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蘭の会 三周年記念 連載コラム

新 サルでもわかるレトリカル 会員番号000b 佐々宝砂



■ 第20回 【再録】比喩を使おう(2)シンボル(Symbol=象徴)
以下、かつて詩人ギルドのレビュウに収録したものから若干訂正の上再録したもの。


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今回は、シンボル(Symbol=象徴)の話をします。ちょっと詩から離れた話に思えるかもしれないけど、許してねん。

シンボルというのは、言葉では説明しにくい観念や抽象的な観念を具体的なモノに置き換えて表したものです。これも比喩の一種です。擬人化の話をしたとき「純潔」は百合を持っていると言いましたね。擬人化された姿そのものもシンボルで、手に持っている「百合」もシンボルです。「純潔」の手に持たれた「百合」のようなシンボルを、シンボルの中でも特に区別して象徴的付属物(Attribute)と呼びます(こ難しいこと書いてすまんね)。

多くの場合、シンボルは社会的・歴史的・神話的な約束事の上になりたっています。個人の感情に基づくものではなく、はっきり言えば知識として覚えていって読み解いてゆける定型的なものがシンボルなのです。

具体的な例をあげてみましょう。鳩は平和のシンボル。十字架はキリスト教のシンボル。尻尾をくわえた蛇は「ウロボロスの蛇」と呼ばれ時間のシンボル。車輪は運命のシンボル。このようなシンボルは事典が作れるくらいたくさんあります(実際、象徴事典は何種類もあります)。ややこしいことには、同じモノであっても西洋と東洋で意味が違ったりします。たとえばコウモリは、西洋では悪魔の部下、特に吸血鬼の使い、つまりは邪悪のシンボルです。しかし同じコウモリが、東洋(中国)では幸福のシンボル。蝙蝠と漢字で書いたとき、「蝠」と「福」のつくりが同じですね。中国語では「蝠」と「福」の発音が同じなのです。それで、中国ではコウモリを幸福のシンボルに使います。日本では鯛が「めでたい」シンボルであるのと似たようなものです。

色や数字もシンボルとしての意味を持っています。青は沈静(西洋では暗愚)、白は無垢……。赤は一般的には情熱ですが、中国では古来より吉祥の意味、それとは別にもちろん左翼の意味もあります。西洋の神秘学だと赤は血の色、生命の象徴です。数字の3は、どこの国でもだいたいは安定のシンボルです。日本だと8は末広がりでおめでたい。4は死につながるので意味が悪い。西洋では12は完全・完成を示し、13は不吉、あるいは裏切り。映画「オーメン」で知られているように、666は獣の数字、アンチ・キリストの象徴。余談ですが、シンボルとしての数字の意味を追求したのが数秘術あるいは数霊術というもので、私がつくった詩人占いは、この数秘術を利用しています。

で。こういうシンボルをたくさん覚えていって何になるのか。少なくとも、詩をはじめとする文学作品や神話や昔話を読み解くには非常に役立ちます。また、私みたいに伝承を題材にした怪奇幻想モノを書いている人間には、どうしたって覚えておかなきゃならないものです。たとえば私は以前「血と百合の遁走曲」という吸血鬼の詩を書きましたが、この詩の中にはシンボルが頻出します。題材が西洋の伝承なので、シンボルは西洋のものに統一しています。


シンボル 例文1(佐々宝砂)

 朝な夕な花を捧げる、
 深紅の薔薇ではなく、
 白い百合を。


百合が純潔・清純のシンボルということはすでに言いましたね。これ以外の意味ももちろんありますが(笑)、この場合は単純に純潔。意味を強調するために、「深紅の薔薇」というものを対比させています。「花を捧げる」という行為も象徴的な行為です。


シンボル 例文2(佐々宝砂)

 大ぶりのナイフ、生のニンニク、
 祈祷書、聖水、ケシの実、
 そして鋭く尖らせたサンザシの杭。


これは伝承に基づく吸血鬼退治アイテムですが、みなシンボルとしての意味があります。妖怪だの怪物だの悪魔だのとの対決は、ほぼ例外なくシンボル対決です。私の詩にはあまり出てこないけど、ステロタイプな吸血鬼はたくさんシンボルを持っています。牙・コウモリ・生ぐさい匂い・城・柩・マント・伯爵という地位・などなど。吸血鬼を退治する側もたくさんのシンボルを武器に闘います。

祈祷書と聖水は説明しなくてもわかりますね、キリスト教です。ケシの実は、この場合は偏執という意味を持ちます。ナイフとニンニクとサンザシの杭は同じものを象徴しています(サンザシじゃなく銀の場合もあるけど基本的な意味は同じ)。私、この詩の最後の方で、サンザシの杭と吸血鬼の牙は同じものだと、つい説明的なことを書いちゃったのですがホントは説明しなくてもよかったかもしれません。要するにナイフもニンニクも杭も牙も、それから塔が詩の中にでてきますがこの塔も、すべて男根のシンボルです。


