アラブ・マグレブ・中東付近をテーマとした小説の紹介
 
黒魔術―上エジプト小説集
「黒魔術―上エジプト小説集 」
ヤハヤー・ターヒル・アブドッラー他 著 
高野晶弘 訳
第三書館
ナイル川上流の上エジプトを舞台にした小説集。
表題作の「黒魔術」は、カイロに住むある平凡な小役人が主役である。なにものかにとり憑かれたという男が助けを求めてやって来た時から、その日常が不意に異常な世界にスリップしてゆく。エジプトの政治状況をテーマにしているらしいと後書きにあるが、それを知らなくても、この小説だけでも楽しめる。
中に何かを住まわせるように要求されながらそれを拒む主人公は徐々に追い詰められていく。カフカ的なストーリーとエジプトの風俗とが混在する面白さ。

また、「ノアマーン・アブドルハーフィズの秘められた歴史」は一庶民であるノアマーンの生涯を伝奇的に描くユーモアを交えた小説。虚々実々な注釈は読んで楽しく、また、ナイル中流の決して豊かではない農村の生活を垣間見ることができる。

「首飾りと腕輪」は、ルクソールを舞台にしていると思われる作品であり、非常に詩的な断片を連ねた文体が印象的である。ルクソールのカルナック神殿の伝説の部分などを読むと、迷信的な信仰がイスラム教に隠れて残っているのを感じる。

どの作品もエジプトの生活を感じる小説集である。



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