説文解字私註 正部

正部

説文解字
是也。从以止。凡正之屬皆从正。
古文正从𠄞。𠄞、古上字。
𣥔𧾸 古文正从一、足。足者亦止也。
康煕字典
止部(一劃)
《古文》㱏𣥔𤴓𧾸
『唐韻』『韻會』『正韻』𠀤之盛切、音政。『說文』是也。从止一以止。《註》守一以止也。『新書・道術篇』方直不曲謂之正。『易・乾卦』剛健中正。『公羊傳・隱三年』君子大居正。
備也、足也。『易・乾・文言』各正性命。『書・君牙』咸以正罔缺。
『爾雅・釋詁』正、長也。『郭註』謂官長。『左傳・隱六年』翼九宗五正。『杜註』五正、五官之長。又『昭二十九年』木正曰句芒、火正曰祝融、金正曰蓐收、水正曰𤣥冥、土正曰后土。
官名。『禮・王制』史以獄成告於正。『鄭註』正、於周鄕師之屬、今漢有正平丞、秦所置。
朼載也。『周禮・夏官』諸子大祭祀、正六牲之體。《註》正謂朼載之。朼、亦作匕。
常也。朱子云、物以正爲常。又正人、尋常之人也。『書・洪範』凡厥正人。『朱子・語錄』是平平底人。
定也。『周禮・天官』宰夫令羣吏、正歲會、正月要。《註》正、猶定。
決也。『詩・大雅』維龜正之。
治其罪亦曰正。『周禮・夏官』大司馬九伐之法、賊殺其親則正之。《註》正之者、執而治其罪。『王霸記』曰:正、殺之也。
直也。『易・坤・文言』直其正也。『爾雅・釋泉』濫泉正出。正出、直出也。
平質也。『論語』就有道而正焉。『屈原・離騷』指九天以爲正。《註》謂質正其是非也。
以物爲憑曰正。『儀禮・士昏禮』父戒女、必有正焉、若衣若筓。《註》有正者、以託戒使不忘。
釐辨也。『論語』必也正名乎。
四月亦曰正月。『詩・小雅』正月繁霜。《箋》夏之四月、建巳之月。《疏》謂之正月者、以乾用事、正純陽之月。又『杜預・左傳・昭十七年註』謂建巳正陽之月也。正、音政。
預期也。『孟子』必有事焉而勿正。『公羊傳・僖二十六年』師不正反、戰不正勝。
三正。『史記・歷書』夏正以正月、殷正以十二月、周正以十一月、蓋三王之正若循環然。『後漢・章帝紀』王者重三正、愼三微。《註》三正、天地人之正。
人臣之義有六正、謂聖臣、良臣、忠臣、智臣、貞臣、直臣也。見『說苑』。
七正、日月五星也。『書・舜典』作七政。『史記・律書』作七正。
八正、謂八節之氣、以應八方之風。『史記・律書』律歷、天所以通五行八正之氣。又『大品經說』八正、曰正見、正思惟、正語、正業、正命、正精進、正念、正定。『王屮・頭陀寺𥓓文』憑五衍之軾、拯溺逝川。開八正之門、大庇交喪。
先正、先賢也。『書・說命』昔先正保衡。
諡法。『汲冢周書』內外賔服曰正。
通。『詩・小雅』今兹之正。『禮・月令』仲春班馬正。皆與政同。
朝覲曰朝正。『左傳・文三年』昔諸侯朝正於王。『杜註』朝而受其政敎也。亦讀平聲。『杜甫詩』不見朝正使。
姓。『廣韻』宋上卿正考父之後。漢有正錦、『後魏志』有正帛。又複姓、漢有正令官。
宗正、星名。『甘氏星經』在帝座東南、主宗正卿大夫。
『廣韻』之盈切。『集韻』『韻會』諸盈切『正韻』諸成切、𠀤音征。歲之首月也。『春秋』春王正月。『公羊・穀梁傳註』音征。或如字。今多讀征。
室之向明處曰正。『詩・小雅』噲噲其正。
射侯中曰正。『周禮・夏官』射人以射法治射儀、王以六耦射、三侯五正。諸侯以四耦射、二侯三正。孤卿大夫以三耦射、一侯二正。士以三耦射、豻侯二正。『詩・齊風』終日射侯、不出正兮。『毛傳』二尺曰正。《疏》正大於鵠、三分侯廣、而正居一焉、其內皆方二尺。又『儀禮・大射儀鄭註』正者、正也。亦鳥名。齊魯之閒名題肩爲正。正、鳥之捷黠者、射之難中、以中爲雋、故射取名焉。
通。『周禮・夏官』諸子有兵甲之事、則授之車馬、以軍法治之、弗正。《疏》正、音征。謂賦稅也。
唐武后作𠙺
セイ。シヤウ。
ただす。ただしい。をさ。まさに。
解字(白川)
の會意。古い形は、一を囗につくり、囗は都邑、城郭の象。これに向かつて進む意、征の初文。征服者の行爲は正當とされ、その地から貢納を徵することを征といひ、強制を加へて治めることを政といふ。支配に當たるものを正といひ、官の同僚を友正といふ。征服、征取、政治の意より、正義、中正、また純正、正氣の意となる。
解字(藤堂)
の會意。足が目標の線に目掛けて眞つ直ぐ進むさまを示す。征(眞つ直ぐに進む)の原字。
解字(落合)
都市を圍む城壁()に足()を向ける形で、攻擊を意味する。繁文は征。甲骨文の段階で征の形も見える。
解字(漢字多功能字庫)
甲骨文、金文はに從ひ、丁は亦た聲符。丁は行き先あるいは城邑を示し、止は人が趾を以て目標に向け前進するを象る。征の初文。本義は遠くへ行くこと。後に糾正、偏正の正を表す。
甲骨文、金文に、二止に從ふ字形もある。また、西周金文には、丁の中を塗り潰して圓い點につくるもの、簡易にして横一劃につくるものがある。春秋金文には短い横劃を飾りに加へて㱏のやうにつくるものもある。
正の本義は遠くに行くことで、人が足を以て目的地に向け進發するを象る。正、征の本義は當初は軍旅討伐に限られてをらず、邦國を巡視し郊野に狩獵することも正と稱した。ただ、後に征伐の義に偏重した。正字が糾正や偏正の意を表すやうになり、彳を加へて征字を分化した。
甲骨文では讀んで征となし、討伐を指す。また、「正月」の語が多く見られ、一年の最初の月を表す。また地名、祭名に用ゐる。
金文では讀んで征となし、征伐を指す。また「正月」の語がある。また、官の長を指す。また讀んで政となし、政令を指す。また、考査、審査、檢査の義を有す。
戰國竹簡では正直を指す。また用ゐて征となし、徵税を指す。また用ゐて政となし、政治を指す。
當用漢字・常用漢字

