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2007年12月詩集「狭い」
angels  
スモーレスト・ワールド  
この先いけますか  
ホーム スイート ホーム  
とじこめないで  
繭(まゆ)  
井のなかの  
トンネルを這っていく  
とうめいな連鎖  






























angels

http://home.h03.itscom.net.gure/eme/
九鬼ゑ女
 

好きだ
欲しい

そう言ったのはどっちだっけ?!
オンナはとんがった眼をオトコに注ぐ  

するりオンナのはてなマークから
目を叛けると             /somukeru   
オトコは口を窄め           /subome
煙草の煙を吐きはじめた

ぽわん
ぽわん

ぽわん
ぽわん

あっ、天使の輪っか

一人が声を跳ねあげそれを指さす
と、トイレから飛び出した二人目が
部屋の中を駆け回りながら
火花を零すみたいに
パチパチと手を叩く

もっとして
もっとして 

甘え声でオトコの肘を突いたのは三人目

と、その途端
オトコの腕の中
寝息を立てていた
四人目がぱっと目を覚ます

いくら好きだからって
いくら欲しかったって

6畳一間じゃ
もう寝場所もありゃしない
けだるい吐息を漏らしたあと
オンナは諦めたように          /akirameta
くすぐったい笑い声を飛ばす

くふん
くふん

おまけに今度は…双子だってさぁ

ぽわん
ぽわん

今にも弾けそうなオンナの腹めがけ
オトコは嬉しそうに
ふたぁつ
天使の輪を
描く


















スモーレスト・ワールド

http://cpm.egoism.jp/
柚木はみか
 

何度も何度もごめんなさいと言って

何度も何度も泣いて

夢の中でも謝って

許しを請うて


あたしだめなんです

生きてるのが

君が側にいるとすごく弱くなってしまうんです


あたしには世界は広すぎて

あたしだめなんです

君の手を繋ぐと

そんな狭い世界で安心しちゃうんです




世界にはたった二人で良い





春の桜や

夏の太陽

秋の紅葉も

冬の雪すら

狭い世界には不要です

君が居てさえくれたら

何もかも不要です



その手を離さないで

烏龍の中で生きましょう

共に


















この先いけますか

http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm
ナツノ
 


この先いけますかと 車を止めて聞いてきた人
本当は 居住者のみの通りですが といえなくて
はい と 答えてしまう

出口がなくて
行くみち どれも 行き止まりでは
さぞお困りでしょうと おもうから

かくいう自分は 箱の中で息をする
この道 行き止まりなのが
わかっているのに
何度も 何度も行ってみる

あるいは
思いつく限りの道を
箱の中でシミュレーション 答えはいつも同じ

それだけヒマ なんだな
囲われた思考は 浅はか
なぞられたものだけを 取り出しては しまう
自堕落で 吐き捨てたいのに 甘い

その角の先 本当は行き止まりです
がけっぷち です
ならば そこからダイブ するのもいいですね
それとも
迂回路を 行きますか?


















ホーム スイート ホーム

http://yaplog.jp/yukarisz/
鈴川夕伽莉
 

ハロー 1枚1000円で買い集められたジャズの名盤たち
弟の使い古した安いオーディオと
キーボードのYと6が入力できないのに
買い換えられず現役で酷使されるパソコン
何台もの旧式のストーヴ
こんな田舎にも灯油泥棒が現れないものか
心配な冬だよ

もうすぐ取り壊されて
本当に建て替えが始まるそうだから
会いに来たんだよ
こんな
軽くジャンプすれば天井に手の届いてしまう家なら
ボリス・ヴィアンの小説でお馴染みだったかな
クライマックスに向けてあの家はどんどん狭くなり
住人を押し潰さんばかりだったけど
そもそもうちはハイカラなお屋敷じゃないんだ
平成も20周年を迎え撃つ時代に
くだらないテレビ番組としがない地方紙以外は
胞子のように昭和を吐き出す木造さ
私の身体が大きくなって
勝手に飛び出しただけ
なのに10年前と変わらない姿で
今日の私を迎えてくれたのさ

ホーム スイート ホーム
ある時期に建て増しされたこども部屋
天井に安っぽく貼られた白いビニールが
だんだん雲に見えてきたんだよ
あのころ
死んだのはひいおばあちゃん1人だったのに
ホーム
スイート ホーム
闇から逃れるため人は
あらゆる手を尽くし
それでも逃れられない人の運命を
フィクションとして茶の間に届けるワイドショー
これほど恐ろしい番組が他にあるのかい
ホーム
ホームタウン
この土地には良質の闇がまだ残っているさ
貶めたり殺めたりせずに
その深さを人間に話して聞かせる
心の優しい闇が住んでいるさ
木造家屋は夜すらその懐に抱きしめ
こたつにみかんと熱燗で眠る住人に
星たちは躊躇わず光を伸ばすんだ

天井の安っぽいビニールがぼやけて
明日、見えるかもしれない空の色にかぶる
国道41号線のごうという響きが
山より高いところに届くのが
布団の中にいたって分かるのさ


















とじこめないで

栗田小雪
 

まんりきで脳みそ押しつぶされそうに、
かちかちにぎゅうぎゅうに
もうまるくはならないの?

