假名遣入門

歴史的假名遣で書く爲の入門。讀み方? そんなのは學校で習つた通りである。

注意事項

本稿の他にも、ウェブ上には假名遣の入門用に用意されたコンテンツがある。相性もあると思ふので、適宜に選擇、參照されたい。

本稿は、字音の假名遣について、體系的に扱ふものではない。今となつては和語同然に扱はれ、しばしば假名書きされるものについては、個別に取り上げる。

歴史的假名遣の表記と「現代仮名遣」の表記を竝べて示す場合、「現代仮名遣」の表記を[]内に入れて示す。

大原則

  1. 日本語は漢字かな交じりで書くものであるから、徒に漢字を避くべからず。わざわざ假名書きにして假名遣で躓くのは愚である。
    1. 漢語は漢字で書くべし。
    2. 漢字で書く例の多い和語は漢字で書くべし。
    3. 上記より、漢字で書く語の假名遣は後回しにして、假名で書くしかない語の假名遣を先に修得する
    4. 以上の觀點より先に押へた方が良ささうなものを先に記した。
      1. お遊び」節より前はざつくりで良いから先んじて摑んで貰ひたい。
      2. 「ア行」上一段動詞「ア行」下一段動詞は其の次に押へる。
      3. 殘りは其の都度個別に潰していく方針で何とかなるのではないかと思ふ。
  2. 良く用ゐる表現から身に着けるべし。
    1. 使はない表現を一所懸命勉強しても嫌になるだけで益が少い。
    2. 實際に文章を書く爲に用ゐて身に着けるのが良い。さうでもしなければなかなか身になど着かぬ。
  3. 個別の語について假名遣に迷つた時は、國語辭書を引くべし

基本原則

歴史的假名遣と「現代仮名遣」で特に異なる部分が表出するのは以下の假名が關はる部分である。

語中語末の「わいうえお」は「はひふへほ」と書く例が多い。但し、あくまで多いだけであるから、何でもかんでも「はひふへほ」に直すと、間違へることになる。

「-oう」は「-aう」と書く例が多い。勿論例外もある。

助詞「は」「へ」「を」

以下は「現代仮名遣」が日和つて表音化しなかつたので、歷史的假名遣と「現代仮名遣」の間で書き方に違ひがない。

係助詞「は」に由來する終助詞「わ」については、「は」と書くべきか「わ」と書くべきか、判斷を保留する。筆者は今のところ迷ひつつも「わ」と書いてゐる。

副詞「かう」

例:「ああ言へばかう言ふ」

「斯(か)く」の轉なので「かう」と書く。

「この(此の)」「ここ(此處/此所)」「これ(此れ)」は「現代仮名遣」と同じ。

「さう」

副詞「さう(然う)」

例:「さう言はれてもねえ」

「然(さ)」の轉なので「さう」と書く。

「その(其の)」「そこ(其處)」「それ(其れ)」は「現代仮名遣」と同じ。

感動詞「さう(然う)」

例: 「さう、その通り」

形式名詞「さう」

助動詞として説明される「さうだ」[そうだ]の「さう」。樣態、傳聞の意。

樣(さま)の轉、或は「相(サウ)」の字音に由ると言はれる。

形式名詞「やう」

「やう」は「樣」の字音假名遣。

助動詞として説明される「やうだ」[ようだ]の「やう」。比況の意。

「しやう(がない)」「書きやう」「聞きやう」「考へやう」の「やう」も同樣。

「よう」と「やう」の區別

形式名詞「やう(樣)」なのか、助動詞「よう」なのかで區別する。「よう」は意志・推量・勸誘を意味する。「やう」は樣態を意味する。

さうは言うても判りづらい、と言ふ向きもあると思ふので、區別のポイントを示す。

やう
漢字で「樣」と書いてをかしくない場合は「やう」である。
格助詞「が」や係助詞「は」が接續するとき(「しやうない」「やりやうある」)は「やう」である。
よう
言ひ切りのとき(「〜について考へよう」)は「よう」である。
接續助詞「が」、「と」が接續するとき(「見よう見まいが」「しようする」「寢よう思ふ」)は「よう」である。
上一段動詞、下一段動詞、カ變動詞、サ變動詞、一部の助動詞(活用形が下一段活用のもの)の未然形に附く。「しよう」「來よう」「見よう」「食べよう」「買はせよう」など。其れ以外(四段動詞など)の場合、同じ意味では助動詞「う」が附く。「買はう」「會はう」「黒からう」など。