シンボルの世界は、約束事から成り立つ書き割りのような世界ですが、すべてのものが二重三重四重……の意味を持つ世界でもあります。西洋と東洋で意味が違う場合があることはすでに書きました。西洋だとコウモリは不吉、中国だと幸福、ではその両方を知っている私の目に、コウモリはどう見えるのか?……私にとって、コウモリは、コウモリです。吸血するヤツはごく少数で、大半は虫を食べたり果物を食べたりする生き物。夏の夕方しゅんしゅん飛ぶ。よく地下水道にいる。鼻がつぶれた鼠みたいな顔でかわいい。……そんなこと誰も訊いてない? いや少なくとも元々の意味は変わらないということを言いたかっただけです。

本当の本当に自分自身の目で世界を見たかったら、なるべく多くのシンボルを知っておいた方がいいと私は考えています。コウモリはなんとなく気色悪い、そういう人が多いと思いますが、その気色悪いイメージはどこからきたのか? 吸血鬼映画で、あるいはセサミストリートで数字を数え上げているカウント・カウントのまわりで、これ見よがしにコウモリが飛んでいたからじゃない? 本物のコウモリとは無関係にシンボルとして使われた映画やマンガや絵画の中のコウモリのイメージに、私たちのイメージはかなり支配されてしまっているのです。私たちの頭の中にあるイメージは、個人の経験に基づいていない場合、ほとんどがそんなものです。

時代が変わるとき、シンボルも変わります。政治体制で変わるし、経済の変化で変わるし、何か事件が起きるとそれでまた変わります。かつて親しみやすい経済の象徴だった貿易センタービルが、今やテロリズム被害の象徴となったように。さらに、世の中グローバルになって西洋東洋ごちゃまぜになってくると、シンボルの意味が錯綜してきます。

しかし、シンボルの持つ重さは変わりません。今も昔も、政治や宗教や商業は大いにシンボルを使いこなしています。国旗も国歌も天皇もシンボル。十字架もユダヤの星もシンボル。たれぱんだもこげぱんもハロー・キティもたぶん何かのシンボル(笑、でもマジメ)。シンボルがある一人の人間そのものである、とゆーこともあります。珍しいことじゃなくよくあること。おわかりでしょうが、アイドルがそうだし、宗教の教祖もそうです。見回せば世界中シンボルだらけ。桜もシンボル、スミレもシンボル、月も太陽もシンボル。いや世にあるものはみな何かのシンボル、ミミズもオケラもアメンボも私もアナタもシンボルなのかも。しかもそのシンボルにはみな二重三重四重……の意味があって……


新しいシンボルの制作は、現代では基本的に商業的アーティストとプロデューサーの仕事です。彼らは、一般大衆の性向や認識に基づいてシンボルを作っています。しかし、シンボルを作ることは、一般大衆に迎合することとは別です。シンボルの定義を思い出して下さい。シンボルは、あくまでも「言葉では説明しにくい観念や抽象的な観念を具体的なモノに置き換えて表したもの」です。そして新しいシンボルを作るとは、同じ文化を共用する人間が共通して持っているぼんやりした抽象的な観念、まだ名づけられていない定型化されていない新しい観念、その観念を捉えて具体的なモノに置き換えて表現すること、です。わかるかなあ。わかんなかったらゴメン。わかりにくいとしたら、私自身がまだよくわかってない、とゆーことです。

しかしとりあえず言えることは、シンボルを使う人間と、シンボルに使われる人間がいるということ。曲がりなりにも詩を書く、何かを表現する立場にあるのならば、シンボルに使われるよりはシンボルを使う側になりたいよね、少なくとも私はそう思うわけです。


というわけで今回の宿題。

●詩人としてのアナタのシンボル、あるいはアナタの詩を象徴するモノはなんだろう?
 自由な発想で考えてみませう。
 抽象的なコトバではダメですよん、あくまで具体的なモノ(行為)で答えること。
 説明自体は抽象的でもいいです。詩で答えてもヨイです。



<佐々宝砂の回答>

私佐々宝砂のHPのシンボルは「扉」なのですが、これ古いシンボルなのですねん。ウィリアム・プレイク、ハクスレー、ドアーズ、その系譜のシンボルです。見知らぬ世界への扉、という感じですね。でも私の詩のすべてがそういうものかというと、全然そんなことない(涙)ので、別なの考えます。

というわけで、えーと、私の詩のシンボルは「紙芝居」です。チャチなけばけばしい絵とおどろおどろな煽り文句。そのくせ時々やたら教訓的だったり。芸術的とはいえず、たいしたシロモノでもなく。借り物の驚愕と、お仕着せの感動。そして私は「紙芝居屋」さん。むかしむかしの夕暮れどき、私も経験したことはない昭和20年代あたりの夕暮れどき、コウモリ飛び交う野原で、売れ残ったアメとおしゃぶりコンブをしまいこんで今日の稼ぎは少ねえなと舌打ちしている紙芝居屋、そんなものに私はなりたい(でもできればたくさん稼ぎたい……)。

というので答になってんのかな、私自身よくわかんねえな(爆)。

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