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シロシタ  
首つり物語  
シーツ  
白い部屋  
お皿に乗っている  































シロシタ

鈴木パキーネ
 

黒に近い茶色。
どろりとしたそれをかき混ぜる。
これがシロシタと呼ばれている。
全く白くない、これが。

白くなるの?とこどもは尋ねる。
今は黒いね。
茶色よりずっと黒いね。
なめてみようか。ちょっとならいいよ。
ものすごく甘いでしょう。
でもとてもややこしい味。
甘いとだけいいきれる味ではない。

さて今度は浜に出ようか。
えんでん、というのよ。
ここに海の水を撒き散らす。
そしてゆっくりと日が照らす。

やがてここに、ほら。
白い小さなかけらがわきあがる。
なめてごらんなさい。
あはは。しょっぱかったね。
しおっからかったね。
海のくれた味。これもすてきな味。

さあ。

ねっとりと茶色な蜜を機械にかけて。
それをお湯に溶かして。
また分けて。
これを繰り返すのよ。
そしてシロシタは白くなってゆく。

ちっとも白くなかったシロシタの味を
忘れないで。
覚えておきなさい。

そして見えたときにはもう白かった
あの塩の結晶も覚えておきなさい。

その両方があなたの生まれた土地にあったということを
覚えておきなさい。

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首つり物語

栗田小雪
 

結婚する予定の彼は父の死で病み
支えさせてもらうこともできず
私のことなど考えられぬと別れた
4ヶ月後に彼は首を吊り
白い布に包まれて棺に入っていたと聞いた
話したことのない彼の家族からは
通夜と葬儀に来ないでくれと間接的に伝えられ
今までの期間は一体何であったのだろうと
何で今まで一緒にいたのだろうと
今までの結果がこうなのかと脱力し
死にたいのであれば死ねてよかったのではないかと
負の遺産を残した彼を恨みさえした
私はこれからも生きていくのであろう
上塗りに上塗りを重ね
まっしろなキャンバスとはいかないが
納得するような絵を
死ぬまで描き続けているのであろう

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シーツ

宮前のん
 

朝 真新しい光の中で
ベッドのシーツを取り替える
アイロンで糊付けシワもなく
ほのかな柔軟剤の香り
ほら、白って いいよね
だって 汚れもすぐ目立つ
たとえば
失恋したマスカラの涙とか
オネショの時のオシッコとか
介護の時のウンチとか
急に興奮した鼻血とか
いつまでも白いままじゃ居られない
キレイなままじゃ生きられない
毎日なにかに汚れていく
時々何もかも嫌になる
だけど汚れたらまた洗濯して
たぶんほつれたら繕って
なんとか体裁を整えながら
今日もシーツを取り替える

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白い部屋

佐々宝砂
 

白い部屋がありました
手を伸ばしました
何もさわりませんでした

白い部屋だと思いました
白しか見えませんでした
目をぎゅっとつぶりました

ペンキを塗りたくったら
いろんな色のマジックで塗りたくったら
クレヨンで描きまくったら
なんでもいい色をつけることができたら

幸せになれたかもしれません
でもわかりません
白い部屋で白を見上げて

歌いました
言葉のない歌を
歌はどこまでも響いていったと思います

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お皿に乗っている

伊藤透雪
 

少々でこぼこした乳白色の皿
衝動買いした大きめの丸皿

両手に乗せた皿に蠅が1匹
顔を洗っている側に雫も1つ
私の汗なのか
目尻から零れているのか
見つめていると頭が傾いできて
白さにまぶたをしばしばさせる
私も蠅のようだ

さて、
何を盛るか考え中
考えている時間はゆっくりで
私の体内時計は48時間
世界は24時間だ
丸い掛け時計はコチコチと時を
知らせているけれど
私はいつもずれている

ずれたままの意識で
時計の下にキャビネット、
その上に皿を置いたら
大好きな赤い薔薇を一輪
意識と世界のどちらでも
花は赤みを失わずにいる
皿に照らされて血のようにさえ見える
これでいい、と選択を置く

私も生きて世界にいても大丈夫、
蠅さえ必要と、
皿はそのための時計だったのだ
ようやく腑に落ちた
白い月の時間と丸い日の時間
ずれるような私の時間の様子

薔薇は静かに枯れながら
赤は深まり
茎はしっかりと固まる

私もこんな風ならいいかなと
ぼんやり自分の時間で思っている

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2016.10.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂
画像/佐々宝砂