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2008年4月詩集「しっぽ」
逸品…suguremono  
憂春  
尾骨  
あと何本  
女の尻には尾っぽが生えている  






























逸品…suguremono

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九鬼ゑ女
 

…しらぬまにでした。

尾てい骨の真下からです。
だらりと紐のように垂れ下がっていました。
「まぁ…なにかしらん?」
太さはほんの数センチほど。
長さは膝のあたり。

おっかなびっくりでしたが
親指と人差し指でそうっと抓んでみました。
しとどに汗ばんでいて
人肌に生暖かいんです。
首を傾げながらもおずおずと
股の間から覗き込んでみました。
毛など一本も生えてはいません。
蛇のような鱗もなくて
薄い被膜に覆われたその下
赤い動脈と青い静脈が
微かに波打っているのが見えました。

好奇心にそそのかされるまま
思いきって舌先でぺろりと舐めてみました。
味はしませんでしたが
なぜか乳首はツンととんがるし
胸の谷間から爪先まで
緋色を描いた稲妻が
一筋駆け抜けていったのです。

するとどうでしょう。
今までしょぼくれていたソレがです。
見る間にふくれっ面になってしまって…

そこでです。
少し頭を冷やしてあげようと
ひんやりした蜜壺に
ぐいと押し込んでやったのです。
ところが急にそんな秘所に入れられて
拗ねたのか、それとも恥ずかしかったのか
益々膨張したソレは
今度はくねくねとうねりだし
滾った頭のてっぺんが
何度も壺のマトの真ん中に突き当たりました。

丁度その瞬間でした。

太腿の隙間からは
火照ったよがり声が
ひと雫
「…いい」
そう流れ出していたのです。


















憂春

ナツノ
 


花ぐもりの 春の日には
街に 無言のチカラ みちみちて
息苦しくて

萌え出る季節
イノチの気配の
重圧感が ちょっとツライ

あなたが いつになく
優しく 微笑んだりするから
ワタシはもう 涙目で
降り出した 花散らしの雨に
打たれてる

もしかして
大地の底からわきあがる この 得体の知れない
春の熱を
あなたも 感じ取っているの
そのうしろ姿で 隠れた尻尾で

ケヤキの うす緑の芽が
知らぬ間に みるみる吹き出している

ワタシは そわそわ 怖気づき 
古木の根元に 寄り添うけれど
さくらは 
はらはら 身をちぎり
伏し目がちに 散るばかり


















尾骨

宮前のん
 


私のお尻にはシッポがある
小指の先ほど突き出ている
子供の頃は痛みがひどくて
じっと座っていられなかった
年頃になって肉タブが増えて
昔程ではなくなったけれど
今でも指で割れ目をなぞると
ツンと押し返す突起がある

サルなら枝を抱えるだろう
ウシならアブを払えるだろう
だけど、私のこのシッポは
一体何のために存在するのか
ずっと疑問だったのだけれど

去年別れたあの人は
両親以外でシッポを確認した
史上初めての人類で
私に後ろから取り付く時など
そのシッポをなぞりながら
とても動物的な気分になると
うめき声まじりに話してくれた
その瞬間が好きだった


 


















あと何本

佐々宝砂
 

ゆら、と、
闇の中で黒が動く気配、
みどりの光点がふたつ、
ケヤキの根元にうずくまる。

杖はニワトコの枝、
髪に飾るのはキツネノテブクロ、
はだかの胸に塗りたくる胎児の脂肪、
そんなもので飛べると信じていた、
そんな牧歌的な人々の仲間ではない、

三重に偉大なヘルメスの教えを盗み、
黒山羊の尻に接吻し、
ワルプルギスの夜に舞い狂う、
そんなことはやっていない、
そんなことは夢見たことさえない、

それでもあれは、
伝承通りに黒い猫の姿をして、
軽やかに闇を行く、
その尻におどる長いものは、
あと何本増えるか。


















女の尻には尾っぽが生えている

伊藤透雪
 

えらく機嫌がいいじゃないか?
今日は何があったんだい

うん、と頷いたまま微笑む後ろから
見えているよ、柔らかい毛の生えた長い尾っぽ!
気まぐれなおまえの尻からは
いろんな尾っぽが生えてくる

おとついちょっと口走った昔話に
口を尖らせたおまえの後ろから
鉤形の真っ黒いのが飛び出してきて
不気味に揺れだしたときは慌てたもんだ
話題を変えても時遅し
憐れおいらは串刺しだ

一緒に歩いているときは
おまえの尻の上に
あひるの尾羽が右左
なかなか眺めがいい
だから腕を組むより後ろ姿を見ている方が
絶対楽しいとおいらは思うんだが
早く、と腕を絡ませてくる腕を
ほどくわけにもいかない

街にはいろんな尾っぽが生えた女たちが歩いている
ついついよそ見をしてしまい
何度おまえの尾っぽがピリリと立って
真っ黒になっただろう

あひるのおまえもいいけれど
ふわふわの毛の生えた猫のおまえがいちばん可愛い
甘えた声で擦り寄る尻から生えた長い尾っぽが
優しく揺れたら気持ちがほっとするんだ

でもときどきよそ見をして
他のを見るのは好奇心なんだよ
おいらも男だから多目にみておくれよ























2008.4.15 発行/蘭の会

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