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2008年1月詩集「首」
曝首------sarekaube  
いちじつの空  
首コレ・デ・ラックス  
点検初め  
三首丘  
クビ  
十九首−じゅうくしょう−  
あなたに首ったけ  






























曝首------sarekaube

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九鬼ゑ女
 

ナゼ押シ黙ッタママナノデスカ?
私ノ嗚咽ガ聞コエナイノデスカ?

応へが戻ってこないのは
懺悔といふ垂れ幕が
邪魔をしてゐるからなのですね。

私から滴り落ちてくる未練といふ雫も
実を申せば
邪魔もの以外の何ものでもありませぬ。

あなたの映写機は
すっかり朽ち果てて
レンズは紗がかかって
その奥はすっかり
空洞になってしまったのでせう。

でもお願ひです。
ほんの一瞬だけ
私の記憶に曝された
愛しい首をもたげ  /kaube
滾る埋み火を覆ひ隠してくれませんか?

……ダメデスカ
デハ、
最後二、ヒトコトダケ
サフ、ホンノヒトコトダケ

二人の眼窩に常に喘いでゐた恍惚が
今も花芯を濡らし続けて困るのです。
あなたはそのことにすら首を垂れて
……イルノデ、セ・ウ・カ?

愚問デシタ、ハハハ。
アナタノ首ハ
トウノ昔
現実トイフ名ノ
墓穴二沈メラレタ
……ノデシタ、ヨ・ネ・エ。


















いちじつの空

ナツノ
 

新年も変わりなく 流れゆく
時々刻々と 
針は動く 胸につけた電池 続く限り

張り詰めた空 ピンと どこまでも青く

伸びして 吸い込んだ いちじつの
冷たい空気 噴き出した
右から左へ ぶうんと 首が
飛んでゆく

目をこする 雲ひとつない
冷気の中 ぐるぐる回りながら
飛んでゆく 山の彼方へ 

おかげさまです 思わず手を あわせます
目をあけると
群れ成す 首が 西へ 西へと

どうぞ そのまま 安らかに
お往きください
ワタシはまだ まだ ガンバリマス
ここに在ること たとえ 仮の姿としても

もう何も 考えますまい 
胸の電池の 続く限りは


















首コレ・デ・ラックス

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鈴川夕伽莉
 

年末ジャンボは年末に売るから年末ジャンボなんだな
仕事初めの朝、急に寂しくなった
河原町今出川を下がる信号待ち
宝くじ屋は閉まっている
糺の森を越えてくる風が
くじ売りのおじさんと
おじさんの口上を連れ去ってしまった

「ドロシー・ゲイル!!」
陳列棚の首のひとつが彼女の名を呼ぶと
残り数百の首が一斉覚醒し
射殺さんばかりにドロシーを睨んだ!
そんな、ほとんどホラーみたいな映画「オズ」が好きだった
ジュディ・ガーランドが出てるやつじゃない
「オズの魔法使い」の続編にあたる、
「オズの魔法使いとオズマ姫」という原作を下敷きにした
80年代くらいに製作されたやつ
ノームに侵されたオズの国を救うべく
ドロシーはふたたび異世界へ旅立つ
悪い魔女は気に入った女を殺しては
その首をコレクションしていた

ちいさい頃、きょうだいや従姉妹たちと一緒に
何度も再生したビデオテープ
ダビングの画像は擦り切れ
テープにカビが生えたので父さんが捨ててしまった
まいったな
今じゃなかなか観れない映画なのに

ビデオテープが簡単に消えるくらいなら
くじ売りのおじさんが姿を消しても当然か
当たれば人生デ・ラックス
も、新年明けたら煙に変わったね
母さん、何枚買ったんだっけなあ

地球上の首があの悪い魔女にコレクションされたら
なんて、解剖学的にあり得ないことは想像できません
あの血管と血管と神経と神経とどう繋げるのかなあ
だいいち中枢神経系が接続できる筈ないやんけ
というわけで私は
信号が変わっても首を狩られないかわりに
安月給に向けて自転車を漕ぎ出す


















点検初め

雪わたり
 

縮こまったり 
首を竦めたり
北国在住でそそっかしやの私には
こんんな動作が多い
 
松飾もはずした この頃
首がめり込んじゃったような
動きにくさを感じて
ちょっと点検してみた
 
首が回らないのは
軽い財布のせいばかりではない
寝違えたわけではない
痛みは無いから
 
何で動かしにくいんだろう
鏡とにらめっこ
 
なんのことはない
着ぶくれているだけ
 
 
 
・・・・・じゃぁない!!
 
