(c)蘭の会詩集「なゆた」第二集

                                    瑞哉

 

 

 

 

 

 

 

病院

 

 

 

白い中の

小さな隙間に

 

貴方が横たわっており

必死にこちらを こちらを

向いていて

 

顔ではなく

眼が その眼が

 

脳にただ

焼きついたように

私は熱を感じる

 

貴方は横たわっており

とても優しそうに笑うので

 

胸にただ

痕の残る火傷のように

私は痛みを感じる

 

眼を

閉じないでください

お願いだから

 

できればそのように必死に

いつまでもこちらを

見ていてくれませんか

 

白い中の

小さな隙間に

 

貴方だけが鮮やかに映るものですから

 

私は

泣きそうになるのです

 

熱と痕と痛みを

遺してください

 

 

せめて

 

 

 

 

 

 

 

 

一枚の

 

 

 

僕だけが今だ

飛べないでいた

 

羽根はもう

充分に育ってしまったっていうのに

まだ

飛べないまま

 

この場所から

動けないまま

 

周りは酷く

寂しく見える

だって僕以外

ここには誰がいるの?

 

最初は

みんないたんだ

ここに

みんないたんだ

 

不揃いだった

僕の隣にいたヤツ

最初に飛んだ

 

すぐに落ちてくると思った

けど

頼りなげに

しっかりと飛んでった

 

僕のはもう

充分に育ってしまったっていうのに

どうしてか

飛べない

 

なんでかな

僕のは

不揃いじゃないのに

 

上から落ちてきた一枚の羽根

なんでか

僕は笑われてる気がして

なんでか

ミジメだった

 

 

 

 

 

 

 

 

せめて

 

 

 

私の目の前にある顔は

誰か別の人でしょうか

 

少し前までは寂しそうな瞳

髪の長い人を見ていた

最近ではもう嬉しそうな瞳

相変わらず

髪の長い人を見ている

 

そんな顔を

近くで見ている私は

 

いちばん惨めで

涙は目のふちまでくる

けれど泣かないのは

なぜ

 

笑う

見ていられない

目を細めて

少しでも視界に入らないよう

 

涙は目のふちまで

けれど泣かない

 

目の前には

見慣れた顔と

見慣れない表情

 

いっそのこと

泣いてしまえばいいのに

 

泣けない

泣かない

 

 

 

 

 

 

 

 

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