もろいけどあまくてやわらかくて
ときにはするどくとがって
ときにはとろとろに溶けて
そんな脳みそには戻れないのかなあ

わたしのせかいがきついのか
ううんわたしの脳みそがきつすきるのか
ちいさすぎるのか
このせかいが広すぎるのか

まるで
まるでというまでもないくらい
厚いあつーい壁をつくって

まだまだ出られない。


















繭(まゆ)

宮前のん
 

私はいつも、

胎児のように丸まって
その部屋の中心にいます
部屋と言っても
押し入れの方がまだ広くて
背骨が痛くて
腰もお尻も痛くて
時々お腹も痛くなります

それに手足もしびれますので
試しに右足を伸ばそうとすると
そこには年老いた父が居て
女は余計なことをしなくていいと言いますので
慌てて足を引っ込めます
今度は左足を伸ばそうとすると
そこには病気の母が居て
やっと面倒みてくれるんだねと泣きますので
そっと足を縮めます

次に右手を伸ばそうとすると
そこには失業中の夫が居て
仕事も家事も育児もしたくないとゴネますので
すごすごと右手を納めます
最後に左手を伸ばそうとすると
そこには子供たちが居て
ずうっとそばに居てねと笑いますので

とにかく左手だけは温もって
そっと柔らかく伸ばしています


  


















井のなかの

http://ameblo.jp/kisikiruriru/
佐々宝砂
 

そう、あんなところを抜けてゆくんだ。
寝ぼけた猫に道を訊いたってだめだよ、
古いゴミ箱の脇にいるちっぽけな蜘蛛、
テレビの後ろの埃にまみれたカマドウマ、
そんなやつらだって実は道を知らないんだ。

深い深い井戸の底には暗い水、
そんな水に地図が描かれるんだ。

黒い小さな世界しか知らない、
黒い小さないきものに訊いてごらん、
どこに行ったらあれが見つかるのかと、
あかるく晴れた青空の下で、
黒い小さないきものに訊いてごらん、
井戸のなかの蛙に訊いてごらん。

あいつはきっと静かに応える。
きわめて無表情に、
(もっとも蛙っていうのはたいてい無表情なもんなんだが)
黒くぬめる瞳だけをぐりぐりと動かして、
静かに応える。

深い深い井戸の底には星が映る、
あかるいまひるにも、
よどんだ暗い水には星が映る、

と。


















トンネルを這っていく

伊藤透雪
 

這っていく、這っていく
頭がつかえそうな細くて暗い
向こうから私の名を呼ぶ声がする
だから
行く


他の人の前では笑ったり
盛んに話しているようで
私の前だけでは真剣な眼差しをしたり
口数減ったり
あなたの本心はどこだろう?
ぼそりと呟くような断片を聴いて
胸にメモしていくけれど
メモは束ねられたまま 繋がらない

あなたの口から私を呼んだことはないのに
何故か感じる
確かに呼ばれているように
あなたは口に出さずにただ
見ていたいと思うのかしら

重ねた年月
短い逢瀬
好きだとも嫌いだとも
言われたことのない時間が流れて

あなたは背を向けてしまった

でも呼び声は聞こえるから
這っていく
あなたの心へ続くトンネルを
長い時を超えても
出口を求めて
どんなに汚れてもきっと
たどり着くから


















とうめいな連鎖

赤月るい
 

夕暮れ 
いつも苦しかった
あのひとのそばで、なかで
私の心
タバコの煙のように 灰色に覆われ苦しかった

もう 透き通った
当たり前の色さえわからず
圧迫されゆく肺が 声を消してしまった

通り過ぎて
私の闇の中にすっぽりと収まるのは
いくつかの争いと
いくつかの疑問と恨みだけ

どうしても
この目に映る世界が
そうでしかなかったように

守る、という美しいことばに 
欺かれた現実

     ・

私の腕の中の小さな子ども
何があっても守るわ

どんどん真っ白になって病みなさい
私が支配してあげるよおかあさん、になって
あなたをずっとつつんであげる
子供のまま閉じ込めてあげる

私がされたみたいに。

この腕から逃がすものか
幸せになどさせるものか

あなたは何も分からなくていいのよ
知らなくていい
私がいるから

教えてあげる 決めてあげる 
愛してあげるから
あなたの苦しみなら
いっしょになって抱いてあげるから
どうぞそのまま 
意識を失っていて

意思など持てないのよ、あなたは
私のかわいい子どもなんだから

かわいい
かわいい、

ずっとふたりきりよ
ずっとずっと 私の命が果てるまで 























2007.12.15 発行/蘭の会

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
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