副詞

強調は歷史的假名遣と「現代仮名遣」で異なるもの。

助詞

四段動詞

「現代仮名遣」の下で「五段(活用の)動詞」とされてゐるものは「四段(活用の)動詞」である。活用語尾がオ段になることはない。未然形はア段になる。以下は例。強調は「現代仮名遣」と異なる語尾。

ハ行四段動詞

アワ行五段動詞とされてゐるものは、ハ行四段動詞である。「わいうえお」ではなく、「はひふへ」で書く。「ほ」が出て來ることはない。以下は例。

「ゐる」「をる」

「居る」は「ゐる」或は「をる」である。補助動詞の「(〜して)ゐる」「をる」も同樣。

「用ゐる」「率ゐる」もこの形。

「射る」「要る」等は「いる」。

「織る」「下る/降る」は「おる」、「折る」は「をる」。

「ぢや」

いづれも現代仮名遣では「じゃ」となるが、元の形を考へると「ぢや」の方が自然。

助動詞「です」「ます」+ 助動詞「う」

現代仮名遣で「簡單でしょう」「遊びましょう」のやうになるものは、歴史的假名遣では「簡單でせう」「遊びませう」のやうに書く。

「です」「ます」の未然形「でせ」「ませ」に「う」を附けた形である。「ます」の場合は否定の形「ません」を思へば良い。否定の「ん」にせよ意志推量の「う」にせよ、未然形に附く。

形容詞

終止形・連體形

形容詞の終止形や連體形は「い」で終はる。間違つても「ひ」や「ゐ」にはならない。「白い」「黒い」「痛い」「辛い」「無い」など。

元々は終止形「し」、連體形「き」で終はつてゐたものが變化して「い」になつたものである。

未然形

形容詞の未然形は、現代仮名遣では「かろ」と書くところを、歴史的假名遣では「から」と書く。「白からう」「黒からう」「無からう」など。

元々は「白く・あら・ず」のやうにラ變動詞「あり」(口語では四段動詞「ある」)に由來する。これが縮まつて「白から・ず」のやうに變化した。

口語だとあまり出て來ない形ではある。

連用形

形容詞の連用形「〜く」はウ音便化することがある。

現代仮名遣だと「〜しく」が音便化した場合「〜しゅう」と書くが、歴史的假名遣では「〜しう」と書く。「嬉しうございます」など。

挨拶の「おはやうございます」は、「おはやく」が「おはやう」に轉じた結果である。

挨拶

挨拶で出て來る表現を纏めてみる。言はずもがなのものもある。

「おはやうございます」ございますはござりますの轉なので、「ござゐます」にはならない。「御座居ます」といふ宛字は誤り。注意されたし。

「こんにちは」「こんばんは」「おやすみなさい」

「いつてらつしやい」「おかへりなさい」

「ただいま」ただいまは「ただ」+「今」なので、「ゐ」とか「ひ」にはならない。Twitterで「おかへり」と挨拶すると「ただひま」と返してくれる人がをられたので、敢へて書いておく。

