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かくれんぼ  
投石  
緑の沼  
スーザンに続く  































かくれんぼ

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九鬼ゑ女
 

ひとおつ
ふたあつ
みいっつ
   あっ、もうかぞえんで
   ほら、おにが
   こっちをのぞいてるけん
              くきちゃんめっけ
              あっ、また、あたし
              だけど、さっきから
             ずうっと、あたしばっか
       なんで・・・
       「くきちゃんめっけ」

よおっつ
いつうつ
むうっつ
   あっ、もうそんなん
   だめ、やっぱり
   あたしをみちょるけん
くきちゃんの番
              そう、あたしの番
でも、さっきから
              ずうっと、あたしの番
       なんで・・・
       「くきちゃんの番やけん」
なな
やあ
ここの  
   あっ、まってまって
   とうで、おしまいね
   おにが 泣いとるけん
   しくしく
  
   泣いとるけん

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投石

宮前のん
 

ほら起きなさい、と
布団をめくったら
息子が石になっていた
くしゃくしゃパジャマの真ん中で

小さな石だ柔らかい色の
まだ磨かれも割れてもいない
服着せようにもサイズが合わない
朝食だって食べてくれない

学校でイジメに遭ったせいか
夫に色々言われたせいか
小突いても全く反応がない
どうしたらいいか困っていると
夫がおもむろに石をつかみ
窓から学校の方へ放り投げた
小石はきゅーんと鳴きながら
放物線を描いて飛んでいき

慌てて飛び出て追いかけたけど
それきり石は帰らなかった


 

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緑の沼

佐々宝砂
 

湖沼地帯に生まれて育った
蚊はうんざりする隣人で
魚は日々の糧で
クレソンは新鮮な春の使者

秋に入ろうとする季節
いつもの日課を淡々とこなす
水汲み
火熾し
馬たちのボロ捨て
静かな日暮れ

山に続く道
松虫草が青く
コオロギは愛を歌う
恋かもしれないけど
違いがわからない

一度も登ったことのない山
そのむこうの
一度も行ったことのない町

何かがいやになったわけではない
あのひとのことも
こどもたちのことも

でも
今だよと沼が誘う

さようなら

死ぬわけではないのだと
右肩にすわった妖精が
ささやく

さようなら

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スーザンに続く

鈴木パキーネ
 

鏡のむこうに不思議の国があると言った人は
とんでもないロリコン親父だったのよね
衣装だんすの奥に見知らぬ国があると言った人は
果たしてどうだったのかしら記録はあるのかな

あたしはきちんと生きてゆく
お裁縫だってばっちり練習したんだから
新しいスカートの千鳥刺繍は自分で縫ったの
巻き毛をくるんとすてきにカールさせるやりかたも
肌色にぴったりなルージュの選び方も
おばかな頭でできることじゃないんだから本当は

いつか近いうちにあたしはすてきな人と結婚して
女の子と男の子と女の子を生むつもり
こどもを生むって簡単なことじゃないから
おかあさんもおばあさんもそういってた
おまえしかいないのだなんて愚痴はききたくないけど
いないのは確かだからしかたない

女の子と男の子と女の子を生んだら
あたし毎夜おはなししてやるの
いしょたんすのおはなしかもしれないね
まだわからない

でもあたしは信じてる
あたしに続く女の子たちがたくさんたくさんいることを
いまから百年あとにも
きっときっと

ログアウトしたのはあたしじゃない
あたしのきょうだいたち

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2016.9.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂
画像/佐々宝砂