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海、へ







今日の朝のリズムは
うたじゃない

ただぎこちないフィルム

嘘かもしれない懐かしい匂いに
誘われるようにして
ここに座り込んだの

グレー
どうにかしてこの塀の色を変えなきゃ
わたしだけがぶれている
この傾いたなかで

ブルー
いらないのよ 圧倒など
向こう側というのは
知らず

このこは冷たさに笑っているけど

グレー

かれは煙をふきだして目を細めるけど

ブルー

雨で色を変えたモノクローム
 

   1975年、アメリカ
   とても埃っぽい街
   温度を選べない時代

そして物語は始まりやしないのだけれど

指紋は事ある毎重なり
男の目は一層線のようになった

限られた意味のなかで

空はいつでも塀になり

グレー

潮は輝くことはなく

ブルー

もう、しまおうね。

愛しさなどと知らず
やさしさにうもれた

語らないまま男は眠り
約束のように風が吹く

じゆう、だろう。


   1975年、
   背丈ばかりの銃
   爪ほどの勲章


鳥は飛び
ブルー

錆びた柵を 赤々と

グレー
グレー

いつまでも美しくいたかった

目を閉じて
ロール

席をたったのはだれだろう

ことばはもう意味をもたず

ひかり

まじり

グレー

吹き抜けたあれは  わたし











融界にて、床なし

ひと月振りに
バスタブを使いたかったので
お湯をスウィート・ピンクに
してくれるという
入浴剤を買い
帰る

かさかさしたゆびで
ひとすくい
うすむらさきだわ
これ

わたしは
あまいピンクというのは
むらさきになってしまうのかと
すこし

また
かさかさとした
濡れた髪は
きしきしとする


Sweet病という皮膚病があって
それがどのようなものか
しらないのだけれど

ステロイドで治療するのだ
そしてそのステロイドの副作用で
また病むのだろう

すこしだけ
ぽつり
ぽつり

している
膝を

抑圧して

ああきっとあの人は
わたしが
Sweet病ではなかったから
抱けなかったの
だわ

もう
だいぶん冷えた
むらさきの湯に
てのひらを
とぷん
とさせた

つぎつぎに
あふれる
爪先で
ふくらはぎを
なぞって

わたしの曲線というのはこんなにも脆い

あの人は
白皮症

わたしは
しろい肌だけを
撫ぜた

いつも
撫ぜる
だけ

ところどころすべて
撫ぜたって
伝染りはしないのに

あの人

白癬【tinea】であったらよかったのに

そうしたら
うそのあまい
ピンクも
熱で
充満するでしょう
仄かなものでは
なくなるでしょう
この
絡まる
匂いも


薄まった日の中で
わたしの輪郭は黒くなる
わたしは
わたしの猫の輪郭を描き足した

つい きのうのこと

髪から
ぽたりと
まるみが
おちる

ひとりなので
わたしは
上からの水で
死にたい

つぶやいて

冷えきった
むらさきに
くちゅ

つばを
おとした







蓄音球




 ― 手をそえて  肩をすくめ  うたをうたう

                  しらないことばで ―

誰かと ゆうるりと 離れ
あつく
たれて
 まる まってゆく 
       の かな



転んだ

モザイクに足を取られ
ラロックが笑う
雨が降る 濡れずに 転がる

靴は脱がないよ

靴は脱がないぞ

枯レゾウがこだまをかえす
くつはねないぞ ねないぞ

キボットが僕の手を引いた
キボットはまるで葉っぱにみえる

空洞が音だよ 
ここは街という街だよ
しずかだろう さわがしいだろう

なんて 生き物の 声
指を さす 化学記号

ロォガルドンの飴売りが
あついよ あついよ と
溶けていく風景を売っている
帰り道には冷えた球を
毛玉鳥にやっていく 

飛び上がってはいけないよ

ぱりん ぱりんと
天が
もう
傾きかけている

街は外森に行くのを禁じている
モーリウムがでる から と
毛玉鳥がまるまって電線から垂れ下がり
眠っている

坊や ああやって お眠り
外森のモーリウムは
ぶあつ く
さ め  て
 がり り
坊やを砕いてしまうよ


ここはまちというまちだよ
もう かえるよ

モザイクから皮膚猿がしっぽをのばす
いろとり どり の
すぴいかあ から

    もう  かえるよ

坊や 天のフウマリウが閉店してしまうよ
ラロックが
だんだん
重くなる

キボットが すこし うかんだ
はっぱ はなれて


さあ

  もう

    かえる

  よ


フウマリウで ぱりいんぼう わらりいん と となえると




僕は円い明かりの隣でちぢこまっていた


 ― 手をそえて
   肩をすくめ  
   うたをうたう   

   しらないことばで ―


骨がこすれたのでもぞもぞと向きを変え
君の背中に触れ
僕の指は
マーブル
もよう
だった

君は知らない街に溶けたみたいだね

僕は膝小僧を気にしながら ぱりん と 眠りを割った



(c)蘭の会 詩集「なゆた」第二集
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