(c)蘭の会 詩集「なゆた」第二集

ERIN (峰里えり)

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黄砂

けむっている
前日は雨
異国色のフィルターを通した街は
浄化されそびれて沈む

車は土の塊になり
人は背中をまるめて目を細め
時折のぞく陽の光が何か怖がっているよう

けむっている
ふと
この景色にすすけたガラスをはめこんだ
「黒い雨」
車は灰のかたまりになり
人は石畳に影を刻む








もしも。

もしもわたしが犬ならば
この海を渡ってゆくのにな
本能にしたがって懐かしい人を追うように

もしもわたしが猫ならば
この山から出たりしないのにな
子別れした後もこっそり見てる親のように

もしもわたしが豚ならば
食べられる日を夢見るだろう
噂よりは綺麗にして毎日のエサをありがたく

もしもわたしが山羊ならば
角を折らせたりきっとしない
大切ななにかを守る武器を捨てたりなんか

もしもわたしがジャッカルなら
狙ったものを逃したりしない
何日飢えてもじっと息絶えるのを待つ

だけどわたしは人間なので
したいこと全てかなえることはなく
我慢したり無理してみても笑う

たとえ心が叫んでも
涙のひとつもこぼさずに
常識というものさし片手に
あっけらかんと暮らすのだろう









器のおおきな砂時計

いつでも人の顔色を見て
自分のとる態度をきめていた
そんなおかしな癖を捨てるのに
ずいぶん時間がかかったよ

空気を共有することを
いつでも恐れてた
裏切りと期待とを繰り返して

何も望まないなんてできないけど
お互いに望むことを見つけるなら出来る
何もないなら何かが生まれるまで
待つことだって

時間は思ったより早くは過ぎない
それは痛みをともなう時間だけでなく
嬉しいことにだって平等

器の大きな砂時計を持ちなおして
新しい瞬間を積み重ねたら
弾けたつぶてが透明のガラスを打って
小さなメロディを奏でる

なんて心地よい音色
聞き逃していたささやきが
はっきりした言葉に変化するように

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