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桜、散りゆく  
ハルスマホ  
あらぐさのうた  
春を探して  































桜、散りゆく

土屋容子
 

部活、ボール拾い
足元にひゅーる春風とともに
桜の花びらが届く
心 ふわりなる

夜、人影もない古い川沿い
桜並木
はらはらと落ちる 花びら
いくつかの外灯が照らす
妖艶な桜
心 解き放つ

昼下がり、
西の人造湖へと続く道
人を見下ろすほどの桜があふれる
満開もそろそろが見納めか
桜散らしの雨の後
通りの茶店から見送る…
心 静かなる

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ハルスマホ

宮前のん
 

春はスマホの季節だから
手入れをしようと畑に入る
今年は雨が少なく天気がよくて
スマホが沢山実っている

時々着信音が鳴って
ランダムに音楽も聞こえたりして
結構にぎやかな畑の中で
汗をふきふき手入れをする
スマホは意外と根が深くて
人のウワサを養分にしていたり
写真や動画も蓄えていたり
ラインでお互いに絡み合っていたり
結構手入れに手間がかかる

急にパシャッとシャッター音がして
そばのスマホに写真を撮られた
すでにインスタに載っているのだろう
余計な機能ばかり発育する


突然、空が曇りはじめ
青いビニールシートをとって
慌てて引っ張って来たけれど
ザアッと雨が降り始め
すっかりデータがとんじゃった

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あらぐさのうた

佐々宝砂
 

名前のない草はそんなにはない、と
素直に言えばいいところを
雑草という草はないと言った人もいた

わたしの庭の
ほとけのざ
はこべ
たねつけばな
のびる
なずな
からすのえんどう
それから
なのはな

やつらに個別の名前があることは知ってる
雑草と呼ぼうとも思わない
でも、あらぐさと呼んでやりたい

如月の風もさほど冷たくない
海から黒潮の空気が吹き寄せる
風は強いけれど
それでも
あらぐさたちは

「あら」とは荒いという意味か
それとも粗いという意味か
もしかしたら新しいのかもしれないが
荒くて粗くて新しいさみどりの芽が
わたしの庭に
のびるのびるのびる

静かに大地を覆ってゆくあらぐさのうた
わたしは耳の片隅であらぐさのうたを聴きながら
あらぐさを摘み取る
ぱっくりと大きな口をあけて
あらぐさたちを食べてしまうために

春の息吹を
すべてわたしのものとするために

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春を探して

伊藤透雪
 

朝に白い靄かかる
霧ではないとは
なんと哀しいことかしら

西から飛んで来るものは
黄砂だけではないと聞く
あら、よい景色と思いきや
それが体に悪いとは

春の風より舞い落ちる
塵で病が出始めて
マスク姿が増えていく

何だか春が
寂しくなっていくものか
芽吹く季節に喜べない

街の中では
春は探すものなんて
山の生まれの私には
切なくなるほど
淋しい季節

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2017.2.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂
画像/佐々宝砂