アラブ・マグレブ・中東付近をテーマとした小説の紹介
 
不幸の樹
「不幸の樹」
フセイン 著 
池田修 訳
河出書房新社
「この娘との結婚は不幸になる、これは不幸の樹だ」
父親同氏が友人であったために、取り決められた、醜い娘との結婚。結婚させられた息子の母親はそう予言する。その予言は実現されたのか。結婚で結び付けられた家族の運命を三代に渡って書いた小説。

正直言って、小説としてはどうかというような感じの作品である。最初にある人物について語っていたかと思うと、その人物は、年を取ってこう言う風に死んだ。で、ところで、今の時点だが…と、時間が戻ってきて、今度は別の人物の話を進める…というように、話が前後する。
それもその筈、これはエジプトでも初めて小説として「書かれた」本だと言う。著者は文化省でも勤めたエジプト社会では非常に有名な人物で、文化改革を推し進めた人でもある。下の、「黒魔術」という小説の中で、語り手が、フセイン氏の改革のような西洋化がエジプトを駄目にするのだ、とかいうようなを批判するところがあったりする。また「アブドゥル・ノアマーンの生涯」でも名前が上げられており、文化人の代名詞のような人だったのだろうと思われる。

この本にも「神秘主義の指導者・シェイフ」の言うがままに生きる古い世代の人々や、その後成功して、もっと新しいヨーロッパの知識を学校で学んでゆくことになる新しい世代の子供達、その対比が描かれている。
かつてのエジプトの庶民の目に映っていただろう世界、を知る楽しみのある一冊。
また、エジプトにおけるスーフィーズム信仰の根付き方なども垣間見られてその点も面白いのではないかと思う。



back
アラブ小説紹介 ナイアドプレス作品紹介 読書メモ リンク
アラブ・イスラム圏の小説の読書感想文のページです。

Copyright (C) 2002- ROSARIUM