 
・・・・・太っているではないかぁ〜〜
 
 
 
 
さっそく ダイエット始めなけりゃ。。。
 
 


















三首丘

ふをひなせ
 

燦々と降り注ぐ心(ひ)の滅せざる
新たな年の雲も光りて

悔いをして悔いなき日々を望みゆく
楽と吹かれて浄く流れて

綴り葉を闇に投げたく届けたく
音と奏でむ声と響かむ


















クビ

宮前のん
 

今日、お母さんがクビになりました

同居しているおばあちゃんは
変わり果てた姿を見て泣きました
お兄ちゃんはクビのお母さんを
踏みつけて庭に転がしました
お父さんはサッサと庭に穴を掘ると
その中にクビのお母さんを放り込みました
さすがに土をかけることはしませんでしたが
知らない若い女の人と出かけてしまいました
私はちょっと可哀想になって
庭の小さな花を沢山ちぎって
お母さんの上にパラパラと
優しく振りかけました

間もなく空が暗くなって
ポツポツと雨が降ってきました
お母さんの入っている穴を覗き込むと
お母さんの頬も濡れていました
お母さんの頭を上から見ると
髪の毛がボサボサで白髪もあって
ちょっぴりお父さんの気持ちが
解るような気がしました

心なしか雨足が
強くなったようでした



 


















十九首−じゅうくしょう−

http://ameblo.jp/kisikiruriru/
佐々宝砂
 

十九の生首がの、あったと申すよ。
小さな川のほとりにぢゃ。
昔お前がよく焼き芋を買った店の向かいぢゃ。
あのころお前はしじゅう鼻の具合を悪くしての、
あの店の裏手の病院に通った。
雑貨を並べた店先にの、
焼き芋を焼く大きな窯があったの。
覚えておるか。
そうか、覚えておるか。
あの店の前にの、
寺と塚があったのだ。
それが首塚ぢゃ。
今もある。
大きな塚一つと小さな塚が十八ある。
覚えておる人は覚えておる。
十九の首のことを、な。
あれはな、戦国の世の、そのまたさきの世のことぢゃ。
無論わしも生まれてはおらなんだ。
この川のほとり、あの塚の場所に、
東国から将門の生首が飛んできたと申す。
そのころ塚はなかったのぢゃ。
生け捕られた生首はもう半ば腐っての、
切り口からは茶色いぬらりが垂れ下がり、
見開いたまなこはどろりと濁り、
ざんばらの髪はねちねちとぬめっておった。
そんな首が飛んできたのぢゃ。
それも一つではない。
全部で十九の生首がのう、
将門の首を大将のように真ん中に据えての、
まっしぐらにここまで飛んできたと申す。
人々も驚いたが、
何よりも川が驚いた。
川は逆巻いて赤く染まり、
それを見た人はこの川を血洗川と呼んだ。
そして土地の名を、
十九首と書いてじゅうくしょうと名づけた。
のう。
今もこの川は血洗川と申すが、
じゅうくしょうの名は廃れるであろう。
今は十九の首の話を伝えるものがおるが、
そのうちみな老いて死ぬであろう。
お前は、老いて死ぬまでは覚えておれ。
小綺麗なマンションが建ち並び、
曲がりくねった道が区画整理され、
将門の首塚がなくなっても、
お前は覚えておれ。
そしてな、
いつかわしがしているように話すのぢゃ。
腐れた生首が十九、
ここに飛んできたと、な。
はるか昔の話ぢゃが。
はるか昔の話ぢゃが。


















あなたに首ったけ

伊藤透雪
 

アウトロウに憧れた頃
ナナハンを知って
片岡義男を読んでた
決まりきったレールから飛びだして
自由に生きることに憧れて
飛びだした遅い春

あいつに夢中になって
何にも見えちゃいなかった
苦くてしょっぱい季節
爆音のかなたに消えた遠い春
思い出になっちゃった

だから
正反対の人を好きになったはずなのに
やっぱりアウトロウな人を選んじゃったのかな
飛びだして行ったっきり戻っちゃこない
あなたの顔を
思い出すと霞がかってるんよ
あんなに首ったけだったのに
紫色の霞の中に浮かんでる
あなたが背中を向けたとき
ぞくりとした気分だけが甦るよ

一度でいいから
その首に腕を巻き付けて
耳元にささやいてみたかった
首ったけってそういうことでしょう?
夏に始まった恋だから
熱すぎて燃え尽きちゃったわよ
冷たい雨の中で























2008.1.15 発行/蘭の会

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