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蘭の会 三周年記念 連載コラム

新 サルでもわかるレトリカル 会員番号000b 佐々宝砂



■ 第9回 何度も同じこと言うな!
前回に引き続き反復法です。でも反復法は両刃の剣。繰り返すと意味が薄まることもあります。下手な反復ならやらない方がマシ、ということも、往々にしてあります。同じことを同じように何度も繰り返すと、読者を心底うんざりさせることさえあります。今回のタイトルみたいな台詞を口走りたくなった経験、ありませんか?

反復法は強調のレトリックです。伝えたいことが(作者にはたぶん)明確にわかっている。なのに(作者は)わかってもらえない(かもしれない)と思う。だから繰り返すわけです。何度も同じこと言ってる側としては「何度も同じこと言わせるな!」と言いたくなるかもしれません。でも冷静に考えてみましょう。何度も同じことを言っているから、伝わらないのかもしれません。もっと的確な言葉で言えば、伝わるのかもしれません。そんなふうに自分の言葉や才能を疑ってみるのは、ある程度必要なことだと思います。詩作やめちゃおうと思い詰めるほど疑う必要はありませんが。

反復法の一種に、「類義累積(るいぎるいせき)」というものがあります。今回はまずこれをやってみようと思います。類義累積は、似たような意味の言葉(類義)を積み重ねる(累積する)手法です。言葉は難しげですが、別に難しい手法ではありません。


例文1.類義累積
彼女はえらそーで
お高くとまってて
傲慢で
不遜で
いばってて
この世でいちばんすごいのは自分


筆者の気分を反映してなんだかいやな内容になりました(笑)が、まあ、これで類義累積の意味はだいたいわかっていただけたと思います。例文1の彼女はとにかく「えらそー」なんです。だから「えらそー」だけで済ませてもいいっちゃいいのです。でも「えらそー」だけじゃ足りない。不満。伝わらない気がする。そこで、「えらそー」に似た言葉をどんどん積み重ねて、意味を強調する。それが類義累積です。

類義累積の手法だけを使っても充分詩になるのですが、さらに突っ込んで考えてみましょう。(作者にとって)明確である「伝えたいこと」がほんとーのほんとーに真実なのか、疑ってみましょう。「疑ってみる」ことも、実はレトリックの一種です。反復法とはちょっと異なりますが、類義累積の親戚のようなレトリックで、「疑惑法」と呼ばれるものです。語り手が語りながら悩んでいる、自分の言うことに疑いを抱いていて、何を言ってもすっきり言えたという感じがしない・・・なんか気色わるいテクニックのようにも思えますが、たいていの場合、悩んでいるのは語り手だけで、読み手は状況や語り手の言わんとすることがわかります。古いところでは、オペラ「フィガロの結婚」にある「恋の悩み知る君は」の歌詞がまさに疑惑法の代表。歌詞なので引用できませんが、どこかで探してみてください。「語り手は悩んでいるが読者は悩まない」の意味がわかると思います。「恋の悩み知る君は」がそうであるように、疑惑法は、特に恋愛を主題にしたものに多く使われているような気がします。語り手が恋だと認めていない状態の恋を表すのにぴったりの手法だからでしょう。


例文2.疑惑法
彼女はお高くとまってる
近くにいると緊張する
なんやしらん
イライラする
心臓がぐきぐきする
焦る
喋ろうとすりゃ舌を噛む
汗をかく
息苦しい
でも離れるともっと息苦しい
えらそーな顔をみるとうれしい


反復法には他にもいろいろな手法がありますが、たいてい退屈なので、反復法に近い例や特殊な例として、類義累積と疑惑法をあげてみました。他の反復法については解説なしで例文のみあげておきますので、参考にしてください。てな感じで、今回はここまで。

○例文
・首句反復
あたしは昨日家を出て
あたしは今日は電車に乗って
あたしは明日飛行機に乗り
あたしは明後日この世にいない

・結句反復
挨拶しなかったら怒られ
挨拶したら怒られ
喋ったら怒られ
黙ったら怒られ
立ったら怒られ
すわったら怒られ
どうすりゃいいのと訊いたら
質問するなと怒られた

・首尾語句反復
風は静かに吹き去ります
風は荒く吹き去ります
風は時が過ぎゆくように
風はいつも吹き去ります

・首尾同語
あんたのものはあんたのもの
わたしのものはわたしのもの

・おうむ返し(回帰反復でもある)
「雨が降ってる」
「雨が降ってる」
「寒いね」
「うん、寒いね」
「好きよ」
「ぼくも」
「ほんと?」
「うん」
「雨が降ってる」
「雨が降ってる」


○課題8「類義累積または疑惑法」
類義累積か疑惑法を使って詩を書いてみましょう。


参考文献:「日本語レトリックの体系」

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