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黒の下のパーティー  
骨骨夜会  
三月ウサギと三月芋虫  































黒の下のパーティー

佐々宝砂
 

跳ね上がる、湧き上がる、躍り上がる、
歌う、歌う、歌う、歌う、
躍動感にみちみちた空気、
あちこちに飛び交う音符の羽虫たち、
唐突に鳴るクラッカー、

輝かしい照明は目も眩む、白、
白のなかの白、
白のうえの白、
このうえない白、

狂い踊る色彩、
見えるはずもない遊色、
あるはずもない構造色、

そして鼻がおかしくなるような臭い、

石油の、泥水の、糞尿の、
揚げたてポテトの臭い、
腐った牛乳の臭い、
ひとすじ香る沈丁花のピンク、

ごったがえすパーティー会場の、
カクテルパーティー効果なんか効き目がない空間の、
音と色彩と臭いを、

とじこめる黒。

静かに、ひそやかに、
華やかなパーティーを封印して、
黒い謎が黒く四角く切り取られる。


         -------カジミール・マレーヴィチ「黒の正方形」に寄せて

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骨骨夜会

伊藤透雪
 

カラカラ乾いて
2つ、3つ、
闇への坂道転げ落ち

 ねえねえ奥様、
 あの方脳出血なんですって
 まあ、どおりで黒いシミがあるのね
 あら、私達交通事故だもの
 形なんてバラバラでしょう
 そうでしたわね
 あなたは首が折れていて
 私の顔は半分だけね

泥土に沁みていく肉体
病の時から放たれる

 おい、あいつ知ってるかい
 ああ、最近来たやつだ
 大病患っても綺麗なものだね
 ああ、全く、
 俺達は足や腕や目
 爆撃されて無いからな
 今の代は良いものだ

:皆の者、今宵は月食
 さあパーティーを始めようではないか
 我々の永遠に乾杯!


次から次へと闇夜に浮かぶ
誰が誰やら見分けがつかぬ
ふらふら青い火が灯る
まわれまわれ笑えや歌え
黄泉比良坂、千引石の向こう側
転がり落ちて闇の中
黄泉の肴に黄泉の酒
何の祝いのパーティーか
カタカタこりこり
鳴らして転げる髑髏の穴が
風に吹かれて鳴っている

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三月ウサギと三月芋虫

鈴木パキーネ
 

金泥銀泥を塗り込めて春がやってくる。

いつも思うんだけど春って、
派手すぎよねえ、きらきらすぎるよねえ、
でも春だからしかたがないのとささやいて、
今日生まれたばかりの朝のなか、
走り出す、
どこに走り出すのか自分でもよくわからない、
走り出す、
春だもの、
三月だもの、
わたしは三月ウサギだもの、
畑にはキャベツがいっぱい、
レモン色の花を咲かせたブロッコリもいっぱい、
ついでに白菜も大根も花をひらいて、
走れ、走れ、走れ!
いつまで走るのか自分でもよくわからない、
いい匂いがする方角をめざして、
いい気持ちになる方向を探して、
わたしは走る、
走りながら紅茶をいただく、
だってわたしは三月ウサギだもの。

鳥の歌と春の嵐を響かせて春がやってくる。

やあ、ここはいつからこんなに騒がしくなったのか、
やかましいったらない、でもそうか、
春なのか、それではしかたないとつぶやいて、
昨日からもぐもぐ食べ続けているキャベツの葉を、
また食べる、
春だから、
三月だから、
わたしは三月芋虫だから、
眼の前にある緑をなるべくたくさん食べなくちゃいけない、
筋張ったキャベツ、
硬くなったブロッコリの色濃い葉、
すっかり広がって小さな芽をいくつも吹き出す白菜、
大根ももちろん、
食べる、食べる、食べる!
いつまで食べるのか自分ではわかっている、
すっかりおなかがいっぱいになるまで、
もう動けないくらい眠くなるまで、
わたしは食べる、
そしてすべて脱ぎ捨てて新しくなる、
いまのところ三月芋虫なんだけれども。

春さかりの畑で
三月ウサギと三月芋虫がすれ違う。
一瞬たちどまって、
一瞬食べるのをやめて、
きょとんと見つめ合う。

きょとんとしてないで、
春だから、
パーティーでも開きましょうか。

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2018.3.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