ナイアドプレス社刊行書籍紹介
 
THE GIRL NEXT DOOR
「THE GIRL NEXT DOOR」
MINDY KAPLAN 著
NAIAD PRESS
リナ LINA は、ギリシアから来たフランス系の学生で、大学の指導教官であるネイサンの家に住み込んで、息子のシーンの子守りのアルバイトをしている。
ある朝、悪夢から目覚めると、家に、娘のアレックスが帰ってきたところだった。
奔放に振舞うアレックスに家族は手を焼いている。リナも始めは近寄り難さと苛立ちを感じているが、その翠の瞳に同時に惹かれているのを感じる。
アレックスが、ワールド・コンプ・ラインというサービスでチャットをしていることを知ったリナは、ネット上で「NXTDOOR」と名乗り、アレックスへ近づこうと試みる…。

インターネット上での、ヴァーチャルな関係と、現実の関係とが混在して描かれ、当初はそういう物語なのかと思いきや、それだけではなく、アレックスが所謂「精神世界」に興味を持っていることから、占いやジプシーやタロットのモチーフ、夢が導く未来、自分自身を見つめなおすこと、はたまた、夜の行きずりの出遭い、家族愛、バイク(リナのジプシー的な側面を示唆するものである)、エロティックな言語であるフランス語(そうか?)と、とにかく要素が「てんこ盛り」なのである。加えてかなり都合のいいというか、そんな落ちだとは!というような落ちに至っては、物語に深みが感じられなくなってくる。そもそも、リナがなぜ、フランス人でなければいけないのかなども、必然性のない設定に思われるのである。
リナの悪夢に始まり、最終章に至るまで全編にある、タロットの「塔」のモチーフなどは良いので、テーマが絞られていれば、もっと印象深いものになったのではないだろうか。

チャットでの会話部分などは、あまり良いとは思われないのだがが、それなりに面白さはある。
会話なども現代的な言葉づかいで、日本語に翻訳したらこうだろうか、などと考えながら読むのも楽しい。
読みやすい一冊ではある。



BODY GUARD
「BODY GUARD」
CLAIRE McNAB 著
Naiad Press
ラディカルで過激な言動のマーラ・ストリクトランドがアメリカからオーストラリアに講演にやってくる。
マーラの団体宛てに、シドニー発の郵便爆弾が送られてきたことから、キャロル・アシュトン警部はボディーガードにつくよう要請される。
キャロルは狙撃による負傷から回復したばかりであり、ボディーガードの任務に抵抗するが、何故か上司から強制的に命令が下る。仕方なくキャロルは他の機関からのエージェントたちと、マーラのボディーガードを勤めるのだが…。
マーラ・ストリクトランドは、当初、レズビアンに対して否定的な態度をとる。
「レズビアンがフェミニズムの先鋒を担っているのは分かっているが、自分は、フェミニストであることで既に攻撃を受けている。これ以上、同性愛者というレッテルを貼られるわけにはいかない」と言うのである。フェミニストの内でも、同性愛者に対する差別感とは克服しがたいものなのであろうか。
キャロルが、マーラの強烈な物言いと態度にまた反発を感じているのだが、その講演で女性の平等について語るその姿には思わず「そうだ!そうだ!」と、心の中で呟いてしまう、というところなどが面白い。

フェミニズム、同性愛嫌悪、などのテーマを上手く盛り込みながら、ページを読み進めさせるエンターテイメント性もある一冊。シリーズの途中の一冊なので、キャロルの性格と他の登場人物について知るためには、シリーズの他の作品も合わせて読む方が良いようである。



NIGHT SONGS
「NIGHT SONGS」
PENNY MICKELBURY 著
Naiad Press
警察副署長のジアンナ・マリオン(?Giannna・Maglion)を主人公とするシリーズの第一作。
ヘイト・クライム(性差別、人種差別、等の差別意識から生まれた犯罪を特にカテゴライズしてヘイトクライムと言う…らしい)班の班長でもある彼女は、連続して発生した売春婦の刺殺事件をヘイト・クライムとして扱うことに決定する。
ジアンナの恋人モンゴメリー・パターソン、通称ミミは、ジャーナリストであるが、同時にある売春婦を捜しているうちに同じ事件を追うことになる…。
殺害されたのが売春婦であるというだけで事件が放置されていたということ、またその売春婦たちが有色人種でもあることなど、潜んでいる差別感との闘いのような意味合いも感じられ、面白い作品である。
Night Songsという詩的なタイトルも効果的。



REPRT FOR MURDER
「REPRT FOR MURDER」
VAL McDERMID 著
Women's Press
作品が日本でも紹介されているヴァル・マクダーミド。これは女性記者リンゼイ・ゴードンを主役としたシリーズの第一作である。
リンゼイ・ゴードンは学生時代からの友人パディの頼みで、彼女が運営している私立女子校の音楽祭の取材をすることになる。社会主義でレズビアンの彼女としては、気の進まない取材だったが、断りきれずに出かける。
そこで魅力的な作家コーデリア・ブラウンと出遭い、恋に落ちるが、その音楽祭でチェリストのローナ・クーパー・スミスが殺され、警察は犯人としてパディを逮捕してしまった。リンゼイはパディの無罪を確信し、真犯人を探そうとするが、ローナは多くの人から恨みを買っており、誰も彼もが疑わしい。恋に落ちたコーデリアさえも…。
ミステリ仕立てで、話は読みやすいのだが、主人公がレズビアンである必然性は特にないように感じられるところが難点。まあ、無駄に男の恋人が出てくるのを読むよりもまし、程度の面白みではないかと思う。
リンゼイは全くレズビアンとしての悩みや問題を抱えているようには思えない。それは勿論良いことで、最終的にはそれこそが理想的な状態、だとは思うのだが。二人の間の葛藤は、主に「階級差」(ちょっと古い言い方のようですが…)から生まれるようである。
しかし、ミステリ小説として見た場合、この本に少し物足りないところがある。例えば犯人捜しが総当り戦で、謎解きの面白味や、「身近な人物が犯人なのでは」というサスペンスにも欠けているところ。そのため、今一つの感が拭えないのである。
シリーズ第一作ということで、連続して読めば面白いのかもしれない。



TREASURED PAST
「TREASURED PAST」
LINDA HILL 著
Naiad Press
執筆からは離れることにしたらしい、Linda Hillの最後の著作(になるのだろうか)。
弁護士である主人公ケイトはアンティーク愛好家で、オークションで度々見かける女性が気になっていた。彼女はいつも自分と同じ物を競り合っている。両親が催したパーティーに出かけたケイトはそこで、その女性アニー・ウェルシュと出会う。

かなり都合のいい展開を経ながら結ばれて行く、二人の恋の軌跡を描いている。
惹かれ合いながら、中々お互い言い出せずにいた二人が一度は結ばれて、しかしそこに事件が起こり、二人はまた離れ離れになる。そして…
典型的なラブストーリー。例によってハッピーエンドなので、安心して読める、娯楽的小説。



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