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蘭の会 三周年記念 連載コラム

新 サルでもわかるレトリカル 会員番号000b 佐々宝砂



■ 第27回 おはな詩をつくろう
人間不得意なことはなかなか書けないものなので、現時点での私は叙情詩についてうまく語ることができない。叙情詩について突っ込んだことを知りたいひとは、ネットのあちこちと本の森を散策して、自分なりに調べていってほしい。私も勉強するつもりではあるけど、苦手なもんは苦手なんである、ごめん。

叙景詩&写生については、これはもう、ただひたすら練習。はっきり言や、写生ってのは人に教わるようなことじゃない。練習すればするだけうまくなる、そういう類のことだ。バットの素振りみたいなもんだ。あーた、松井選手が素振りをしないと思いますか。イチロー選手がノックを受けたことないと思いますか。イチローはすごい練習好きだとゆーじゃありませんか。天才だって練習はするのだ。とゆーより凡人の数十倍数百倍練習する大バカこそが天才だ。だから練習。夢日記で練習。説明文で練習。とにかく練習。写生練習は運動会系汗みどろ(笑)。量をこなせ。習うより慣れろ。

写生とは対象を的確にとらえることであり、対象を的確にとらえることから、レトリックははじまる。文章に描くべき対象が多ければ多いほど、詩は豊かになる。だからこそ「詩は経験」なのだ。できるだけたくさんのいろんな事物に触れること。たーくさんのものをみて、たーくさんの文章を書くこと。朝起きて朝日が爽やかだったら、誰が聴いてなくても、とにかくそれを言葉にすること。旅行にでるのもいい。スポーツ観戦するのもいい。美術館や画廊に行ったりするのもいい。近道はないので、楽しみながら地道に歩くのだ。そういえばゴールもないので、いつまでも愚直に歩くのだ。

しかし叙事詩については、そう、叙事詩についてなら、私は何かを教えることができる。だから私は、しばらくのあいだ、叙事詩について書くつもりである。しかし叙事詩という呼び名は、今回限りでやめようと思う。重い上に誤解されやすい言葉のような気がするからである。叙事詩は、詩である前に「おはなし」なのだ。だから私は、叙事詩を「おはな詩」と呼ぶことにする。幼稚っぽい呼び方だとおもうかね? いや、幼稚っぽく見えるくらいのほうが、叙事詩の真実をついている。むずかしく考えるとまちがうよ。叙事詩はとにかく「おはなし」なのだ。

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私が詩を書くうえで参考にしてきた本のひとつに、『ファンタジーの文法』というのがある(ジャンニ・ロダーリ著/ちくま文庫)。主に子供向けのファンタジーを書くための実際的な方法を紹介する本だが、リメリック(五行戯詩)の構造を解き明かす章やシュルレアリスム的方法を紹介する章もあり、詩を書くうえで参考になるので、一読をおすすめする。三島由紀夫の『文章読本』より役立つ。保証する。

で、この『ファンタジーの文法』に、「プロップのカード」なるものを紹介した章がある。「プロップのカード」とは、ロシアの民俗学者ウラジーミル・プロップが、さまざまな民話を研究し、民話の各要素を31の「機能」に分けて構造を解き明かしたものだ。『ファンタジーの文法』の著者ロダーリは、この31の機能を20項目に削減し、挿し絵付きのカードにして子供たちに示して、おはなしをつくらせた。「プロップのカード」は実におもしろい。これを使えば、たいていのひとはおはなしを(それも自分独自のおはなしを)簡単につくることができる。

今回は、「プロップのカード」を元に作成したおはなしを紹介して終わりにしよう。解説は次回にまわす(だって原稿落としそうなんだもん←もう落ちてるという説もあり)。

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プロップのカードに基づくお話の一例

少女は、母親から、畑をちゃんと耕さなくてはいけないと言われていました。
でもある春のこと、あまりにきれいな野菊をみつけたので、畑仕事を忘れ、花を摘みました。
野菊を摘んで香りを嗅いだ少女は、突然、誰の目にも見えない透明人間になってしまいました。
家にいても誰も話しかけてくれません。外にでかけてもだめです。なんとかしようと少女は家を出ました。
少女は川の向こうにすむ魔女のところまで行こうと思いました。川をこえなくてはなりません。
川をこえると、魔女の家がありました。魔女は少女の姿をみることができました。
少女は魔女の家で暮らすことにしました。魔女は少女に魔法の緑のゆびをくれました。
ところが魔女の家には意地悪な小人がいました。小人は魔女の畑に地雷を埋めます。
小人が口笛を吹くと、畑の地雷はどんどん爆発します。畑はだいなしになってしまいました。
少女は緑のゆびで地雷に触ります。すると地雷からたくさんの植物が生えてきて、爆発しなくなりました。
地雷を使えなくなった小人に緑のゆびで触れると、小人は一本の桑の木に変わってしまいました。
魔女に教わって桑の実を食べた少女は、目にみえる普通の姿に戻ったので、家に帰ることにしました。
少女は、再び川をこえて家に戻ります。
家には、少女にそっくりの娘が我が物顔で暮らしていて、少女のいいなづけと暮らしていました。
少女が「私は本当のこのうちの娘だ」と行っても誰も信じてくれません。
少女は荒れてしまった畑を耕しました。植えたばかりの麦に緑のゆびで触ると、麦はたわわに実ります。
少女は麦を粉にして母親に教わったやりかたでパンを焼きます。パンを食べた婚約者は真実に気づきます。
にせの少女が焼いたパンは、硬くてまずくて食べることができません。
少女は緑のゆびでにせの少女に触ります。するとにせの少女は一本の林檎の木に変わってしまいました。
林檎の木の下で、少女はいいなづけと結婚式をあげました。

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会員随時募集中/著作権は作者に帰属する/最終更新日2006-12-15 (Fri)/サイトデザイン 芳賀梨花子

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