「おめでたうございます」「ありがたうございます」「どういたしまして」

「さやうなら」さやうならは漢字で書けば「左樣なら」である。

ハ行絡み要注意のもの

現代仮名遣に慣れてゐるとまごつきさうなものを集めてみた。中には良く知られてゐるものもあるが。

「ふ」にはならない例

うつかり「ふ」と書きがちな例。ハ行四段連用形をウ音便にした場合が該當。

「買うた」、「違うて」、「思うとる」、等。

「違ふて」のやうに「〜て」に接續する形を間違ひがち。正しくは「違うて」である。

尤も、關東では促音便を使ふのが專らなので、近畿の人間しかこんな間違ひはしないのかも知れない。

お遊び

「なあ、あれ、ちやうちやうちやふ?」

「ちやうちやうちやふんちやふ?」

「ちやうちやうちやふん?」

「ちやうちやうちやふよ」

「ちやうちやうちやふんか……」

簡單な説明: 「ちやふ」←「違ふ」はハ行四段動詞。

「ア行」上一段動詞

現代語ではヤ行上一段、ワ行上一段、ハ行上一段のいづれかの活用をする。古語ではヤ行上一段、ヤ行上二段、ワ行上一段、ハ行上二段である。

該當例が少いので憶えて了ふのが早い。

ヤ行上一段動詞

現代語を用ゐる上では、現代仮名遣との差異はない。

該當するのは以下の四語のみ。射るは古語でも上一段活用、殘りは上二段活用。後者の古語形も併せて示す。

ワ行上一段動詞

下三つを憶えれば濟む。上記も參照のこと。

古い形でもワ行上二段の語はなかつた模樣。

ハ行上一段動詞

ヤ行でもワ行でもなければハ行であるが、例を良く知らない。古語ではハ行上二段活用。

現代語では四段活用に移つた例もある。

古語でハ行上一段のものは、現代語でもハ行で活用する。結局形は變はらない。

「ア行」下一段動詞

現代語では、ア行下一段、ワ行下一段、ヤ行下一段、ハ行下一段動詞で活用するものが該當する。古語では各々下二段活用。古語で唯一下一段活用する「蹴る」は、現代ではラ行四段で活用するので、以下にはまるで關係ない。

上一段よりも語例が多いので厄介。ア行、ワ行は丸諳記、ヤ行になる場合を見定めて、消去法でハ行になるものを見定める。

ア行下一段動詞

「える(得る)」一語。複合語「心得る」を合はせても二語。丸諳記する。

ワ行下一段動詞

下の三語のみ。關連語と一緒に憶えると良い。

ヤ行下一段動詞

ア行でもワ行でもなければ、古語にすると「〜ゆ」になるものはヤ行、それが無理ならハ行であると區別する。

他動詞の形から、古語を知らずとも分る場合を把握しておくと良い。

後は古語を把握するか丸諳記だが、それでも以下を憶えておけば良いらしい。少し量があるのは否めない。

ハ行下一段動詞

ア行でもワ行でもヤ行でもなければハ行である。以下は例。他にもある。

「經る」は現代仮名遣でもハ行で活用する。

「わ」絡み

語頭

語頭の「わ」は「わ」と書く。例外なし。

語中語尾

語中語末の「わ」は、しばしば「は」と書く。たまに「わ」と書くものもある。「わ」と書くものを把握して、其れ以外は「は」と書けば良い。

語中語末が「わ」になる語

「う」絡み

語頭

語頭の「う」は「う」と書く。例外なし。

語中語尾

語中語尾の「う」は、しばしば「ふ」と書く。たまに「う」と書くものもある。「う」と書くものを把握して、其れ以外は「ふ」と書けば良い。

語中語尾が「う」になる語

いづれも音便の類である。現代仮名遣で「-oう」のものを、「-aう」と書く場合があるので注意。

活用語尾のウ音便
買うて(かうて)、言うて、思うて、問うて、等 (ハ行四段連用形「ひ」→「う」)
赤う(あかう)、早う(はやう)、美しう、等 (形容詞連用形「く」→「う」)
應用: おはやうございます、ありがたう、ようこそ
「く」→「う」の轉譌
かう (副詞: 斯う; 斯くの轉)
かうし (格子)
とうに (疾うに; 疾くの轉)
かうばしい (香ばしい; かぐはしいの轉)
「ひ」→「う」の轉譌
いもうと (妹)
おとうと (弟)
しうと (舅)
なかうど [なこうど] (仲人)
くろうと (玄人)
しろうと (素人)
かりうど (狩人)
かうぢ [こうじ] (麴; かびたちの轉といはれる)
「み」→「う」の轉譌
かうがうしい (神々しい)
かうべ (首)
かうべ (神戸) ※尤も神戸を「かんべ」と讀ませる地名の方が多い氣はする。某政令指定都市が有名なだけで。
かうぞ (楮)
こうぢ (小路)
てうづ [ちょうず] (手水)
「わ」「ゐ」「を」→「う」の轉譌
さうざうしい (騒々しい)
まうでる (詣でる)
まうす (申す; まをすの轉)
てうな [ちょうな] (手斧)
もう
さう
どう
なう [のう] (Twitterで頻出?の「なう(now)」ではない)
のうのう
おとうさん (お父さん; ととの轉)
やうか (八日)
たうげ (峠)
ゆわう (硫黄)
めうが (茗荷)
はうき (箒; ははきの轉)
かうもり (蝙蝠)
たうとう (副詞: 到頭; 字音假名遣)
やうやう (漸う; やうやくの轉)
かうむる (蒙る、被る; かぶるの轉)
まうける (設ける、儲ける)
はうむる (葬る; はぶるの轉)
ゆうべ (昨夜; 夕べは「ゆふべ」なので要注意)

