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2008年10月詩集「迷」
女の迷い  
ノーリターン  
ココニアルコト  
合わせ鏡  
くだんの恋  
人間迷子  































女の迷い

yoyo
 

いつもと同じように
あたしの誕生日は雨で
暮れていく夕日も
昇りゆく太陽も
曇天が邪魔をする

一粒でいいから
二粒はいらないから
枯れる前に
狂い散る前に
オリオンに祈りたい

もう祝ってもらわなくていい
そこに平穏な時が
そっけなくおかれている
そんな風景を
錚々と歩きたい

美しくもなきゃ
可愛くもない
まして愛嬌など
だからお願い
たった1滴よ心に沁みれ



















ノーリターン

http://home.h03.itscom.net.gure/eme/
九鬼ゑ女
 

…夢はどこ?

縋る思いで手を伸ばし
一歩、足を踏み入れた
どこをどう歩けばいいのだろう

手元の砂時計は
さらさらと零れていく
ひっくり返せば
今が消えちゃうんじゃないか
全てが無に孵りそう…で、怖い

…愛はどこ?

キスは綿菓子のよう
噛みごたえもないのに
ただ甘く、喉に絡みつく
情欲はしつこく色を塗りこめ
エクスタシーの波に支配されていく

快楽はこころの奥にまで粘り
からだはとっくに蕩けていて
明日まで持ちこたえられそうになく…て、困る

時は
迷いを抱き込んで
堕ちていくばかりだし

愛に
夢に
マミレアウ日は来るのだろうか



















ココニアルコト

ナツノ
 

空の上から 観られてるのだろう

なんて ちっぽけな オマエの迷いよ

ざあっと 秋の暮れの うす暗闇から

生ぬるい風が 起こって

…あきれてしまう

なまけものの 迷いよ

…恥を知れ


ココニアルコト とは
 
金木犀の 香りに ふらり

迷うから こそ

悩むから こそ

鏡にうつる 自分をみている 自分が

自分を 自分だと 知ることが出来る



そんな 言い訳さがしてる

いっそ

鏡を通り抜け 向こうの世界へ

吸い込んで

脳みその 余分なぶぶんを

吸い取って

…もう これ以上 迷わないように 



















合わせ鏡

宮前のん
 

お風呂上がりに
うなじを剃ろうと
鏡台の前で
手鏡をかざす
瞬時に遠くまで廊下が出来て
沢山の私が一斉に並ぶ
さて一番手前の私は確かに
右手にカミソリを持って
うなじを剃ろうとしているが
3人め4人め
5人めくらいになると
段々と遠のいて
こちらから見えないのを
いいことに一体
何を切ろうとしてるのか
鏡の回廊は
ずっと奥まで続いて
どこへ繋がっているのか
ひょっとして
明日の夜逢うはずの
あなたの頬に
カミソリ負けでもあったら


面白いのに
 


 



















くだんの恋

佐々宝砂
 

赤い振袖着た両手を捕縛され、
とぼとぼとつれてゆかれた先、
頭に二本角の男がいた。
やい牛女、とそいつが言った。

あたりいちめんは明るくひらけた草原で、
あちこちに幟があった。
私の片手には赤い毛糸玉があって、
その毛糸にははしっこがなかった。

メビウスの輪のように、
つながりうらがえる言葉、
クラインの壺のように、
つながりうらがえる歴史、

私の心には、
迷宮よりも混乱した預言が浮かび、
沈み、

やい牛女。
俺が何者かわかるか?
頭に二本角の男が言った。

わからないと答えたら、
そいつはいきなり私を抱きしめて泣き出した。
俺はミノタウルスだとそいつは言った。

同じ血だ、同じだ、同じなんだなぜわからない!
叫びながら、
ミノタウルスは私を縛めていた縄をナイフで切り、
さらに私の腕に何条もの傷をつけた。
血がたらたら出た。
痛くないのが不思議だった。



















人間迷子

赤月るい
 

また 同じアスファルトの上で出会うのか
さびれゆく町
いつかも歩いた古市通り
角のたばこ屋
足しげく通った駄菓子屋 ひとつだけ遊具のある公園

このままいっても 何度生まれてきても
私は彼や彼女と出会いつづけて
裸のまま抱き合う
蟻地獄のよう

連れ去られて手をつなぎ 
はい上がっては落ちてくる
まるで
蟻地獄のよう

越えてゆこうと挑んでは
引き戻されて悔し涙
ざらついた壁に頬をこすりあてる

ひとりきりになって
壁をよじ登ろうが 永遠に抱けぬ太陽
抜けられない 
どれだけ歩いても 求めても
つづいてゆくだけの日々

本当はかなしい旅の途中
本当はかなしい牢獄の中
孤独を希望でごまかしながら
剥がれおちては元の惨劇
何度もくりかえしてさ 何度もおなじ道を
























2008.10.15 発行/蘭の会

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)