀曰農。炎帝敎民植穀、故號神農氏、謂神其農業也。又萬山氏有子曰農、能植百穀、後世因名耕甿爲農。
司農、官名。『前漢・百官志』秦曰治粟內史、漢景帝更名大司農。
弘農、郡名。『前漢・地理志註』武帝元鼎四年置。
姓也。『風俗通』神農氏後。
叶奴當切、音囊。『潘岳・籍田頌』思樂甸畿、薄采其芳。大君戾止、言籍其農。
叶奴刀切、音猱。『束皙・勸農賦』惟百里之置吏、各區別而異曹。考治民之踐職、美莫富乎歡農。
簡体字
ノウ
たつくる。たつくり。たがやす。
解字(白川)
農の金文は田との會意。辰は蜃器。古くは蜃(はまぐり)など貝の切片を耕作の器に用ゐた。蓐、耨は草切ることをいふ。卜文の字形はと辰に從ひ(補註: 辳の形)、もと草萊(草原)をひらくことを示すものであらう。のち林が艸になり、田になり、曲は更にその形の誤つたものである。
䢉は、膿、醲系統の字で、濃密の意。もと農と關するところはない。
解字(藤堂)
甲骨文は(貝)の會意字で、林を燒き、貝殼で土を柔らかくすることを示す。
篆文は辰(貝)と𧗕(頭の膿を兩手で絞るさま)の略體で、堅い土を貝殼で掘つてねつとりと柔らかくすること。
解字(落合)
甲骨文は石製の農具であるで木やを刈る形の會意字。農具を持つ手()を加へた異體字もある。
西周金文で上部を耕作地を意味する田と兩手の形の𦥑に置き換へた字形がつくられ、更に隸書で田と𦥑が融合し曲の形となつた。
解字(漢字多功能字庫)
甲骨文、金文は、に從ひ、金文は或は加へて田に從ふ。辰は上古の除草の農具で、農の本義は用具を用ゐて田中の雜草を清除する意。轉じて耕作の意。甲骨文、金文は、或は又を省く。小篆に至つて二手を象る𦥑に從ふやうに變はる。
甲骨文では開墾し除草することを表す。また地名に用ゐる。金文では耕作を表す。また人名に用ゐる。また稼穡、農作物を指す。
戰國竹簡では農耕を表す。
小篆は䢉につくる。
當用漢字・常用漢字