「お」絡み

語頭

語頭の「お」は「お」と書くものと「を」と書くものがある。「お」と書くものの方が多いので、「を」と書く例を憶えるべし。

語頭が「を」になる語

語中語尾

語中語尾の「お」は、「ほ」と書くものと「を」と書くものがある。「ほ」と書くものの方が多いやうなので「を」と書く例を憶えるべし。

語中語尾が「を」になる語

語中語尾が「ほ」になる語の例

飽く迄例であつて全部ではない。

困つたときは辭書を引くと良い。

「え」絡み

語頭

語頭の「え」は「え」と書くものと「ゑ」と書くものがある。數の少ない「ゑ」と書くものを憶えるべし。其れ以外は「え」と書けば良い。

語頭が「ゑ」になる語

讀みは「え」ではないが、ゑふ(醉ふ)も「ゑ」で始まる語である。尤も、「よふ」と書いたら良いとも言はれる。

語中語尾

語中語尾の「え」は「え」と書いたり「へ」と書いたり「ゑ」と書いたりする。「へ」と書くものが多いので、「ゑ」と書くもの、「え」と書くものを憶えるべし。

なほ、下一段活用動詞に係るものは、先に扱つたので、ここでは具體例は省略する。

語中語尾が「ゑ」になる語

「ゑ」の現れる語は次のとほり。

語中語尾が「え」になる語

語中語尾が「へ」になる語の例

例が全くないのでは不親切なので示しておく。勿論示す以外にもある。

「い」絡み

語頭

語頭の「い」は「い」と書くものと「ゐ」と書くものがある。數の少い「ゐ」と書くものを憶えて、其の他は「い」と書けば良い。

語頭が「ゐ」になる語

語中語尾

語中語尾の「い」は「い」と書いたり「ひ」と書いたり「ゐ」と書いたりする。「ひ」と書くものが多いので、「ゐ」と書くもの、「い」と書くものを把握すべし。

なほ、下一段活用動詞に係るものは、上に掲げたので、ここでは具體例は省略する。また、形容詞の語尾は「ひ」にも「ゐ」にもならず「い」になることは既に述べたが、ここでは例を省略する。

語中語尾が「ゐ」になる語

語中語尾が「い」になる語

ヤ行上一段動詞形容詞では、語中語尾に「い」が現れる。

一般にイ音便は「い」と書く。以下に例示する。イ音便由來と言はれる語も併せて掲げる。

其の他、語中語尾に「い」が出て來る語を示す。

四つ假名の區別

記憶に頼りがちになる分野ではある。自分の使ふ語の假名遣を段々に把握して行くしかない。

動詞の活用語尾に四つ假名が出てくるもの、及び其の派生語

知つてゐると、ある程度は論理的に區別できる。

「〜んじる」「〜んずる」の兩形を取るもの (古語では「〜んず」の形)
結局はサ變「する」の變形であるから、「じ」「ず」を使ふ。
例: 甘んじる/甘んずる(甘んず)、先んじる/先んずる(先んず)、感じる/感ずる(感ず)、禁じる/禁ずる(禁ず)、信じる/信ずる(信ず)
古語「まず(混ず、交ず)」、「はず(彈ず)」の係累
「まず」「はず」の二つはザ行で活用する。本來的にザ行で活用するのは、この二語だけとか何とか。
現代語「まぜる」「はぜる」もザ行で活用する。
派生的に「まじる」「まじはる」「はじく」「はじける」もザ行。
なほ、「彈む」は「はづむ」であるから要注意。
其れ以外
上記を除いてはダ行で活用するので「ぢ」「づ」になる

ダ行で活用する語及び其の關連語の例

其の他

類推できるものもあるとは思ふが、結局は「ぢ」「づ」になるものを個別に憶えるしかない。

「ぢ」の入る言葉の例

「づ」の入る言葉の例