説文解字
乏𣥄『春秋傳』曰、反爲乏。
康煕字典
丿部四劃
《古文》𠓟
『唐韻』房法切『集韻』『韻會』扶法切、𠀤音伐。無也。『孟子』空乏其身。『禮・月令』季春、命有司振乏絕。《註》暫無日乏。
匱也。『左傳・成二年』韓厥曰、敢告不敏、攝官承乏。《註》猶代匱也。
廢也。『莊子・天地篇』子往矣、無乏吾事。『戰國策』不敢以乏國事。
射者所蔽。『周禮・春官』車僕大射共三乏。《註》一名容、用皮爲之、王大射張三侯、每侯有乏、使持旌告獲者、藉以蔽矢也。『儀禮・鄕射禮』乏參侯道。《疏》三分侯道。
『左傳・宣十五年』文反正爲乏。『說文』反止爲之、反正爲𣥄。『徐鉉曰』尙書、惟正之供、反正不供、故曰乏。『通志』正乃射侯、正以受矢、乏乏以藏矢、是相反也。
ボフ。バフ。ハフ。
補註: 字音がボフなのかバフなのかは議論がある模樣。字音仮名遣の変遷參照。
とぼしい。すてる。やふせぎ。
解字(白川)
仰向けの屍體の象。水に浮かぶものは泛、土中に埋めることを窆、覂といふ。字はの反形ではなく、寧ろの反文に近い。乏困の意は、その天禄の少ないことをいふ。矢防ぎの意は、窆を轉用したものであらう。
解字(藤堂)
の上下反對の形。正(眞つ直ぐ進むこと)とは反對の、動きが取れないの意を表した。
解字(漢字多功能字庫)
金文は丿と止に從ひ、の形に近いが、一番上の一劃は斜めである。不正の義。正の金文は左右で區別されるものではなく、正と乏は頂上の一劃が横か斜めかで區別された。(補註: 即ち説文解字にいふところの正の反文たるに非ず)
金文では廢に通じ、荒廢を表す。
戰國金文では法の通假字となし、刑法を表す。
馬王堆漢帛書では通じて犯や範などとなす。
當用漢字・常用漢字