(c)蘭の会 詩集「なゆた」第二集












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風変わりな話







夜中に胸が苦しくなり 目がさめると
ベッドの横に 小さな男の子が立っている
私の魂は天井に貼りつき 上から
男の子と ベッドの上の
抜け殻の私を眺めている
そんな夜を何度も繰り返した

サンドイッチのパンの耳
ハンバーガーのパンのはじ
ここは街中なのに
食べ残しを分けてやろうと 辺りを見回す
犬はソファの上で じっと私の帰りを待っている
 
電話の向こうの声に
不覚にも ナミダがほほを伝うのを感じた
  
久し振りに泣けた事が はんぶん嬉しくて
事の大きさを 一瞬忘れていた
心に鍵をかけていた事も つい忘れた

幾つになっても 物事きちんと受け止めず
当事者でないフリをする。
言葉はいつも 威嚇のためだけ。 
情けなくて また言葉をかさねる

本当にナミダが出たから 電話を切った
それを悟られるのが 嫌だった。
コーンスープで舌を火傷したって
ナミダは出るんだけど

夜中に耳を澄ますと 誰か外でささやいている
小さな明かりが見える
犬が低くうなる だから本当に誰かがいる
ささやきの内容を聞き取ろうと 耳を済ましているうち
犬も私も 眠ってしまった。











ずっとここで


あなたのふくらはぎのような 緩やかな丘
緑の柔らかいくさはらが どこまでも続く。
空には何もない。 ただ空がある。

だれの頭の中も 透き通っている
脳みそは 美しく 桜貝のように暖かな色だ

あなたは 笑いもしない そのまなざしも読めない
でも 私にはわかる
あなたは 誰の事も 憎まず受け入れる。 それだけで
充分に私は満たされる

時は 好きなだけ 止められるし進められる
好きな時に 好きなだけ進めばよい
そんな場所に来れた だから
私は もうここでいい。 ずっとここでいい。
心がこんなに満たされていれば
私には 眠る事以外の なんの欲もおこらない。

くさはらで 遠い空を見ているだけ。
ずっとここにいたい。 
ここで石になりたい。
何百年も雨に打たれている 石になりたい。







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