読書メモのページ
 
「帰郷ノート」
エメ・セゼール 著

1月19日

マルティニークの高名な詩人であり、政治家でもあるエメ・セゼールの代表作。これをジャン・ポール・サルトルは素晴らしいフランス語として賞賛した。植民地出身であるマルティニークのフランス語をフランス人よりも称揚するということは当時、色々な意味合いをもったと思われる。

この詩は当時のネグリテュード再発見の流れの中で書かれたものなので、今となっては、批判される部分も多いのだが、それでも西洋文化に対して旧植民地の文化を称揚するものとして価値のある作品だったと思う。
「私のネグリテュードは石でもなければ塔でもない」「エイア!王のカイルセドラのために」などの個所はとても美しい。フランス語の講座などで、植民地文学を取り上げると、必ずと言っていいほどこの「帰郷ノート」はよく取り上げられるので、フランス語での朗読も何度も聞いたが、中でも、映画化されたものの朗読が非常にリズムと力強さとがあって印象的だった。どういう映画なのかは詳細が分からないのだが、いつか見てみたい。
やはり、詩であるためか、朗読されているのを聞くと非常に美しくてより感動的。自分でも朗読したいくらいです。
最近では、フランス語講座の12月度の応用編で取り上げられていたので、興味のあるかたは図書館などでCDを聞かれてみてはいかがでしょうか。
「黒蝿」
パトリシア・コーンウェル 著
講談社文庫

1月12日

もう二度とスカーペッタ・シリーズは買わないと決意させた本。
前作くらいから、もうあまり買ってまでは読む気になれないなあ、という感じだったのだが、暫くぶりに出たので買って、年末の移動の時にでも読もうと思ったのだ。

最初の捜査員との食事会のシーンが退屈。いつもなら最初の頁から数枚で、読むのを止められなくなる筈なのだが、全然それがない。
(蝿の講義が嫌だからとかそういうことではない)
それに暫く読んでいたら、これは反則だろう!というような話しが…。そんな馬鹿な。***********が*****だって?
その後は、何だこれはと思いながら、それでも徐々に話しも面白くなりそうだと思いながら読んだのだが…。
こんなあっさりした終わり方だとは。
これは、次回作への単なるプロローグ? そういうのが最近多くないか?
おまけに後書きを読んだら、ケイ・スカーペッタ若返ってる…。そんな馬鹿な…。ある程度の年齢だからこそ、良かったのに。
最初はこんな設定にする予定はなかったはずなのに、以前の作品で発生したことをここまでひっくり返すとは。余程読者からの反発があったのでしょうか。とにかく不満の残る本であった。
「川の書」
イアン・ワトスン 著
創元SF文庫

5月5日

ファンタジーかと思いきや、これはSFであった。
「黒き流れ」に遮られた東岸では、女性が舟を操り社会の実験を握っている。その世界で舟ノ女となったヤリーンの成長と「川世界」の仕組みを解き明かす、三部作の第一部。
ヤリーンが出航してすぐに、双子の弟カプシは、「観測者」たちに加わり、西岸を観察するようになる。そしてそこに、東岸とは全く違った社会があることをヤリーンは知るのだ…。
キリスト教的でもあり、また世界の神話を取り入れながら創られた世界が面白い。ヤリーンの訪れる町々の描写もどこか、大航海時代の冒険を思わせる。
「黒き流れ」とは何か、人類はどこからやって来たのか、真実とは何か、などを知らず知らず探ることになるヤリーンの旅に引きこまれてしまう。
続けて二部・三部と読みたくなる本。
「アルジェリア近現代史」
シャルル=ロベール・アージュロン 著
文庫クセジュ

1月3日

1830年代のフランスによるアルジェリア征服から1962年の独立を中心に著わしたアルジェリアの歴史。読みやすく全般的に丁寧に書かれている。
「女性翻訳家」
サラ・デュナント 著
講談社文庫

12月30日

エリザベスはトムと別れたばかりだった。ヴァン・モリソンのCDが盗まれたのも、始めは気のせいだと思っていたのだが。
チェコのヴァイオレンス小説を翻訳しているうちに自分自身に危険が迫る…。
面白いところもあるが、あまり翻訳やチェコ語との関わりが感じられないし、また、翻訳小説と現実の恐怖の関連というのがあまり上手く繋がっていないように思った。
主人公が窮地に追い詰められながら、乗り越えてゆくところは良いと思った。
「鳩の中の猫」
アガサ・クリスティー 著
ハヤカワ文庫

12月29日

高名な女子学校の新学期には何か不穏なものが潜んでいた。それはまるで鳩の中の猫のように…。

中東の王国ラマットに起きた革命の影響がイギリスの女子学校にまで波及する。アナトリアへバスで出かけてしまうミセス・アップジョンなど、作者自身を写したような、個性的な人物。オリエンタルな要素。読んでいて楽しい一冊。
「殺人者志願」
岡嶋二人 著
講談社文庫

12月28日

まぬけでお金に困った夫婦が殺人を依頼されて引き受けることになる。
あまりにお馬鹿な夫婦には苛々させながらも、岡嶋二人らしい温かみのあるストーリーで、最後まで読ませた。少々いい加減な終わりのような気もしなくもないが、楽しい物語。
「そして扉が閉ざされた」
岡嶋二人 著
講談社文庫

12月27日

雄一は、別れた恋人「咲子」の母親に呼び出され、監禁されてしまった。目覚めると、そこには、あの3ヶ月前、別荘にいた3人が集められていた。

閉ざされた中で、追い詰められ、起こった事件の犯人を探す四人。犯人は一体誰か? 最期まで持って行く構成はまあまあ面白い。
「スーフィーの物語」
イドリース・シャー 著
平河出版社

12月20日

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マイトレイ

「マイトレイ」
ミルチャ・エリアーデ 著
作品社

12月11日

ミルチャ・エリアーデの自伝的な恋愛小説。
インドで出会った若く美しい女流詩人マイトレイとの恋愛の物語。それは、エキゾティシズムに満ちた恋で、あるヨーロッパの若者が初めて出遭うインド・ベンガル文化そのものへの傾倒と切り離すことが出来ない。

この物語は、自伝的な面があるため、ミルチャ・エリアーデの他の小説に較べて、非常に素直にリアルに描かれている。特に、ヨーロッパの若者が根拠のない自信に満ち溢れてインドで働き始める下りなどは、現地人への距離のある視線がリアリティを感じさせる。
現地では高級官僚にあたる主人公が次第次第にベンガル文化そのものへ傾倒してゆくのだが、その核心に美しい恩師の娘、マイトレイの存在があった。

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