盲愛
いぬのうた
炭鉱夫
相似
盲愛
宮前のん
君は、
今日も私の帰りを待っていて
嬉しそうに尻尾を振って
一目散に駆け寄って吠えてくる
ああ君は、私が
仕事が辛くて八つ当たりした時も
暢気な顔が憎らしくて邪険にした時も
誰かの身代わりに抱きしめた時も
まるで疑う事を知らず
昨日の事を忘れたかのように
真っ直ぐに
一心不乱に寄って来る
どうしてそんなに私の愛を
信じることが出来るんだろう
私など
自分の事すら信じられない
というのに
しんどい
いぬのうた
佐々宝砂
いぬ、と猫が言った、という話を読みながら、ポリスの「見つめていたい」を理由なく聴いている夜更けの窓は雨に濡れている。猫はもちろん犬と言ったのではなく去ぬと言ったのだ。私はなんと言って去ろうか。猫がいぬと言ったから話になるのであって私がいぬと言ったところで話にも何もならない。「見つめていたい」を聴くのも鬱陶しくなってヘッドフォンを外す。雨の音がする。雨の音も鬱陶しくなって耳を外す。脈々と手首に流れる血液が鬱陶しくなって腕を外す。爪先がもぞもぞするのが鬱陶しくて足を外す。頸動脈が鬱陶しくなって首を外す。とく、とく、と心臓の音が鬱陶しくて、心臓を外す。
いぬ。
私は去ぬ、それとも、居ぬ、のだろうか。使い切ってしまった私の窓に雨が降る。外してしまったヘッドフォンからはあいかわらずスティングの歌声が響いている。
炭鉱夫
伊藤透雪
赤土の坂道馬車が上っていく
花嫁馬車に乗っていく
後をついてく犬の尾が
右へ左へ揺れながら
時折何度か振り返り
来いというよに吠えてくる
俺は遠く見送って
日が暮れるまで見つめてた
炭住長屋を後にして
花嫁衣装のあの子が行った
爪の黒い俺の手は
あの子に触れずにそのまんま
好きだと一度も言えないまま
あの子は振り向くはずもなく
俺も犬なら
追っていくのも気兼ねなく
懐いて鳴いているものを
俺はただただ見つめてた
花嫁馬車が坂道を
馬に引かれて上っていく
ゆっくり揺れて上っていく
相似
心斎橋ぷりん
このコね
野良だったのに
いつの間にか住み着いちゃって
甘えん坊でね
寂しがりやでね
焼きもちやきで
私が他の人としゃべってるだけで
すぐ不機嫌になるし
一緒の布団じゃないと寝ないし
グルメで特売の缶詰は嫌い
私よりいい物食べてるんじゃないかな
そりゃ血統書なんて
いいもの付いてないけど
横顔がいいよね
あと寂しそうな眉毛と
甘える時の声と
好きなんだよなあ
似てるよね
え、誰と
って
あなたと
2017.10.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